星降る森で、猫と過ごす癒しのスローライフ

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第45話 胸に響く声

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夜はゆっくりと静かに遠ざかっていった。

森を覆っていた無数の星の粉は、枝葉の間を最後のひと筋ずつ流れ、
それが消える頃には、もう森には夜の匂いはほとんど残っていなかった。

旅の女は胸にそっと手を当てて立っていた。

胸の奥の小さな灯はまだそこにあった。
昨夜、星神アステリアの声がはっきりと胸の中で響き、
それが柔らかく触れてくれた感覚がまだ残っていた。

「……ありがとう、アステリア様」

小さく呟くと、足元のルチルが短く鳴き、小さく尾を揺らした。

黒猫ノワールも枝の影からこちらを見つめ、ゆっくりと目を細める。

(また夜が来たら……)

自然とそう思う自分がいた。

もうこの森が怖くなかった。

ルチルが軽やかに森を抜け、市場の方へ走っていく。
ノワールもそれに続き、旅の女は自然に二匹の後を追った。

市場はもういつものように屋台が並び、パンの香ばしい匂いが空気を満たしていた。
葡萄の匂い、甘い菓子の匂い、それが胸の奥にそっと触れた。

「おはよう、お客さん」

果物屋の女主がにこにこと籠を抱えて声をかけてくる。

「昨日も森へ行ってたんだろ?」

「ええ……また星猫の夜だったの」

「そうかい。……いい顔してるよ」

その言葉に胸がまた小さく揺れた。

女主は小さな葡萄の房を籠に入れてくれながら、そっと目を細める。

「猫たちもきっと喜んでるよ。……あんたがこの森にいてくれること」

旅の女は胸にそっと手を当て、小さく笑った。

(……私も、ここにいられて良かった)

市場を歩くと、子供たちが三毛のプティを追いかけて遊んでいた。
灰色のルチルは菓子屋の籠の影で丸くなり、目だけをこちらへ向けて細める。

(アステリア様……)

心の奥で小さく呼ぶ。

(昨日の言葉……忘れない)

『お前の涙は星になり、その笑みは私の夜を照らす。
 だから怯えずに、また夜を歩いておくれ』

胸の奥の灯が小さく脈を打った。

それだけで今日という日が少しだけ優しくなった。

旅の女は籠を抱え直し、またゆっくりと市場を歩いた。

遠くで神殿の香が細く昇っていくのが見えた。
白猫ミルは巫女リルサの膝に寄り添い、その額はまだほんのわずかに星の匂いを残している気がした。

(また夜が来たら……)

自然に微笑む。

それができる自分になれたことが、何よりも嬉しかった。
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