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第二部
王妃の部屋と暗躍する者たち①
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地下神殿入り口への転移の魔法陣が子どもの頃からさんざん出入りした母上の部屋にあるだと?
想定外の身近な場所に絶句した。
「…部屋のどこに?」
「床に転移の魔法陣があるのです。むやみに人目に付かぬように絨毯で覆い隠してあります。実は切れ目が絵柄に沿って入っていまして、そこを剥がせば床の魔法陣が目視できましょう」
「…あの花のたくさん描かれた絨毯では床に這わなければ到底気づかなそうです。実行すればマナー違反で手を棒で叩かれてしまったでしょう」
「ふふ、うまくやったでしょう? 使用人にも国王陛下にも殿下方にも、誰にもバレませんでしたし」
ウインクをしてイタズラの成功を喜ぶ子どものようににやっと笑う伯父に苦笑した。もしかすると母もさんざん自室に出入りしても気づかない俺や父の姿に同じ笑いを浮かべていたのかも知れない。
「元々は立ち入りできぬよう結界が張られた閉ざされた部屋でした。それを改装して自室としたのです。そうすることで自分で見張りや神殿への出入りがし易くなり一石二鳥になりました。私も神殿に向かうには人目を避けて入室していましたが、妹を訪ねただけに見える状況になり気が楽になりました」
「見張るとは見事な忠誠心と褒めるべきか。しかし物騒な物言いですね。神殿を嗅ぎ回る盗賊でも出たのですか?」
「ええ、そのようです」
茶化した合いの手に不穏な返答がきた。それはもしかして協力者たちが追っている者たちだろうか。
「邪神信仰者、ですか?」
「ご明察です。数十年前からあの城には侵入者が頻繁に入り込み秘密裏に処理されてきました。その者たちの体には共通の印が肌にありました。胸のところに丸の周りをひし形で囲っている図形のタトゥーです。その者たちは邪神信仰者だと、世界の裏を知っている者は知っています」
「…待ってください。もしや母や伯父上はその者たちに狙われて危険な目に合っていたのでは?」
神殿へ行ける血族の者はいわば入り口への鍵。力づくで従わせ女神へ神殿に招き入れさせようと拉致を企てられていてなんら不思議ではない。
「それは先祖代々の宿命でした。他にも女神の力を欲する不届きものは数知れずいましたが最後まで秘密を守るのが私たち一族の家訓であり誇りなのです」
今まで一族のそうした身を賭した献身によって女神は守られ、王家の預かり知らぬ裏側でこの地は平穏を築いてきたのか。
「話を戻しますがその邪神信仰者たちが活発に城の地下神殿への魔法陣を探し始めたのは約50年前からです。その頃は魔王支配領域拡大によりこの地に王家が転居してきた時分です。国内各地で魔物や瘴気がらみの事件が立て続けに起きましたが、この一連の黒幕は邪神信仰者たちではないかと私は考えています」
「時期が合いますからね、可能性はかなり高そうです。しかし、城に頻繁に侵入するのは部外者には難しいはず。ならば…内通者が?」
「私はそう愚考します。あまり考えたくはありませんが城の内部に詳しい者が手引きしているのではないでしょうか」
「…目星をつけている人物が俺にはいます」
「その人物のお名前をうかがっても?」
「…メトセラール公爵です」
「あの方ですか。その先代が陞爵して国内の立場を強くしていったのは同じ時期ですね。しかし、今代の彼は…」
「どうされました? メトセラール公爵が何か?」
「ええ、妹は"彼を信用できる人物"と称していたのです。それに私から見ても国に真摯に尽くす仕事ぶりでしたから…いえ、これ以上はやめておきます。個人的な印象なので殿下に余計な迷いを生んでしまうかもしれませんから。私は私で探ろうと思います」
「母上が?」
想定外の身近な場所に絶句した。
「…部屋のどこに?」
「床に転移の魔法陣があるのです。むやみに人目に付かぬように絨毯で覆い隠してあります。実は切れ目が絵柄に沿って入っていまして、そこを剥がせば床の魔法陣が目視できましょう」
「…あの花のたくさん描かれた絨毯では床に這わなければ到底気づかなそうです。実行すればマナー違反で手を棒で叩かれてしまったでしょう」
「ふふ、うまくやったでしょう? 使用人にも国王陛下にも殿下方にも、誰にもバレませんでしたし」
ウインクをしてイタズラの成功を喜ぶ子どものようににやっと笑う伯父に苦笑した。もしかすると母もさんざん自室に出入りしても気づかない俺や父の姿に同じ笑いを浮かべていたのかも知れない。
「元々は立ち入りできぬよう結界が張られた閉ざされた部屋でした。それを改装して自室としたのです。そうすることで自分で見張りや神殿への出入りがし易くなり一石二鳥になりました。私も神殿に向かうには人目を避けて入室していましたが、妹を訪ねただけに見える状況になり気が楽になりました」
「見張るとは見事な忠誠心と褒めるべきか。しかし物騒な物言いですね。神殿を嗅ぎ回る盗賊でも出たのですか?」
「ええ、そのようです」
茶化した合いの手に不穏な返答がきた。それはもしかして協力者たちが追っている者たちだろうか。
「邪神信仰者、ですか?」
「ご明察です。数十年前からあの城には侵入者が頻繁に入り込み秘密裏に処理されてきました。その者たちの体には共通の印が肌にありました。胸のところに丸の周りをひし形で囲っている図形のタトゥーです。その者たちは邪神信仰者だと、世界の裏を知っている者は知っています」
「…待ってください。もしや母や伯父上はその者たちに狙われて危険な目に合っていたのでは?」
神殿へ行ける血族の者はいわば入り口への鍵。力づくで従わせ女神へ神殿に招き入れさせようと拉致を企てられていてなんら不思議ではない。
「それは先祖代々の宿命でした。他にも女神の力を欲する不届きものは数知れずいましたが最後まで秘密を守るのが私たち一族の家訓であり誇りなのです」
今まで一族のそうした身を賭した献身によって女神は守られ、王家の預かり知らぬ裏側でこの地は平穏を築いてきたのか。
「話を戻しますがその邪神信仰者たちが活発に城の地下神殿への魔法陣を探し始めたのは約50年前からです。その頃は魔王支配領域拡大によりこの地に王家が転居してきた時分です。国内各地で魔物や瘴気がらみの事件が立て続けに起きましたが、この一連の黒幕は邪神信仰者たちではないかと私は考えています」
「時期が合いますからね、可能性はかなり高そうです。しかし、城に頻繁に侵入するのは部外者には難しいはず。ならば…内通者が?」
「私はそう愚考します。あまり考えたくはありませんが城の内部に詳しい者が手引きしているのではないでしょうか」
「…目星をつけている人物が俺にはいます」
「その人物のお名前をうかがっても?」
「…メトセラール公爵です」
「あの方ですか。その先代が陞爵して国内の立場を強くしていったのは同じ時期ですね。しかし、今代の彼は…」
「どうされました? メトセラール公爵が何か?」
「ええ、妹は"彼を信用できる人物"と称していたのです。それに私から見ても国に真摯に尽くす仕事ぶりでしたから…いえ、これ以上はやめておきます。個人的な印象なので殿下に余計な迷いを生んでしまうかもしれませんから。私は私で探ろうと思います」
「母上が?」
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