怪談

コテット

文字の大きさ
38 / 95

三つの角には立つな

しおりを挟む
小さい頃、祖母からよく言われていた。

「道の三つ角には立つなよ。
あそこには“呼ぶもの”がいるから。」

祖母の家は古い住宅街の中にあった。
複雑な路地が入り組んでいて、小さな三叉路が無数にあった。

子供のころは「お化けの話」で済ませていたが、
社会人になってから地元に戻り、久しぶりにその町で暮らすようになった。

ある夜、残業で遅くなり、近道しようと昔よく通った細道を抜けた。

住宅の影が長く伸びて、街灯がやけに黄色い。

三叉路の真ん中に差し掛かったとき、
スマホの画面に突然、**「三つ角には立つな」**という文字が表示された。

何のアプリも開いていない。
LINEでもない、SNSでもない。

ただ白地にその文字だけ。

思わず立ち止まった。

次の瞬間、
視界の端に、**自分と同じ姿の“誰か”**が立っているのが見えた。

スーツ姿、肩にかけたカバン。
でもそいつは、顔が真っ黒で、目も口もなかった。

俺が一歩後ろに下がると、それも一歩前に出た。

そしてゆっくり首をかしげる。

「……いま、そっちに行っていい?」

声はしなかった。でも頭に直接響くように聞こえた。

慌ててその場から走って逃げた。

家に帰ってスマホを確認すると、
カメラロールに1枚、知らない写真が増えていた。

夜の路地。
三叉路の真ん中に、俺が立っていた。

撮った覚えはない。

それからというもの、
道を歩いていると、どこかで「もうひとりの俺」が立っている気配がする。

曲がり角、三叉路、公園の分かれ道。

いつも微かにこちらを向いて、じっと立っている。

祖母が言っていた。

「三つ角には“お前に似たもの”が立つんだよ。
呼ばれたらおしまいだ。」

あのとき返事をしなかったのは、たまたまだ。

今も夜道を歩くときは、絶対に三叉路では足を止めない。

もしまた声が聞こえたら──
今度こそ、返事をしてしまいそうだから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。 先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/17:『まく』の章を追加。2025/12/24の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...