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第二部
幽霊伯爵①
しおりを挟む奥の通された部屋は応接室、あるいは高級ホテルのような上質なソファーやカーペットの内装が整えられており、シャンデリアに灯された火で温かい雰囲気に照らされている。
ソファー前の長テーブルには紅茶のティーセットが準備されており、クッキーやフィナンシェなどの焼き菓子が皿に盛られている。
ソファーを勧められわたしたちが腰掛けるとテオドール王子も腰掛けた。背後には護衛とおもしき数人の男たちが並ぶ。その中には北の森で会った騎士もいた。王子直属の部下だったようだ。
「本当は食事の席を用意するつもりだったんだが予定が狂ったために急遽茶の席を用意させてもらったよ。甘い物はお好きかな?」
「失礼。僕は赤ワイン以外は受け付けないタチでして」
「ははっ なら肉料理が良かったか。ハシゴ酒するほどイケるクチのようだな」
驚いた。
ヴラドが昨夜に酒場を飲み歩きしたことを知っているようだ。ただの"異国の伯爵"のことをなぜそんな前から把握しているのだろう?
「驚きました、よくご存じですね? …それによく僕らに会おうとお思いになられましたね。貴方からしてみれば会いたがっている一客人でしかないでしょうに。お忙しいようですし、異国からの客人もたくさん順番待ちをしているそうではありませんか」
どうやらヴラドも同じ疑問を抱いたようでにこやかにしながらも追求していく。どうやら警戒心を抱いたようでいつもより柔和さは減っている。
その問いに、問われた側のテオドール王子の目が細められた。
「グリューフェルト伯爵。その名を部下から報告を受けて震えたよ。その名を知らない者はモグリだ。諜報界の"幽霊"を」
ヴラドの偽名は有名のようだ。
でも"幽霊"とは…?
「世界各国、数百年の間に度々その名を名乗る金髪の男が現れている。そしてその男が姿を見せた後にはその国で政変や事件が起きる、または事態が何かしら動いている。そして姿を消し行方は知れず。正体不明。つけられた通称は"諜報界の幽霊"、"幽霊伯爵"。まことしやかにささやかれる伝説の存在… その"グリューフェルト伯爵"が現れたなら何を置いても会うさ」
どうやら数百年、ヴラドはあちこちで何かしら動いて歴史の影で暗躍していたようだ。魔王側にとってメリットがあることなんだろうけれど、具体的には一体何をしていたのだろう? 邪神信仰者でも探っていたのだろうか。
テオドール王子は"幽霊"に続けて問いかけた。
「この国には港町にきて、それから旧道に向かったそうだね。残念ながらあんたらの俊足についていける者がいなくてその辺りから王都に姿を現すまでは行動を把握できていない。でも旧道近くにあった鉱山跡が綺麗に瘴気がなくなっていたという驚くべき報告を受けている。あの近寄るのすら自殺行為なほど禍々しい地がだ。俺はあんたらが何かしたと見ている」
彼は鉱山跡でわたしたちが何かしたとは考えているようだけれど、何をしたかは把握できていないようだ。
「…教えてくれ。わからないんだ、あんたらのことが。どんな力を持っていて、何が目的で、何をしようとしていて、何者なのか。このオーランド王国には何をしにきた?」
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