『初恋令嬢は鈍感すぎて、王太子・騎士団長・学園貴公子の胃を壊す』

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第14話:告白という名の戦争。貴族令嬢と三人の決意

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 ――恋とは、時に戦争よりも残酷だ。

 誰かを選ぶことは、誰かを選ばないということ。

 ゼフィリア・リューデルは、今その最前線に立たされていた。

 

◆ ◆ ◆

 

 王家の正式な通達が学園に届いてから二日。
 ゼフィリアの周囲には、静かに緊張が広がっていた。

 

「リューデル嬢が、王妃候補に指名された……本当に」

「ただの小貴族の娘が、王宮に迎えられるなんて……」

「クラヴィス様も、アシュレイ教官もどう動くんだろうな」

 

 ――そして、動いた。

 

 最初にゼフィリアの前に現れたのは、クラヴィスだった。

 

「ゼフィリア嬢。君に、一つだけ頼みがある」

 

 彼は、学園の図書棟の屋上に彼女を誘い出すと、風を受けてまっすぐに言った。

 

「僕は君の“優しさ”に救われた。僕の過去を、痛みを、誰よりも肯定してくれたのは君だった。
 だから今、君に告げるよ――」

 

 クラヴィスの声は低く、だが切実だった。

 

「君が誰を選ぼうと構わない。だが……僕の“心”は、もう君に渡した。
 王家がどうであれ、僕は、君の“人生の隣”にいたいんだ」

 

 ゼフィリアは、何も言えなかった。
 けれどその眼差しに込められた“覚悟”だけは、確かに伝わっていた。

 

◆ ◆ ◆

 

 次に彼女の前に現れたのは――アシュレイだった。

 訓練場で剣を振っていたその手を止め、汗を拭うこともせずにまっすぐ近づいてきた。

 

「ゼフィリア。俺は、騎士として生きてきた。名誉も忠義も、それなりに理解してきた。
 だが、恋だけは……不器用で、臆病だった」

 

 アシュレイは、まっすぐにその手を差し出した。

 

「だが今は言える。俺は、お前が好きだ。
 命を懸けてでも守りたいと思った。たとえ王妃になっても、俺はお前の“剣”であり続ける」

 

 その強さに、ゼフィリアはまた何も言えなかった。

 ただ、頬にひと雫、涙が落ちたのを自覚するだけだった。

 

◆ ◆ ◆

 

 そして――最後にエリオンが訪れたのは、学園の花壇だった。

 彼女が植えたラベンダーの前で、ただ一言だけ。

 

「ゼフィリア。……俺は、待つのをやめた」

 

「え?」

 

「君の答えを、もう“天に任せる”ような生き方はしない。
 今日、君に、正式に求婚する。王家の人間としてじゃない。エリオンとして」

 

 彼はポケットから、小さな指輪を取り出した。

 

「これが重すぎるなら、返してくれていい。
 でも俺は、君を“未来に連れていきたい”と、本気で思っている」

 

 そのとき、ゼフィリアの中で何かが――ひとつ、明確になった。

 

 言葉にするにはまだ早い。
 だが、心の奥で“名前”を呼ぶ声が、確かに聞こえた。

 

◆ ◆ ◆

 

 夜。

 ゼフィリアは机に向かい、恋の記録を開いた。

 クラヴィスの微笑。アシュレイの手。エリオンの言葉。

 

 そして――最後に、震える手で書いたひとつの文字。

 

 「私は、――」

 

 その続きはまだ、記されていなかった。

 

──つづく。
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