怪談

コテット

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記録に残らない声

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この話を最初に聞いたのは、大学時代の先輩からだった。
卒論で「都市の無音地帯」について調べていた人で、いわゆる“音が記録されない空間”の例を集めていたらしい。

たとえば、
・立っているのに自分の足音がしない通路
・電話のマイクが一切拾わなくなる場所
・録音機器を持ち込んでも“何も入らない”空き家──

そのなかで、ある廃ビルの地下に、妙な現象があったという。

場所は都内某所、今は取り壊されたと聞く。
地下2階、閉鎖されたテナント跡。

録音機を設置すると**「何かの音」が入る。**
でも、その場にいた人間は誰も“何も聞こえていない”。

しかも、その音が毎回“違う”。

・水をすするような音
・爪でコンクリートをかくような音
・遠くで、誰かが名前を呼ぶ声

先輩は何度も録音したが、その音声は決まって自分の名前を呼んでいた。

それだけでも怖いが、奇妙なのはここから。

音声データを第三者に渡しても、“再生されない”。
フォルダにあるのに、開こうとすると「ファイル破損」「存在しません」と表示される。

それでも、本人のPCでだけ再生できる。
ただし、それを聞いてしまった人間が──みんな、同じような夢を見るようになる。

“音のしない世界で、自分だけが何かを探している”夢。

数年後、先輩は突然、大学を辞めた。

「音が、自分を探してる」と言っていたらしい。

それを聞いた俺は、冗談半分で「俺も録音してみようかな」と言った。

……実際、やってみた。
自分の部屋で、深夜にボイスレコーダーをセットして、無音のまま2時間回した。

次の日、再生してみた。

はじめの1時間半は何もなかった。
でも、1:47:23のところで──“カサ……”という音。

そのあと、小さな声が入っていた。

「聞いてるんでしょう?」

知らない声だった。
再生を止めて、PCを再起動して、もう一度開こうとした。

──ファイルが消えていた。
エクスプローラーには残っているのに、開けない。

その晩、俺は夢を見た。

音のない廊下を、何かを探して歩いている。
廊下の端で、誰かがこっちを見ていた。

でもその“誰か”には、耳がなかった。

今も時々、無音状態の部屋で、**わずかに違う“空気の振動”**を感じるときがある。

聞こえていないのに、“声を聞いた感覚”だけが残る。

たぶん、録音なんてするんじゃなかった。
たぶん、これも、“自分で呼んだ”のかもしれない。

あなたの部屋にも、音のない部分はありますか?
試さないでください。
そこには、すでに何かが“待って”いるかもしれません。

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