星降る森で、猫と過ごす癒しのスローライフ

第82話 星の洞窟で灯を深く抱く

夜はまた静かに森を満たしていった。

枝葉の間を細い星の粉が舞い、土の匂いが夜気に溶けて、胸の奥へ深く届く。

旅の女は胸に手を当て、小さく息を吐いた。

（この胸の灯……昨夜よりもずっと強く、大きい気がする）

昼間、市場で果物の匂いを吸い込み、人々の笑顔を見つめたときにも、
胸の奥の灯は静かに脈を打っていた。

（でも……夜になると、もっとはっきりする）

「ノワール……ルチル……」

名前を呼ぶと、ルチルが暗がりから軽やかに現れ、小さく鳴いた。

ノワールは少し離れた木陰から立ち上がり、その深い瞳をこちらに向ける。

胸の奥の灯がそっと脈を打つ。

（行こう。また……あの場所へ）

自然に足が森の奥へ向かった。

枝葉を抜け、苔の広場を過ぎ、やがて見慣れた裂け目が夜気を吐いていた。

ルチルが短く鳴き、ノワールは尾を揺らしながら裂け目を覗き込む。

旅の女は胸に手を当て、小さく息を吐いた。

（この灯と一緒に……）

そっと身体を裂け目に預けると、柔らかな夜気が全身を包み、胸の奥の灯が深く呼吸をした。

次の瞬間、星の洞窟に立っていた。

洞窟はいつもよりも静かだった。

石壁に埋まる星晶石は淡く脈を打ち、その光は洞窟全体に柔らかな呼吸を描いていた。

ルチルは細い道を先へ進み、ノワールはその後をゆっくりと歩く。

旅の女も自然に胸の灯を抱きながら、その後を追った。

やがて祭壇が見えた。

そこには小さな星の粉が降りており、星晶石はまるで夜空を閉じ込めたように深い光を抱いていた。

胸の奥の灯がそっと脈を打つ。

（この場所は……やっぱり特別）

そっと星晶石へ近づくと、その光が小さく波紋を描き、胸の奥の灯に触れた。

次の瞬間――

（お前はよくここへ来てくれるね）

星神アステリアの声が胸の奥からそっと響いた。

（お前の胸の灯は夜そのもの。森を撫で、猫たちの額を照らし、私の孤独を少しずつ溶かしてくれる）

胸の奥が小さく熱を持つ。

（怯えずに、この灯を抱いておくれ。お前がこうして星晶石の前で息をするだけで、
　私は遠い夜空のどこかで少しだけ寂しくなくなるんだ）

自然に涙が滲んだ。

けれどそれは悲しみではなく、胸を静かに満たす柔らかな光だった。

「……ありがとう、アステリア様」

小さく囁くと、その声が洞窟に溶け、星晶石がそっと優しく光った。

ルチルが短く鳴いて胸に額を寄せ、ノワールはそっと尾を絡めた。

その温もりが胸の奥の灯とひとつになり、洞窟全体の脈動と重なった。

（お前の胸の灯がこの森を守り、猫たちの夜を照らし、私の欠片を抱き続けてくれている）

（どうか……これからも怯れずに、この夜を歩いておくれ）

胸の奥の灯が深く脈を打ち、その光が洞窟の星晶石へ小さな波を送った。

洞窟はそれに応えるようにそっと呼吸し、静かに小さな光を溢れさせた。

旅の女はそっと目を閉じ、胸に手を当ててその灯を抱きしめた。

（これからもずっと……怯えずに、この森を、夜を、猫たちを抱いていこう）

その決意に胸の奥の灯ははっきりと脈を打ち、星晶石が祝福するように柔らかく光った。