58 / 288
第一部
嘘つき魔王と異世界救います②
しおりを挟む
目が覚めると知らない天井だった。
わたしはベッドに寝かされていて室内は薄暗い。
顔を横に向ければ離れた壁際のサイドテーブルにに小さな灯りが灯っている。
ランタンらしきものにあるその灯りはよく見れば浮いてフヨフヨとわずかながら上下に動いている。
なんだろうあれは。
この世界の灯りといえばロウソクの火や魔法の『ライト』しか見たことがないのだけれど、あれはどっちでもなさそうだ。ロウソクは立てられてないし、ライトは一定の高さを保って浮くからあんな動きはしない。
考え事をしたせいかぼんやりしていた頭がはっきりしてきた。
わたしは谷から落ちたはずだ。
手を見ても傷ひとつなかった。
動かしても痛みはない。
体のどこも痛くなかった。
わたしはベッドから起き上がった。
服は聖女の白いローブのままで履いていたブーツはベッド脇の床にきちんと揃えて置いてあった。
杖もベッドのすぐ横に立てかけてある。
ベッドから降りてブーツを履いて杖を持ち、歩いてみるものの体におかしなところは感じない。
睡眠をとったことでむしろ疲れが取れて元気だ。
体感的に5時間は寝ている。
窓があるようなので近づいてカーテンを少し開けると朝日が地平線から昇ってくる時だった。
その朝日に照らされて浮かび上がる建造物をしばらく眺め…カーテンを再び閉めた。
…見覚えがあった。
前に見た時は外からだけだったけれど高く聳え立つあの塔や城壁の上にあるドラゴンの像、知っている。
…確かめよう。
わたしはなるべく物音を立てないように扉を開け部屋を出た。
ツルツルとした黒い床石の廊下は慎重に歩いてもコツコツと靴音が響いた。
黒い床に黒い壁、澱んだ空気、生き物の気配のない静けさ、そしてたどり着いたこの扉。
あの時とは違い、わたしひとりで大きな漆黒の両扉を押し開けた。
黒一色のその謁見の間は一歩足を踏み入れるとよく靴音が響いた。
その広い室内の奥にはいつか見たままの玉座があった。
ただあのときその玉座にいたこの城の主はいない。
「目が覚めたか」
後ろにこの城ーー魔王城の主、魔王ことリュシオンが音もなく現れた。
聖教会にいた時と同じくアメジスト色の瞳がこちらを見下ろしてくる。
「…あれからどうなったの? ウィルたちは?」
「魔王城にいることは驚かないんだな」
軽く目を見張って魔王が驚いた反応を見せたあと、面白そうに口の端を上げた。
「あいつらは無事だ。お前を火球で吹き飛ばしたワイバーンはすぐに飛び去った。その後は谷に降りようとしていたが道がなく断念したようだ。山を下りてロンバルディに向かって動いている」
「そっか、無事でよかった…」
彼らは窮地を脱出したようだ。
ロンバルディ国内に入ったし国まるごと勇者の味方だ。そう敵も襲えないだろう。
とりあえず心配はいらなそうだ。
谷のこともわたしを探してくれようとしたのだろうけど、リュシオンが飛び込んだからひとまず大丈夫だと判断したんだろう。
あとでどうにか無事を知らせたい。
しかしまさか出口でワイバーンに襲われるとは思わなかった。
あれも邪神信者がけしかけたのかな。
「お前が気を失った後、転移の術でこの城まで飛んだ。お前を寝台に寝かせたのが日付が変わる頃、今は夜明けだ」
自らわたしをベッドに運んでくれたようだ。
上掛けをかけてくれたり靴もきれいに揃えて置いてくれたりしてくれた姿を想像するとなんともいえないむず痒さがある。
「…助けてくれてありがとう」
「礼はいい。その代わり少々俺につきあってもらおう。見せたいものがある」
わたしはベッドに寝かされていて室内は薄暗い。
顔を横に向ければ離れた壁際のサイドテーブルにに小さな灯りが灯っている。
ランタンらしきものにあるその灯りはよく見れば浮いてフヨフヨとわずかながら上下に動いている。
なんだろうあれは。
この世界の灯りといえばロウソクの火や魔法の『ライト』しか見たことがないのだけれど、あれはどっちでもなさそうだ。ロウソクは立てられてないし、ライトは一定の高さを保って浮くからあんな動きはしない。
考え事をしたせいかぼんやりしていた頭がはっきりしてきた。
わたしは谷から落ちたはずだ。
手を見ても傷ひとつなかった。
動かしても痛みはない。
体のどこも痛くなかった。
わたしはベッドから起き上がった。
服は聖女の白いローブのままで履いていたブーツはベッド脇の床にきちんと揃えて置いてあった。
杖もベッドのすぐ横に立てかけてある。
ベッドから降りてブーツを履いて杖を持ち、歩いてみるものの体におかしなところは感じない。
睡眠をとったことでむしろ疲れが取れて元気だ。
体感的に5時間は寝ている。
窓があるようなので近づいてカーテンを少し開けると朝日が地平線から昇ってくる時だった。
その朝日に照らされて浮かび上がる建造物をしばらく眺め…カーテンを再び閉めた。
…見覚えがあった。
前に見た時は外からだけだったけれど高く聳え立つあの塔や城壁の上にあるドラゴンの像、知っている。
…確かめよう。
わたしはなるべく物音を立てないように扉を開け部屋を出た。
ツルツルとした黒い床石の廊下は慎重に歩いてもコツコツと靴音が響いた。
黒い床に黒い壁、澱んだ空気、生き物の気配のない静けさ、そしてたどり着いたこの扉。
あの時とは違い、わたしひとりで大きな漆黒の両扉を押し開けた。
黒一色のその謁見の間は一歩足を踏み入れるとよく靴音が響いた。
その広い室内の奥にはいつか見たままの玉座があった。
ただあのときその玉座にいたこの城の主はいない。
「目が覚めたか」
後ろにこの城ーー魔王城の主、魔王ことリュシオンが音もなく現れた。
聖教会にいた時と同じくアメジスト色の瞳がこちらを見下ろしてくる。
「…あれからどうなったの? ウィルたちは?」
「魔王城にいることは驚かないんだな」
軽く目を見張って魔王が驚いた反応を見せたあと、面白そうに口の端を上げた。
「あいつらは無事だ。お前を火球で吹き飛ばしたワイバーンはすぐに飛び去った。その後は谷に降りようとしていたが道がなく断念したようだ。山を下りてロンバルディに向かって動いている」
「そっか、無事でよかった…」
彼らは窮地を脱出したようだ。
ロンバルディ国内に入ったし国まるごと勇者の味方だ。そう敵も襲えないだろう。
とりあえず心配はいらなそうだ。
谷のこともわたしを探してくれようとしたのだろうけど、リュシオンが飛び込んだからひとまず大丈夫だと判断したんだろう。
あとでどうにか無事を知らせたい。
しかしまさか出口でワイバーンに襲われるとは思わなかった。
あれも邪神信者がけしかけたのかな。
「お前が気を失った後、転移の術でこの城まで飛んだ。お前を寝台に寝かせたのが日付が変わる頃、今は夜明けだ」
自らわたしをベッドに運んでくれたようだ。
上掛けをかけてくれたり靴もきれいに揃えて置いてくれたりしてくれた姿を想像するとなんともいえないむず痒さがある。
「…助けてくれてありがとう」
「礼はいい。その代わり少々俺につきあってもらおう。見せたいものがある」
1
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜
紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま!
聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。
イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか?
※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています
※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる