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第31話:甘い誇りと、見つめる視線
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それから少しして、店の戸口が賑やかに揺れた。
「お姉さーん、今日のお菓子は何?」
元気な子どもたちの声。
小さな籠を手にした女の子や、泥だらけの膝をした少年が次々に入ってきて、テーブルの上を覗き込んだ。
「今日は、シナモンを入れた特別なクッキーよ」
「わあ!」
小さな歓声が上がる。
その様子を見ているだけで胸の奥がじんわりと温かくなる。
「でもね、今日のクッキーはちょっと特別なの」
私がそう言うと、子どもたちは一斉にこちらを見上げた。
「なんで?」
「実は……このクッキー、騎士様が手伝ってくれたのよ」
「ええっ!」
子どもたちの視線が一斉に店の奥――少し不器用に道具を片付けていたレオニードへと向かった。
「ほんとに? 騎士様が?」
「すっごーい! 強いだけじゃなくて、お菓子まで作れるんだ!」
「……騒ぐな」
レオニードは顔を赤くしながらそっぽを向いたが、その耳まで真っ赤になっている。
(もう……可愛いったら)
思わず口元を手で隠しながら、頬が緩んでしまう。
「いただきまーす!」
子どもたちがわいわいとクッキーを手に取って口へ運ぶ。
「わっ……おいしい!」
「これ、いつものよりちょっと大きいね。騎士様が作ったから?」
「ははっ、そうかもね」
楽しそうに笑う声が店に満ちる。
「……お前の菓子だから、美味いんだ」
ぼそりとレオニードが呟いた。
「え?」
「俺は……粉を量っただけだ」
でも、その少しだけ誇らしげに見える横顔がなんともいえず胸を締めつけた。
(騎士様も、嬉しいのね)
自然にそんな風に思ってしまう。
その後も町の婦人たちがやってきては、
「あらまあ、今日は騎士様が作ったお菓子ですって?」
「ますますここに通いたくなっちゃうわね」
と楽しそうに笑い、レオニードはそのたびに小さく咳払いをして視線を逸らした。
けれどほんの少しだけ、肩が誇らしげに見えた。
「騎士様」
そっと声をかけると、レオニードが少し緊張したようにこちらを見た。
「ありがとう。私……すごく嬉しかったです」
「……なんだ、その、礼など……」
目を逸らして言葉を濁しながらも、耳がまた赤くなっていく。
その様子がどうしようもなく愛おしくて、胸の奥が甘く疼いた。
夕方、子どもたちが帰って店に静けさが戻るころ。
ふと視線を上げると、レオニードも私を見ていた。
目が合うとまた慌てて視線をそらす。
(それなのに、なんでこんなに嬉しいの)
胸に手を当ててそっと息を吐く。
心臓はずっと、焼きたてのお菓子みたいに熱かった。
「お姉さーん、今日のお菓子は何?」
元気な子どもたちの声。
小さな籠を手にした女の子や、泥だらけの膝をした少年が次々に入ってきて、テーブルの上を覗き込んだ。
「今日は、シナモンを入れた特別なクッキーよ」
「わあ!」
小さな歓声が上がる。
その様子を見ているだけで胸の奥がじんわりと温かくなる。
「でもね、今日のクッキーはちょっと特別なの」
私がそう言うと、子どもたちは一斉にこちらを見上げた。
「なんで?」
「実は……このクッキー、騎士様が手伝ってくれたのよ」
「ええっ!」
子どもたちの視線が一斉に店の奥――少し不器用に道具を片付けていたレオニードへと向かった。
「ほんとに? 騎士様が?」
「すっごーい! 強いだけじゃなくて、お菓子まで作れるんだ!」
「……騒ぐな」
レオニードは顔を赤くしながらそっぽを向いたが、その耳まで真っ赤になっている。
(もう……可愛いったら)
思わず口元を手で隠しながら、頬が緩んでしまう。
「いただきまーす!」
子どもたちがわいわいとクッキーを手に取って口へ運ぶ。
「わっ……おいしい!」
「これ、いつものよりちょっと大きいね。騎士様が作ったから?」
「ははっ、そうかもね」
楽しそうに笑う声が店に満ちる。
「……お前の菓子だから、美味いんだ」
ぼそりとレオニードが呟いた。
「え?」
「俺は……粉を量っただけだ」
でも、その少しだけ誇らしげに見える横顔がなんともいえず胸を締めつけた。
(騎士様も、嬉しいのね)
自然にそんな風に思ってしまう。
その後も町の婦人たちがやってきては、
「あらまあ、今日は騎士様が作ったお菓子ですって?」
「ますますここに通いたくなっちゃうわね」
と楽しそうに笑い、レオニードはそのたびに小さく咳払いをして視線を逸らした。
けれどほんの少しだけ、肩が誇らしげに見えた。
「騎士様」
そっと声をかけると、レオニードが少し緊張したようにこちらを見た。
「ありがとう。私……すごく嬉しかったです」
「……なんだ、その、礼など……」
目を逸らして言葉を濁しながらも、耳がまた赤くなっていく。
その様子がどうしようもなく愛おしくて、胸の奥が甘く疼いた。
夕方、子どもたちが帰って店に静けさが戻るころ。
ふと視線を上げると、レオニードも私を見ていた。
目が合うとまた慌てて視線をそらす。
(それなのに、なんでこんなに嬉しいの)
胸に手を当ててそっと息を吐く。
心臓はずっと、焼きたてのお菓子みたいに熱かった。
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