辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

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第13話 毒の城、逆処方会議

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王城・第七棟、封印階――通称「毒の城」。
かつては王国に仇なした魔術師や呪詛師たちが尋問された、封印された実験施設だった。
いま、再びこの扉が開かれる日が来るとは、誰が予想しただろうか。

 

アリウス第三王子の回復直後、王家は異例の緊急命令を発令。
王政の中枢にある“薬物と政治の癒着”に対する、全面的な調査と再構築が決定された。

 

その中心に据えられたのが――
王家直属医務顧問、リーナ・アークレインである。

 

「本日、議題は三つ」

 

リーナの声が、封鎖空間に澄んで響く。

 

「一つ。過去五十年の王家関係者への調薬履歴の解析と開示」

「二つ。禁忌薬《黒哭》に関する起源の確認と、関係者の名簿照合」

「三つ。《逆処方》計画の実施について」

 

「……ずいぶん大胆だな」

 

そう吐き捨てるように言ったのは、監査院長のグレスター。
かつてロルベン閣下と共に王宮薬術を築いた老職人。
その顔には怒りもあれば諦めもあり、そしてかすかな哀しみもあった。

 

「我々はこの王国の“心”を調整してきた。
それを“毒”と断ずるのは、いささか……」

 

「心は、触れていいものではありません。
調整とは、聞こえの良い“支配”です」

 

リーナの言葉に、グレスターは唇を引き結ぶ。

 

「では、お手並み拝見といこうか。
貴女の“逆処方”とは、いったい何を意味するのかね?」

 

リーナは、一冊の薄い書簡を机に置いた。
その表紙には、こう記されている。

 

《精神統合解除薬草案 第一式》
――“名前を呼ぶための処方箋”

 

「黒哭は、“心の名付け”を剥奪する薬です」

「記憶から“関係性”を消し、他者との絆を溶かす。
つまり、“誰かを誰かとして認識できなくなる”」

 

静かに、そして確実に言葉を落とす。

 

「であるなら、処方すべきは、“名付け直す記憶”です」

 

会議室内に、微かなざわめきが走る。

 

「我々は今、誰にとっての“誰”なのか――
それを再定義する。
それが、《逆処方》の核心です」

 

「具体的には?」

 

「対象の感情記憶を引き出し、それに“新たな名”をつけ直す」

「たとえば、王太子殿下は“父王に褒められた記憶”を、第三王子殿下は“幼少の頃、母に抱かれたぬくもり”を――」

「そこに、名を与える。誰のために、何を思い、どう生きたいのか。
“自我”と“関係性”を、薬と対話によって再構築するのです」

 

「……心理療法ではないのか、それは」

 

「違います」

リーナは断言した。

 

「これは、“処方”です。
名を与える薬。
それが、“黒哭”に対する“解毒”となる唯一の鍵です」

 

◆ ◆ ◆

 

その後、調査会議は夜まで続いた。
一人また一人と証言が提出され、やがて“ひとつの名前”が浮かび上がる。

 

マルグリッド・ファロウ――
元調薬監査官、ロルベンの副官、
そして、記録上“死亡”したはずの男。

 

「……奴が、生きている……だと?」

「いや、それだけじゃない。
現在もどこかで、《黒哭》を改良している可能性がある」

 

「この王都のどこかに、“毒の温床”が残っている……!」

 

リーナは、封印会議の最後に立ち上がった。

 

「全王宮職員、全王族、ならびに五大公爵家に対し、
《共鳴診断》と《記録照合》を実施することをここに提案します」

 

「その結果、拒否・逃亡・あるいは診断拒否を行った者は……」

 

彼女は一拍、言葉を切る。

 

「“黒哭の継承者”と見なし、逆処方対象として処理いたします」

 

会場は沈黙した。
だが――誰も否定しなかった。

 

リーナは、毒の城から出ると夜空を見上げた。

 

見えぬ星。
明日、どこかで誰かが“毒の処方箋”を用意しているかもしれない。

 

だが、彼女にはわかっていた。

 

その者が誰であれ――
“名を奪う毒”に対抗できるのは、
“名を与える意志”だけだと。

 

◆ ◆ ◆

 

そして、翌朝。
封印されていた王宮地下の防毒区画に、誰かが侵入した痕跡が見つかった。

 

その中央には、黒い瓶と血のような手紙が一枚。

 

《処方されると思うな。
毒とは、生き方だ。
――M.F.》

 

その筆跡を見た瞬間、リーナは確信した。

 

次が――最終戦。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

あとがき
第13話、お読みいただきありがとうございました。
今回は、“毒の論理”に対して“名を与える逆処方”という核心の理念を提示し、
物語の最終フェーズへと踏み出しました。

次回は、ついに“黒哭の男”との直接対決です。
全ての“ざまぁ”が集約される舞台、どうかお見逃しなく。

ご感想・お気に入り・フォロー、いつも本当にありがとうございます!

 

 

―――――――――――――――――――
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