箱庭の幸福~奴隷を買ったらいつの間にかハーレムが出来ていた~

氷雨

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彼らとの出会い 2

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馬車が止まるとともに、俺は立ち上がった。3人が何をする気だと、俺の行動を訝しみながらじっと見ている。
俺はそれを無視して「…また来る!」と言い残し、フードを再び目深に被ると荷馬車から飛び降りた。





どうやら馬の休息のために休憩するようで、恰幅のいいオッサンは馬の世話をしていた。


「こ、これはこれは、先程はどうもありがとうございました」

俺が近づいてくるのに気づいたのか、男は脂汗をハンカチで拭いながらペコペコとお礼を言ってきた。


「私はフィーンバル商会会長のバラモスと申します」

「俺はユキだ、早速で悪いが聞きたいことがある」


「…も、勿論でございますっ!!命の恩人ユキ様の願いであれば、どんな事でもいたします!!」


言ったな?


「じゃあ、あの奴隷全部くれ」

「…!!??」


「え、いや、あの、あれ、あれは…!!」ともごもごするバラモス。


俺の服をチラチラ見ていることから、どうやら俺が金のないやつだと思って、売るのを渋っているようだ。
まぁ当然か、門番のオッサンが使い込んでいただろうボロの外套を未だに俺は着ているからな。

ただ俺は、こんな形だが金は使い切れない程ほど持っているんだよ。


だから俺は、トドメとばかりにポケットから出すと見せかけてアイテムボックスから100万テールを取りだした。


「これでも、だめかな?」


バラモスの目前に札束を引っ提げて、チラつかせる。


ごくり


バラモスの喉が鳴った。
そりゃそうだ、こんな大金普通なら手に入らない。


「…そ、それでは、足りません!!」


「そうか…」と言って、追加で今度は掌に200万テールを出す。


「…っほ、ほぉぉ!!これはこれは!!」


鼻息荒く俺の持つ札束を眺めるバラモス。

きっと彼は今、この金を何に使おうかと必死に考えているのだろう。


そう言うのを取らぬ狸の皮算用と言うんだぞ。



「バラモス、聞くが、あの奴隷達は全部でいくらになるんだ?」

「…そ、それはですね、ほほっ、あの、あのですね…い、1000万テールで、ご、ございます!!!」

「…本当は?」

俺は再び掌に200万テールを取りだした。
もう俺の両手は札束いっぱいだ。


「…っ」


バラモスは明らかに動揺している。

1000万テールと言ってしまった手前、俺の手から次々と大金が出てくるものだから、欲しくてたまらないのだろう。
ここでまた金額が跳ね上がるようなら、こいつは信用出来ないな。


「…本当は?」


笑顔で、と言ってバラモスには見えてはいないだろうが、優しく問いかける。

ごくりと、バラモスの喉が鳴った。



数分だろうか、俺がバラモスの様子を眺めていると、商人としての矜恃なのか、はたまた、俺に勝つことは出来ないと踏んだのか、おそらく後者だろうが、バラモスは口を開いた。


「…狼獣人の男が70万テール、人魚族の男が100万テール、半竜人の男が170万テール、締めて340万テールに、ございます…」


決まったな。


彼は欲に目がくらむタイプのようだが、まぁ信用出来るだろう。俺は青くなってビクビク震えるバラモスの肩に手を置いた。


「そうか…じゃあこれで頼む」


俺は本当の金額ではなく、先程提示された嘘の金額の1000万テールを払うため、再びポッケに手を突っ込み500万テールを取りだした。


「…な!!?」



自分から言ってきたくせに、バラモスは目に見えて狼狽え、目を白黒させている。


掌からこぼれ落ちてしまった札束を拾い、両腕で抱える。

「…340万テールは奴隷の分、それ以外はお前への投資だ…お前は商人なんだろう?だったら俺が顧客になってやるから、入り用なものができた時、俺に優先して売って欲しい」

「…こ、こんな金額を払っておいて、そ、そんなことでよろしいのでっ!?」


「あぁ、だから受け取れ」

「あ、ありがとうございますうぅぅ!!」



泣きながら喜んでいるバラモスに、早速契約を頼むと言えば、急いで彼は準備を始めてくれた。

バラモス曰く、最近珍しい商品が入らず、収入に伸び悩んでいたそうだ。それを聞いた俺は、根本的にこの世界の人間とは考え方が違うのだと思い知った。
普通、同じ人間である彼らのことを商品などとモノ扱いすることはしない。俺はそのことに酷く悲しくなると同時に、彼ら3人を絶対に自由にしてやろうと決めたのだった。



一通り渡さた契約書を読み込むと、俺は直筆でサインをした。相変わらずこの言語変換機能の有能さを感じる。
なんで日本語で書いたはずの文字がこっちの世界の文字に変換されるのか、まったく不思議でならない。


サインが終わると、場所を移動し、彼らが居る檻へとバラモスと向かった。
















頑丈な檻に取り付けられた錠が、外される。


「おいお前達、出てくるんだ」


バラモスの言葉に、3人はバラモスを見たり、俺を見たりと、動揺した表情で檻の中から出てきた。


「今日からお前達の主人になるユキ様だ…このお方は私の命の恩人であり、多額の資金を投資してくださった尊い御方でもある、決して粗相はしでかさないように」

そう言いながら、何やら呪文を彼らにかけていくバラモス。


さっきその尊い御方と称した俺を、お前は我が身可愛さに突き飛ばしたけどな、全く現金なヤツだ。と思いながら、バラモスのやっている事が分からなかったため聞いてみた。


「バラモス、それは?」

「はい、これは隷属魔法と言って、奴隷が主人に危害を加えることが出来なくなる魔法にございます」


あの契約書の隷属魔法とはこれの事か…。


という事は、俺を万が一殺そうとした場合、彼らは酷い激痛に襲われると言うやつか。えげつない魔法だな。





それからも着々と契約は進んでいき、ようやく今、最後の契約が終わった。


3枚分の契約書が1つのブレスレットの中に吸い込まれるように、粒子となって消えていく。



「ささっ、ユキ様、このブレスレットをはめてください、それにより契約が成立します」


言われた通りに、渡された金色のブレスレットを右手に嵌める。


「そのブレスレットは契約を交わしたことの証であり、また、彼らを縛る服従魔法を行使する魔道具でもあります…もし彼らが言うことを聞かなかったり、暴れだしたりした時には、そちらのブレスレットに魔力を込め、彼らに命令してください」


そう言うと、バラモスは俺の後ろにススッと下がると、「では、私めは馬の世話が残っていますので失礼致します…」そう言って、荷馬車を降りて行った。


檻から出された彼らは、今この状況が信じられないのか、ただ呆然と、檻の前に突っ立っていた。


彼らは俺が思っていたよりも長身で、俺より頭ひとつ分は大きかった。


フードに手をかけ、さっと頭から引き下げる。


未だにこの状況を呑み込めていない彼らに、俺は精一杯の笑顔を浮かべて言った。



「俺はユキ、今日からよろしくね」






これが、俺と彼らの出会いだった。

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