辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

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第3話 動き出す影、王都からの使者

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「……リーナ様、来客です。王都からの使者を名乗っております」

ジークがそう告げたのは、朝靄の晴れぬ時間帯だった。
いつもなら笑顔を向けてくる彼の表情が、どこか曇っている。

「名乗りは?」

「“王家直属使節補佐、ヴィルヘルム・ダイン”と……。おそらく、ただの伝令ではありません」

私は小さく息を吐いた。
早かった、と思う。
真実の霧による暴露から、まだ一月も経っていないというのに。

「分かりました。応接に通して」

私は手を止めていた調薬器具を整え、礼服を羽織ってから庵の一角にある応接間へ向かう。
そこには、灰色の旅装に身を包んだ若い男が立っていた。
切れ長の目と鋭利な輪郭、そして冷ややかに整えられた礼節の所作。
彼の立ち姿には、確かに“王都の空気”が纏わりついていた。

「侯爵令嬢リーナ・アークレイン殿。初めまして、私は王家使節補佐、ヴィルヘルム・ダイン。王家より預かりし書簡をお持ちしました」

「書簡?」

「……王宮にて、貴女の調薬技術が国家機密に相当する可能性がある、との協議がなされております」

彼は皮巻きの書簡を差し出した。
封蝋には、王家の紋章。
私は受け取らず、ただ目を細める。

「それは命令か、要請か」

「“協力願いたい”との文面です。ただし、拒否した場合は、監察官の派遣と財産調査の動きが予想されます」

「……脅迫ね」

ヴィルヘルムの眉が一瞬だけ動いたが、すぐに平静に戻る。

「私にはただ、書簡を届ける役割があります」

「なら、受け取ったことにはしてあげるけれど、返答は同封しない。伝えてくださる?」

「……かしこまりました」

冷静で静かな、火花のようなやり取りだった。
けれどその裏で、私は確かに感じていた。
――あの義妹、まだ諦めていない。

◆ ◆ ◆

ヴィルヘルムが庵を後にしたあと、私はジークに事情を話した。
彼は少しだけ、唇を噛んだ。

「……貴族というのは、これほどまでに、しつこく人の価値を奪おうとするのですか」

「ええ。知識や力、名誉。それを“手放した者”がいれば、必ず誰かがそれを拾いにくる」

「なら、どうしますか。リーナ様は……また王都に戻るつもりですか?」

私は首を振った。

「戻らない。あそこは私の居場所ではない。でも、放っておく気もない」

私は立ち上がり、薬棚からいくつかの小瓶を手に取った。
中には、先日調合した《ブルーム・リリィ》――精神の動揺を鎮める青い液体が入っている。

「使者が来たということは、向こうは今、“こちらの出方”を探っている段階。ならば、こちらから処方してあげればいいの」

「処方……?」

「ええ、王都に、“鎮静”と“冷静”を促す処方箋を送るの。真っ向勝負じゃなく、じわじわと効いていくやつを」

私はその瓶を、手紙とともに包んだ。
宛先は、“王宮医務局”。
王家直属の医師団――つまり、義妹カティアの腹心のひとりが仕切っている組織。
彼らに、この薬が必要になる日が、そう遠くないと私は確信していた。

◆ ◆ ◆

その数日後。
王都では、《ブルーム・リリィ》の噂が流れ始めた。

「辺境の薬庵で、心の病に効く奇跡の薬が生まれたらしい」
「公爵夫人が服用して、社交恐怖が治ったとか」
「魔法院でも解析不能だった調合式が使われているって……」

噂はまたたく間に貴族層を駆け巡り、そして、あの女――義妹カティアの耳にも届いた。

◆ ◆ ◆

王宮・私室にて。

「……あの女が、そんなものを作ったですって?」

カティアは声を荒げて、鏡台を拳で叩いた。
美しく整えられた化粧瓶が、音を立てて転がる。

「このままじゃ、私の“慈悲深い王妃”としての立場が……っ」

侍女たちが縮こまり、ひとりが声を絞り出す。

「ですが、あの薬を王宮に取り寄せれば……逆に、カティア様が“先進的な王妃”として……」

「それだわ!」

カティアは目を見開いた。
リーナの名を前面に出すのではなく、あくまで“王家の命による導入”とすることで、薬を“自分の功績”にすり替える――。

「ふふふ……どうせ田舎に隠れてるだけの小娘。使えるものは使えばいいのよ」

けれど、そのときカティアはまだ知らなかった。
《ブルーム・リリィ》に組み込まれた、もうひとつの“副作用”を。

《服用から七日以内に、大きな嘘をついた者の魔力が微細に乱れる》

そして、その乱れは……“真実の霧”によって、再び可視化される。

◆ ◆ ◆

その夜、私は庵の縁側に腰掛けていた。
星がよく見える静かな夜。
ジークが、湯気の立つ薬草茶を淹れてくれる。

「リーナ様。これで、少しはあの人たちに“ざまぁ”できますか?」

私は笑った。

「ええ、まだ序章だけどね。
あの子たちは、私を捨てたことを“正しかった”と信じていた。でも……もうじき、気づくはず。
“あのとき、失ったのはどちらだったのか”を」

◆ ◆ ◆

そして――
王宮の晩餐会、
義妹カティアの口からこぼれた嘘に、
周囲の者たちの魔力がざわついたのは、ほんの数日後のことだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

あとがき
第3話、お読みいただきありがとうございました。
ざまぁの第2段、“静かな復讐”の火種が広がり始めています。
リーナの賢さと冷静さ、そして薬草知識が、王都に波紋を呼ぶ展開です。

次回は、カティアの崩壊がはじまる“公開ざまぁ編”の序章。
引き続き、応援・フォロー・お気に入り、よろしくお願いいたします。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
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