魔王城での聖女生活~異世界に聖女として呼ばれましたが実は世界を守ってた魔王を聖女の力で助けます~

四乃

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第二部

王女誘拐①

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テオドール王子を追い駆けつけた王女の部屋の前は騒然としていた。騎士が数人集まっていてうち1人が大声で指示を飛ばし連絡のためかわたしたちの横を走っていく者もいた。廊下に横たわるのは扉前で警備をしていた騎士のようだけれど仲間の騎士の呼びかけに反応がない。呼びかけているくらいだから息はあると思いたい。


「何があった!」


断りを入れて部屋の中に踏み込むと居間にはヘルダと呼ばれていた王女付きの侍女が倒れていた。焦燥感を顔に載せたテオドール王子は彼女の肩を叩き起こそうとしていて、一緒に駆けつけた王子の側近が慌てて引き剥がしに行った。羽交締めにされた王子は我に返ったらしく「すまない」と小さく口にした。
入れ替わりで王宮の侍医が到着しすぐさま駆け寄り手首で脈を取り難かしい顔をした。担架を持ち込んだ騎士たちに手早く医務室に運ぶよう侍医が指示を出し侍女の身体を担架に移動させるとそれが刺激となったのか彼女が身じろぎをした。痛むのか苦悶の表情を浮かべ、目は開けられず口をぱくぱくとさせ、必死に何か伝えようとしている。
それを見たテオドール王子が側近の戒めから逃れ侍女の側に駆け寄り耳を寄せた。


「殿下…っ」
「ヘルダ! わかるかテオドールだ! シャルはどうした!?」
「殿下は…メトセラール公爵の使いが、来て、それで…それで、"殿下に来てもらう"と力づくで…、引き剥がそうとしたのですが魔法で吹き飛ばされて殿下を守りきれず、申し訳…っ」
「ヘルダ!?」


侍女は言葉半ばでふつりと意識が切れたようで侍医が首を振り担架を運ばせた。辛い体でそれでもなんとか王女に起きた異変の情報を伝えようと懸命に意識を浮上させたのだろう。王女への忠誠心と職務への責任感に恐れ入る。その後ろ姿を見送り、廊下の騎士2人も担架で運ばれていくのを見届けて室内を見回した。
侍女が吹き飛ばされたといっていたように、ソファーとテーブルが壁際に寄りひっくり返っている。また侍女は壁に叩きつけられたのか壁は少しへこんでいる。…廊下の騎士たちは侍女に使いが会う前にすでに倒されていたのか、それとも使いを一度は通し室内の異変を感じて入室してからなのか。いずれにせよずいぶんと手荒いやり口だ。
奥のシャルロッテ王女の寝室を覗き込むと室内は荒れていなく、何事もなかったようだ。ただひとつの違いは、部屋の可愛い主の姿がないだけ。


「メトセラール公爵、やつは今どこにいる?」


地を這うほどに低く冷たい声音が発せられ心臓がどきりとした。声を発したテオドール王子が剣呑な光を瞳に宿し、すぐにでも公爵に切りかかりそうな空気を纏っている。


「殿下、お気持ちはわかりますが証言の裏を取ってからでなければなりません! すぐお調べしますから」
「こうしている間にもシャルに何かが起こりうるんだ! 首謀者から直接あいつの居所を吐かせるのが最善の手だ!」


テオドール王子は完全に頭に血が昇っているようで側近の進言にも耳を貸す気がないようだ。いつもの慎重さが保てなくなるほどに妹の危機に動揺している。
確かに証言のとおりメトセラール公爵の使いが来たのなら直接聞くのが近道だ。けれど、そんなにわかりやすく首謀者の名前が示されたことに違和感を覚える。素直に公爵の名を出し意識が戻った侍女や騎士からそれが伝われば犯人ですと言っているだけだ。本当に首謀者はメトセラール公爵なのだろうか?
部屋の入り口がざわりとし、何かあったのかと振り返るとそこには今まさに話題に上がっている人物がいた。
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