婚約破棄はご褒美でした〜異世界でスイーツ職人始めます〜

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第14話:小さなお菓子屋に集う人々

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 数日が経つうちに、町のあちこちで子どもたちの声が弾むようになった。

 

 「ねえ知ってる? ミルフィのお姉さんのお店!」

 「うん、わたしもクッキー作らせてもらったんだ!」

 

 市場を歩けば、そんな小さな声が花の種のように飛び交っていた。

 

 (少しずつ、この町に私のお菓子屋が根付いていってる……)

 

 そう思うと、胸の奥が自然とあたたかくなる。

 ある日、買い物籠を持った年配の奥さんが、少し照れたように店に入ってきた。

 

 「噂を聞いて来てみたんだけどね……ここのお菓子は子どもたちだけじゃなく、大人も楽しめるのかい?」

 

 「もちろんです。お疲れの時に甘いものはぴったりですから」

 

 私が微笑んでそう答えると、奥さんは嬉しそうに目を細めた。

 

 そして焼き上がった小さなタルトを一口食べ、目を丸くして言った。

 

 「……まあ、これは……なんだか昔、お祭りで食べたお菓子を思い出すよ」

 

 その言葉を聞いただけで、心の奥がじんわりと熱くなった。

 

 (人の記憶にまで寄り添えるお菓子が作れるなんて……)

 その日を境に、大人たちも少しずつ店へ足を運ぶようになった。

 

 「ここのお菓子は優しい味だってね」

 「いつも疲れて帰るんだけど、甘い匂いに誘われちゃって」

 

 みんな気恥ずかしそうに言い訳しながらも、最後には笑顔で帰っていく。

 

 その姿を見るたびに、この店を始めて本当によかったと心から思った。

 夕方になると、いつものように扉が開く。

 

 「……また来たぞ」

 

 低く落ち着いた声。

 

 視線を向けると、そこにはレオニードが立っていた。

 

 けれど今日の彼は少し様子が違った。

 

 「いらっしゃいませ。今日は何にします?」

 

 そう問いかけると、レオニードは少し口ごもり、視線をそっと店内へと巡らせた。

 

 「……いや、特に……」

 

 「……?」

 

 その視線の先には、カウンターの隅で片付けをする私と、テーブルを拭くミルフィ、そして談笑する町の人々。

 

 (ただ……この空気を感じに来たの?)

 

 そんな風に思えて、自然と胸がくすぐったくなる。

 「良かったら、ここで少し休んでいってくださいな」

 

 私がそう言うと、レオニードは少しだけ驚いた顔をした。

 

 けれどすぐに、ごくりと喉を鳴らし、ぎこちなくカウンター席に腰を下ろした。

 

 粉をはたいた指で頬を押さえながら、ふっと笑う。

 

 (なんだか、こうして居てくれるのが当たり前になってきたわね)

 

 視線を上げると、不意にレオニードと目が合った。

 

 大きな瞳が少し見開かれ、すぐに逸らされる。

 

 「……な、なんだ」

 

 「ふふっ、別に」

 

 そう答えながら、胸の奥が小さく跳ねる。

 彼はいつも不器用で、何を考えているのかわからない。

 けれど、わざわざこんな小さな店に毎日足を運び、黙っていてもここに居てくれる。

 

 そのことが、言葉にならないほど嬉しかった。

 外ではすっかり夕暮れが進み、通りにはランタンの光がぽつぽつと灯り始めていた。

 

 店の中には甘いお菓子の匂いと、人々の笑い声。

 

 レオニードは視線を落としながらも、どこか安心したように微かに息をつく。

 

 (この場所が、きっとあの人にとっても小さな居場所になっていく……)

 

 そう思うと、胸の奥がじんわりと温かくなった。

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