星降る森で、猫と過ごす癒しのスローライフ

コテット

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第36話 胸の奥に残る灯

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夜は少しずつ薄れていった。

猫たちの額に灯っていた小さな光は、次々に消えていき、
それがまた静かに森へ溶けていく。

旅の女はルチルを膝に抱きながら、ゆっくりと目を開けた。

枝葉の隙間から細い朝の光が落ちてきて、夜の残り香をわずかに追いやる。

(……夜が、終わるのね)

少しだけ寂しい気持ちが胸の奥を過った。

でも膝の上のルチルが小さく喉を鳴らし、短い尻尾を揺らすのを感じて、自然と微笑みがこぼれた。

「ありがとう……ルチル」

囁くと、ルチルは瞳を細めて、小さく鼻を鳴らした。

ルチルが膝から降りると、その後を追うように三毛のプティが軽やかに石の上を駆け、
黒猫ノワールは静かに森の奥へ歩いていった。

(また……夜が来たら、逢えるわね)

胸の奥でそっと小さく灯が揺れた。

宿へ戻る道を歩くと、市場の方からはいつものように屋台を開く音が聞こえ始めていた。
木の台が置かれる低い音、籠の中で果物が転がる音、それが胸の奥の灯をやさしく撫でた。

市場へ着くと、果物屋の女主がにこにこと笑って声をかけてきた。

「おはよう、お客さん。昨日も森に行ってたんだろ?」

「ええ……また星猫の夜だったの」

「そうかい……そりゃあいい夜だったね。あんたの顔を見りゃわかるよ」

「私の顔……?」

「森に来たばかりの頃とはまるで違う。……今はもう、猫たちと同じ顔してる」

そう言って女主は軽く笑った。

旅の女は照れたように小さく笑い返し、胸にそっと手を当てた。

そこには昨夜、ノワールとルチルが置いていった小さな光がまだ静かに揺れていた。

(アステリア様……)

心の中でそっと呼びかける。

(ちゃんと……届いていますか?)

返事はない。
でも市場を抜ける風の中に、森の匂いと一緒に確かにあの夜の気配がまだあった。

市場を歩くと、三毛のプティがまた子供に追いかけられていた。
灰色のルチルは菓子屋の籠のそばで丸くなり、目だけをこちらへ向けて細めた。

(今日も……ありがとう)

小さく心で呟くと、胸の奥の灯がそっと脈打った。

市場には果物の甘い香り、人々の柔らかな声、猫たちの尾がいくつも立っていた。

その全てがやさしくて、また夜が来るのが少し楽しみになった。

旅の女は小さな籠を抱え直し、次の屋台へと歩き出した。
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