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慈悲の天使と無慈悲の悪魔
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草木も眠る深夜帯。
そこが山中なら
本当にあらゆる生命が
眠っているんだろう。
そんなくだらないことを考えている男は、
ぼんやりと自分の住んでいる部屋から遠くを見る。
都市部にあたるその場所は、
ネオンの街灯だとかの人工的な灯りが
ビカビカ光ってここからでも眩しいくらいだ。
そんなギラギラした世界から少し離れたらそこは、
湿気やらアルコールの独特の匂いに
吐瀉物のニオイなんかがひしめいている。
一体男はどこで間違えたのかなんて、
湧き続ける際限のない自問自答を、
無限ループのように繰り返し続けている。
「あぁ、やらなきゃ」
ボソリと落とした声に生気はなく、
寧ろ死の匂いが濃く薫っている。
その顔は死者と相違なく、
目の下にはいくら寝ても足りないと
そう訴えているような隈に、
まともに食事をしていないのが
見て分かるほど痩せこけて窪んだ頬。
いつ死んだとしてもおかしくはない。
そんな相貌をしている。
覚束無い足のまま、
真っ暗な部屋を慣れたように歩く先には
男の背丈よりも少し大きめのタンス。
ちょうど自分の手を
少し上げたら届く戸を開ければ、
様々な衣類がごった返している。
清潔感はもう見受けられない。
その戸を開けて、
鏡越しのようになっているそこから、
丁寧にネクタイを一本取り出す。
もうそれ以上そこに用はないのか、
男はまたフラフラと歩く。
今度は洗面台の近くに置かれている、
忘れ去られてしまったかのような
小さな台。
子供用と思しきそれは
異様な物のようにも見える。
ポツンとしていたそれを
男はひょいと持ち上げて、
その場をまたフラフラと離れていく。
最後に辿り着いたのは
男自身の寝室だった。
あぁ、〈今日も〉、か
男は窓の側まで近寄って、
台を、極力音を消して置き、
カーテンのレールの方へ
握っていたネクタイを括り付けだす。
そこを輪っかにすることも忘れていない。
さァ、そのままこちらへ!!
ニコニコとした胡散臭い白い奴が
男の手を握っている。
「また、来世で」
もう何十回と傍で聞き続けた台詞。
もう、この男の口からは
出てきて欲しくない、
言ってほしくないと祈っているコトバ。
その音と共に男は体重をかける。
そのタイミングに合わせて
ブチン
とネクタイを切り落とす。
その音と共に重力のまま床に落下する体。
白いソイツが
悔しそうにコチラを睨んでいるが、
知ったこっちゃあない。
「また、か」
そう呟く男の目からは
二度と流れてこない涙がポロポロと、
幼子の時のように出ているような
そんか錯覚が見えた。
だとしても。
ありとあらゆる術を使ってでも、
この世界へと留めたい。
この世に、縛り付けておきたい。
それに、アイツらのやることには
どうも賛同できない。
男とヤツが無慈悲だと、
口の形がそう、言った。
かまわない
はたして、
本当に無慈悲なのは一体どちらかなんて、
男も黒い影も知る由もない。
ただ白いソレはニコニコと
無邪気に嗤って、
手を伸ばしている。
それだけが、真実。
そこが山中なら
本当にあらゆる生命が
眠っているんだろう。
そんなくだらないことを考えている男は、
ぼんやりと自分の住んでいる部屋から遠くを見る。
都市部にあたるその場所は、
ネオンの街灯だとかの人工的な灯りが
ビカビカ光ってここからでも眩しいくらいだ。
そんなギラギラした世界から少し離れたらそこは、
湿気やらアルコールの独特の匂いに
吐瀉物のニオイなんかがひしめいている。
一体男はどこで間違えたのかなんて、
湧き続ける際限のない自問自答を、
無限ループのように繰り返し続けている。
「あぁ、やらなきゃ」
ボソリと落とした声に生気はなく、
寧ろ死の匂いが濃く薫っている。
その顔は死者と相違なく、
目の下にはいくら寝ても足りないと
そう訴えているような隈に、
まともに食事をしていないのが
見て分かるほど痩せこけて窪んだ頬。
いつ死んだとしてもおかしくはない。
そんな相貌をしている。
覚束無い足のまま、
真っ暗な部屋を慣れたように歩く先には
男の背丈よりも少し大きめのタンス。
ちょうど自分の手を
少し上げたら届く戸を開ければ、
様々な衣類がごった返している。
清潔感はもう見受けられない。
その戸を開けて、
鏡越しのようになっているそこから、
丁寧にネクタイを一本取り出す。
もうそれ以上そこに用はないのか、
男はまたフラフラと歩く。
今度は洗面台の近くに置かれている、
忘れ去られてしまったかのような
小さな台。
子供用と思しきそれは
異様な物のようにも見える。
ポツンとしていたそれを
男はひょいと持ち上げて、
その場をまたフラフラと離れていく。
最後に辿り着いたのは
男自身の寝室だった。
あぁ、〈今日も〉、か
男は窓の側まで近寄って、
台を、極力音を消して置き、
カーテンのレールの方へ
握っていたネクタイを括り付けだす。
そこを輪っかにすることも忘れていない。
さァ、そのままこちらへ!!
ニコニコとした胡散臭い白い奴が
男の手を握っている。
「また、来世で」
もう何十回と傍で聞き続けた台詞。
もう、この男の口からは
出てきて欲しくない、
言ってほしくないと祈っているコトバ。
その音と共に男は体重をかける。
そのタイミングに合わせて
ブチン
とネクタイを切り落とす。
その音と共に重力のまま床に落下する体。
白いソイツが
悔しそうにコチラを睨んでいるが、
知ったこっちゃあない。
「また、か」
そう呟く男の目からは
二度と流れてこない涙がポロポロと、
幼子の時のように出ているような
そんか錯覚が見えた。
だとしても。
ありとあらゆる術を使ってでも、
この世界へと留めたい。
この世に、縛り付けておきたい。
それに、アイツらのやることには
どうも賛同できない。
男とヤツが無慈悲だと、
口の形がそう、言った。
かまわない
はたして、
本当に無慈悲なのは一体どちらかなんて、
男も黒い影も知る由もない。
ただ白いソレはニコニコと
無邪気に嗤って、
手を伸ばしている。
それだけが、真実。
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