星降る森で、猫と過ごす癒しのスローライフ

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第59話 再び祭壇の夜へ

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市場は静かに灯を落とし、屋台には布が掛けられていった。
遠くで子供たちの笑い声が最後にひとつ響き、それが夜気に溶けて消えた。

旅の女は胸に手を当て、小さく息を吐いた。

(……また夜が来る)

胸の奥の灯は穏やかに、けれどはっきりとそこにあった。

その小さな脈動が夜を待ちわびるように熱を帯びる。

「ノワール……ルチル……」

名前を呼ぶと、いつものように灰色のルチルが木陰から現れ、小さく尾を揺らした。
ノワールも暗がりから静かに姿を現し、その深い瞳でじっとこちらを見つめる。

自然に歩き出すと、二匹は森の奥へ導くように進んでいった。

森の入り口に立つと、冷たい夜気が胸を撫でた。
土と葉の匂い、その奥に微かに混じる星の気配が胸の奥の灯を小さく揺らす。

枝葉の間から細い星の粉が落ち、それが髪に触れ、肩に触れ、また空へ昇っていった。

ルチルは神殿の方へは行かず、昨夜と同じように森の奥へ進んだ。

(また……あの場所へ)

胸の奥の灯が確かに強く脈を打った。

やがて地面の裂け目が見えた。

そこからは細い星の光がゆっくりと溢れ、夜気を淡く照らしていた。

ルチルが短く鳴き、裂け目に飛び込む。

ノワールもその後を追い、旅の女はそっと胸に手を当てた。

(この灯と一緒に……また)

身体を裂け目に預ける。

柔らかな闇が全身を撫で、胸の奥の灯が深く呼吸をした。

気がつけば星の洞窟に立っていた。

石壁に埋まる無数の星晶石が淡く脈動し、その光が天井へ川のように昇っていく。

ルチルは細い道を歩き、ノワールがその後をゆっくりとついていく。

旅の女も自然に胸の灯を抱きながら歩を進めた。

やがて洞窟の奥にある古い祭壇が見えた。

苔むした石が積み重なり、その中央には深い夜空のような星晶石が据えられている。

無数の小さな星がその中で生まれては消え、それが静かに脈を打っていた。

胸の奥の灯が強く脈動した。

(アステリア様……)

自然に小さく名前を呼ぶ。

その瞬間、星晶石が深く光を抱き、洞窟全体が小さく呼吸をした。

(……よく来たね)

星神アステリアの声が洞窟中に柔らかく響いた。

(お前の胸の灯は、確かにここにある。
 それは私の欠片であり、この森の命でもある)

胸に手を当てると、そこがはっきりと熱を持った。

(怯えなくていい。
 お前がこの森を歩くたび、私はその灯を見守っている)

ノワールがそっと額を寄せ、ルチルが膝へ額を押し付けた。

その温もりが胸の奥の灯と一つになり、星晶石の脈動と静かに重なった。

(また夜が来るたびに、お前はここへ来ればいい。
 私がこの夜を抱くように、お前もまたこの灯を抱きしめておくれ)

自然に涙が零れた。

その涙は頬を伝い、祭壇の上へ落ち、小さく光って星晶石に吸い込まれた。

「……ありがとう、アステリア様」

小さな声が洞窟に溶け、星晶石が短く脈を打った。

その瞬間、洞窟中の光が小さく波紋を描き、無数の星たちが祝福するように瞬いた。

胸の奥の灯は確かにそこにあった。

そして旅の女はまたそっと目を閉じ、その温かさを胸いっぱいに抱いた。

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