『初恋令嬢は鈍感すぎて、王太子・騎士団長・学園貴公子の胃を壊す』

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新章・王宮編

第43話:中間発表、そして囁かれた影の噂

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 王宮東棟、貴族会議場。
 この日は王妃選定における《中間発表》の場として、臨時に開放されていた。
 白亜の円形広間に集められた王妃候補たち、その後ろには各家の使者や後援者が控え、
 静かな熱気と緊張が場を包み込む。

「本日、中間発表にあたり、王政会議より直々の発表が行われる」

 文官の響き渡る声に、場が静まる。
 そして壇上に姿を現したのは、王太子・エリオン。
 正装に身を包んだその姿は、まさしく“次代”の威光そのものだった。

「王妃候補各位の尽力に、まずは感謝を述べたい。
 第一夜会、ならびに第二課題において、各々が示した知見と矜持は、我が国の誇りに値する」

 場内に低い拍手が鳴った。

「――では、現時点における“中間評価上位三名”を発表する」

 静寂が落ちる。誰もが息をひそめた。

「第三位――ティリア・エンリオ」

 ややざわつく声。
 その名が挙がったことに驚いた者と納得した者が入り交じる中、ティリアは優雅に一礼してみせた。

「第二位――アルマ・ヴェステンベルク」

 明確な賛同の拍手が広がる。法制と調整における卓越した提案は、すでに貴族社会でも話題になっていた。

「そして、第一位――」

 一瞬の沈黙。誰もが固唾を呑んだその瞬間、エリオンの視線が会場の一角を射抜く。

「――ゼフィリア・リューデル」

 場が凍り、そして、爆ぜた。

 あまりに静かで、あまりに鮮やかな第一位の名乗りに、周囲の空気が乱れる。

「……ゼフィリア嬢が……?」

「地味な印象だったが、あの提案か……」

「沈黙の盾……あれは確かに異例だった」

 褒め言葉、驚き、戸惑い――あらゆる感情がさざ波のように広がる中、ゼフィリア本人は静かに立ち上がった。

「ご評価、痛み入ります。今後とも、誠実に務めてまいります」

 それだけを述べ、深く一礼する。

 エリオンはその姿を見つめたまま、一言だけ呟いた。

「――誠実は、最も強い光だ」

     ◇ ◇ ◇

 発表の後、控室ではすでに火種が燻っていた。

「ふぅん……おめでとう、ゼフィリア。正直、驚いたわ」

 ティリアが柔らかな笑みを浮かべながらも、視線は鋭い。

「私も、まさかここで一位になるとは」

「そうでしょうね。でも、それだけ他の誰かが……焦ってる、ということでもあるのよ」

「……?」

「王妃選定って、ただの点数競争じゃない。
 背後で“何が動いているか”にも、気を配るべきなの」

     ◇ ◇ ◇

 その日の夕刻、王都のとある裏通り。

「……リューデル家の令嬢が一位、だと?」

 男が一人、煙管を手にしながら呟く。

「そんなはずはない。後ろ盾もない弱小家の娘が、なぜ?」

 彼の隣に立つ文官風の男が、静かに呟く。

「――“誰か”が手を回したのかもしれませんね。
 あるいは、審査官の中に不自然な動きがあったか。調べてみましょう」

 闇は、静かに広がっていた。

     ◇ ◇ ◇

 リューデル邸、夜。

 ゼフィリアは静かに机に向かっていた。
 そこには、新たな封筒が届いている。

 差出人は不明。だが、その封蝋には――王家の象徴が。

 震える指で封を解くと、中には短い一文だけがあった。

『――仮面の内に、毒がある。光の前に影が生まれる。』

 意味の分からぬ警告文。

 だが、確かにそれは、“何か”が始まろうとしている予兆だった。

     ◇ ◇ ◇

 翌朝。
 王宮正門に、風変わりな来訪者が現れる。

「――王妃候補、ゼフィリア・リューデル様に、面会を願いたく」

 その青年は、まだ若く、しかしどこか王宮の空気に馴染んでいる。
 胸元の徽章は、王太子近衛の補佐官――つまり、エリオンの側近だ。

 守衛が目を丸くして答えた。

「申し訳ありませんが、妃候補とご面会の予定は――」

「予定にはないが、命を受けている。“急ぎの件”だ」

 そう言い切った青年は、懐から一通の封書を取り出す。

 そこには、確かに王太子の私印が刻まれていた。

(王妃候補を狙った――何者かの動きがある)

 影はすでに動き始めていた。
 ゼフィリアが初めて“脅威”と呼べる存在と、直に対峙することになる。

――――――――――――――――――――

【あとがき】

第43話『中間発表、そして囁かれた影の噂』、最後までお読みいただきありがとうございます。
ついにゼフィリアが中間順位で第一位を獲得し、物語は大きく動き始めます。
彼女の存在が公に評価されたことで、今まで静かだった“影”が動き出しました。
次回、第44話は《陰謀の幕開け》を描いてまいります。どうぞご期待ください。

――――――――――――――――――――

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