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第13話:概念の剣、神の兵を断つ
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王都北方、聖野の先――
王国軍が築いた前線拠点を中心に、白銀の巨影が三つ、静かに待機していた。
それが《神の兵(セラフ・アーマー)》だった。
人間より二倍はあろう巨体。
聖印が刻まれた白銀の鎧は一切の汚れを寄せ付けず、背に輝く翼のような魔力炉が淡く光を放っている。
その無機質な瞳がゆっくりと動く。
「命令確認――敵性存在。冥府軍。概念違反対象。排除開始」
その声はまるで空間そのものを振動させる呪的音。
次の瞬間、神の兵の一体が地を蹴り、冥府軍へと突進した。
◆
「来たか……!」
カイルが叫ぶと同時に、ジルとエリュシアが前へ出た。
「《紅蓮の王剣・灰燼裂き》!」
エリュシアの炎剣が神の兵を迎え撃つ。
だが、その白銀の鎧に刃が触れた瞬間、炎が弾け飛び、剣が軋んだ。
「なっ……これは……?」
「その鎧は、“物理”でも“魔法”でも砕けぬ。神々がその基底に“純潔”という概念を刻んだからだ」
冥府の影から、一人の男が歩み出る。
白髪、黒の外套。
そして、その双眸には色彩がなかった。
《概念を喰らう者》――ソルド=アイン。
「だが、それを覆すのが我が役目」
ソルドが手を掲げると、そこに現れたのは剣のようで剣ではない、“虚無の断片”だった。
何の装飾もなく、光すら吸い込む闇の刃。
「それは……剣か?」
「違う。これは“記号だ”。
剣という概念そのものを疑似的に構築し、対象の概念構造を切断するもの」
言葉と同時に、ソルドが消えた。
次の瞬間――
神の兵の胴体に、黒い線が走る。
「……?」
神の兵は動きを止めた。
そして、身体を構成する光と霊素がゆっくりと分解され、砂のように崩れていく。
「概念矛盾。維持不能。システム停止……」
淡々とした声を最後に、神の兵は完全に崩れ去った。
「……冗談だろ。あの“神の兵”が、一太刀で……」
王国側の指揮官たちが顔色を失う。
◆
カイルがゆっくりとソルドに近づいた。
「確かに、“記録外”の存在だな。
神も、冥府も、どちらにも属さない……だから、神の概念を食える」
「それが我だ。記録にも残らず、歴史にも認識されない。
だが、お前が呼んだ時点で、俺はお前の“剣”だ。望むなら、全てを喰らおう」
その声には欲望も恐怖もなかった。
ただ、“そうあるからそこにいる”という、存在理由だけ。
「……頼む。神の兵を、討ち破れ」
「了解した。」
◆
残る二体の神の兵が、一斉にソルドに向けて光を集束させる。
「――《聖光干渉槍》」
それは、神の兵が“存在そのもの”に向けて放つ概念攻撃。
ソルドの体が光に包まれ、空間ごと焼き潰される。
だが――
「……遅い」
光の中から、黒い腕が突き出された。
ソルドはすでに神の兵の背後に立っていた。
「“純潔”という概念に、対義を刻む。
――《穢れ》」
瞬間、神の兵の聖印が黒く染まり、輝きが砕ける。
「異常構造認識……エラー……」
そして、崩壊。
残る二体の神の兵もまた、ソルドの刃によって概念を断たれ、砂のように崩れ去った。
◆
こうして、冥府軍は初めて“神の兵”を破壊した。
戦場に立つ者たちは誰も声を上げなかった。
神が残した兵を、死者が、そして“記録外”が屠った光景は、それほどまでに絶望的だった。
カイルは静かに呟く。
「……これが、“神の終わり”の始まりかもしれないな」
それを聞き、ソルドはほんのわずかに唇を歪めた。
「……面白いな。世界が恐れて封印した俺を、戦いに使うとは。
お前の冥府は、神よりよほど狂っている」
「それでもいい。俺は……この世界に“生と死の対価”を問い直したい」
冥府の軍勢が再編され、カイルは再び王都への進軍を開始する。
王太子エリアスは、この報を聞いて、なお余裕の笑みを浮かべた。
「いいだろう、カイル。ならば次は――“神そのもの”をお前にぶつけてやる」
《世界審判編》、なおも過熱。
―――――――――――――――――――――――――
あとがき
お読みいただきありがとうございます。
