婚約破棄はご褒美でした〜異世界でスイーツ職人始めます〜

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第19話:護る背中と、からかわれた心

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 祭りの翌日。
 町の通りにはまだ提灯がいくつも残され、花飾りの名残がひらひらと風に揺れていた。

 

 店の中は朝からとても賑やかだった。

 祭りの日に初めてお菓子を食べたという人が、家族を連れて訪れたり、

 「昨日のあれが忘れられなくてね」と笑う奥さんがまた買いに来たり。

 

 ミルフィは張り切って店先で子どもたちとおしゃべりし、テーブルを拭く手もなんだか楽しそうだった。

 「お姉さん、今日もすっごくお客さん来るね!」

 

 「そうね、びっくりするくらい」

 

 忙しさの合間にそう言い合って笑う。

 店はまるで小さな市場みたいに声で満ちていて、それを聞いているだけで胸が弾んだ。

 

 (本当に……この町に来てよかった)

 

 そんなとき。

 ふと店の戸口で誰かの大きな影が揺れた。

 

 「……また来たぞ」

 

 低い声。

 

 顔を向けると、そこにはやっぱりレオニードがいた。

 いつものように腰に剣を下げ、少しぶっきらぼうな顔で。

 

 「いらっしゃいませ。今日はどれにします?」

 

 問いかけると、レオニードは少しだけ視線を泳がせ、それから「……いつものやつを」と低く呟いた。

 「はい、焼きたてのショートブレッドです」

 

 皿を差し出すと、レオニードはそれを受け取り、ほんの一瞬だけ表情を緩めた。

 (こういう顔、やっぱり悪くないわね)

 

 思わずそう思ってしまう。

 そのとき、ちょうど店に入ってきた婦人たちがレオニードに気づいて声を上げた。

 

 「あらまあ騎士様、今日も来てるんですの?」

 

 「おやおや、お姉さんのお菓子がそんなにお気に召したのかしら?」

 

 「ふふふ……それとも、お菓子を作っている“お姉さん”がお目当て?」

 

 

 ひゅうっと軽口を飛ばされ、レオニードは明らかにぎくりと肩を震わせた。

 

 そしてちらりとこちらを一瞬だけ見てから、急に視線を逸らし頬を微かに赤くする。

 

 「……くだらん」

 

 そう低く言い捨てながらも、その耳はほんのり赤かった。

 (な、何よ……そんな顔されたら、私まで……)

 

 胸の奥が熱くなり、慌てて視線をカウンターの下に落とす。

 さらにその瞬間。

 店の奥で子どもが誰かに押されてよろけ、危うく熱い皿を倒しかけた。

 

 「わっ……!」

 

 思わず私が一歩前に出た――そのすぐ脇に、ひやりと冷たい鎧の縁が当たる。

 

 気づけばレオニードが無言で私の前に立っていて、その大きな背中が子どもと私を自然に庇っていた。

 

 「だ、大丈夫よ騎士様、そこまでしなくても……」

 

 「……無理をするな」

 

 その声は小さいのに、妙に深く胸に届いた。

 

 店の奥から、婦人たちのくすくす笑う声がまた響く。

 

 「まあまあ……やっぱり騎士様、そういうことなんじゃないの?」

 

 「そうねえ……ふふっ」

 

 (もう、ほんとうに……)

 

 どうして心臓がこんなに速くなるんだろう。

 

 祭りの日の、腕に抱き留められた感触がまた蘇ってきて、

 じんわりと胸が熱くなる。

 ふと視線を上げると、レオニードと目が合った。

 いつもよりほんの少し困ったように、でも確かに私を見つめる目。

 

 (……だめだわ、また、心が乱される)

 

 そっと胸に手を当て、吐く息を整えた。
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