魔王城での聖女生活~異世界に聖女として呼ばれましたが実は世界を守ってた魔王を聖女の力で助けます~

四乃

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第一部

嘘つき魔王と異世界救います②

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 目が覚めると知らない天井だった。
 わたしはベッドに寝かされていて室内は薄暗い。 
 顔を横に向ければ離れた壁際のサイドテーブルにに小さな灯りが灯っている。
 ランタンらしきものにあるその灯りはよく見れば浮いてフヨフヨとわずかながら上下に動いている。
 なんだろうあれは。
 この世界の灯りといえばロウソクの火や魔法の『ライト』しか見たことがないのだけれど、あれはどっちでもなさそうだ。ロウソクは立てられてないし、ライトは一定の高さを保って浮くからあんな動きはしない。

 考え事をしたせいかぼんやりしていた頭がはっきりしてきた。
 わたしは谷から落ちたはずだ。

 手を見ても傷ひとつなかった。
 動かしても痛みはない。
 体のどこも痛くなかった。
 わたしはベッドから起き上がった。
 服は聖女の白いローブのままで履いていたブーツはベッド脇の床にきちんと揃えて置いてあった。
 杖もベッドのすぐ横に立てかけてある。

 ベッドから降りてブーツを履いて杖を持ち、歩いてみるものの体におかしなところは感じない。
 睡眠をとったことでむしろ疲れが取れて元気だ。
 体感的に5時間は寝ている。
 窓があるようなので近づいてカーテンを少し開けると朝日が地平線から昇ってくる時だった。
 その朝日に照らされて浮かび上がる建造物をしばらく眺め…カーテンを再び閉めた。
 …見覚えがあった。
 前に見た時は外からだけだったけれど高く聳え立つあの塔や城壁の上にあるドラゴンの像、知っている。
 …確かめよう。
 わたしはなるべく物音を立てないように扉を開け部屋を出た。


 ツルツルとした黒い床石の廊下は慎重に歩いてもコツコツと靴音が響いた。
 黒い床に黒い壁、澱んだ空気、生き物の気配のない静けさ、そしてたどり着いたこの扉。
 あの時とは違い、わたしひとりで大きな漆黒の両扉を押し開けた。
 黒一色のその謁見の間は一歩足を踏み入れるとよく靴音が響いた。
 その広い室内の奥にはいつか見たままの玉座があった。
 ただあのときその玉座にいたこの城の主はいない。


「目が覚めたか」


 後ろにこの城ーー魔王城の主、魔王ことリュシオンが音もなく現れた。
 聖教会にいた時と同じくアメジスト色の瞳がこちらを見下ろしてくる。


「…あれからどうなったの? ウィルたちは?」

「魔王城にいることは驚かないんだな」


 軽く目を見張って魔王が驚いた反応を見せたあと、面白そうに口の端を上げた。


「あいつらは無事だ。お前を火球で吹き飛ばしたワイバーンはすぐに飛び去った。その後は谷に降りようとしていたが道がなく断念したようだ。山を下りてロンバルディに向かって動いている」

「そっか、無事でよかった…」


 彼らは窮地を脱出したようだ。
 ロンバルディ国内に入ったし国まるごと勇者の味方だ。そう敵も襲えないだろう。
 とりあえず心配はいらなそうだ。
 谷のこともわたしを探してくれようとしたのだろうけど、リュシオンが飛び込んだからひとまず大丈夫だと判断したんだろう。
 あとでどうにか無事を知らせたい。
 しかしまさか出口でワイバーンに襲われるとは思わなかった。
 あれも邪神信者がけしかけたのかな。


「お前が気を失った後、転移の術でこの城まで飛んだ。お前を寝台に寝かせたのが日付が変わる頃、今は夜明けだ」


 自らわたしをベッドに運んでくれたようだ。
 上掛けをかけてくれたり靴もきれいに揃えて置いてくれたりしてくれた姿を想像するとなんともいえないむず痒さがある。


「…助けてくれてありがとう」

「礼はいい。その代わり少々俺につきあってもらおう。見せたいものがある」
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