第13話では、ついに《神の兵》と《概念を喰らう英霊ソルド》が激突。神々が遺した兵器を、冥府の“記録外”が討ち破り、世界の均衡が明確に崩れ始めました。
王国軍が築いた前線拠点を中心に、白銀の巨影が三つ、静かに待機していた。
それが《神の兵(セラフ・アーマー)》だった。
人間より二倍はあろう巨体。
聖印が刻まれた白銀の鎧は一切の汚れを寄せ付けず、背に輝く翼のような魔力炉が淡く光を放っている。
その無機質な瞳がゆっくりと動く。
「命令確認――敵性存在。冥府軍。概念違反対象。排除開始」
その声はまるで空間そのものを振動させる呪的音。
次の瞬間、神の兵の一体が地を蹴り、冥府軍へと突進した。
◆
「来たか……!」
カイルが叫ぶと同時に、ジルとエリュシアが前へ出た。
「《紅蓮の王剣・灰燼裂き》!」
エリュシアの炎剣が神の兵を迎え撃つ。
だが、その白銀の鎧に刃が触れた瞬間、炎が弾け飛び、剣が軋んだ。
「なっ……これは……?」
「その鎧は、“物理”でも“魔法”でも砕けぬ。神々がその基底に“純潔”という概念を刻んだからだ」
冥府の影から、一人の男が歩み出る。
白髪、黒の外套。
そして、その双眸には色彩がなかった。
《概念を喰らう者》――ソルド=アイン。
「だが、それを覆すのが我が役目」
ソルドが手を掲げると、そこに現れたのは剣のようで剣ではない、“虚無の断片”だった。
何の装飾もなく、光すら吸い込む闇の刃。
「それは……剣か?」
「違う。これは“記号だ”。
剣という概念そのものを疑似的に構築し、対象の概念構造を切断するもの」
言葉と同時に、ソルドが消えた。
次の瞬間――
神の兵の胴体に、黒い線が走る。
「……?」
神の兵は動きを止めた。
そして、身体を構成する光と霊素がゆっくりと分解され、砂のように崩れていく。
「概念矛盾。維持不能。システム停止……」
淡々とした声を最後に、神の兵は完全に崩れ去った。
「……冗談だろ。あの“神の兵”が、一太刀で……」
王国側の指揮官たちが顔色を失う。
◆
カイルがゆっくりとソルドに近づいた。
「確かに、“記録外”の存在だな。
神も、冥府も、どちらにも属さない……だから、神の概念を食える」
「それが我だ。記録にも残らず、歴史にも認識されない。
だが、お前が呼んだ時点で、俺はお前の“剣”だ。望むなら、全てを喰らおう」
その声には欲望も恐怖もなかった。
ただ、“そうあるからそこにいる”という、存在理由だけ。
「……頼む。神の兵を、討ち破れ」
「了解した。」
◆
残る二体の神の兵が、一斉にソルドに向けて光を集束させる。
「――《聖光干渉槍》」
それは、神の兵が“存在そのもの”に向けて放つ概念攻撃。
ソルドの体が光に包まれ、空間ごと焼き潰される。
だが――
「……遅い」
光の中から、黒い腕が突き出された。
ソルドはすでに神の兵の背後に立っていた。
「“純潔”という概念に、対義を刻む。
――《穢れ》」
瞬間、神の兵の聖印が黒く染まり、輝きが砕ける。
「異常構造認識……エラー……」
そして、崩壊。
残る二体の神の兵もまた、ソルドの刃によって概念を断たれ、砂のように崩れ去った。
◆
こうして、冥府軍は初めて“神の兵”を破壊した。
戦場に立つ者たちは誰も声を上げなかった。
神が残した兵を、死者が、そして“記録外”が屠った光景は、それほどまでに絶望的だった。
カイルは静かに呟く。
「……これが、“神の終わり”の始まりかもしれないな」
それを聞き、ソルドはほんのわずかに唇を歪めた。
「……面白いな。世界が恐れて封印した俺を、戦いに使うとは。
お前の冥府は、神よりよほど狂っている」
「それでもいい。俺は……この世界に“生と死の対価”を問い直したい」
冥府の軍勢が再編され、カイルは再び王都への進軍を開始する。
王太子エリアスは、この報を聞いて、なお余裕の笑みを浮かべた。
「いいだろう、カイル。ならば次は――“神そのもの”をお前にぶつけてやる」
《世界審判編》、なおも過熱。
―――――――――――――――――――――――――
あとがき
お読みいただきありがとうございます。
第13話では、ついに《神の兵》と《概念を喰らう英霊ソルド》が激突。神々が遺した兵器を、冥府の“記録外”が討ち破り、世界の均衡が明確に崩れ始めました。
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