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第二部
メトセラールの過去①
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2年後にリニが娘を産んだ。父親になった実感はすぐにはわかず、成長と共についてきた。やれ寝返りをうった、つかまり立ちをした、言葉を口にしたと、リニから聞き、実際に目にして。
妻との会話は婚姻当初から少なかったが、娘が産まれてからは少し増えた。そして表情が柔らかくなったように思う。
「旦那様も…以前より柔らかくおなりです」
「そうか? …そう見えるか」
リニとの会話は短くお互い口下手なのは変わらない。しかし信頼であったり、親愛の情のような穏やかな心の関係が出来上がっていた。そして共通の心配ごとが娘の体の弱さだった。よくせきが止まらなくなり熱を出し何日も寝こむ。
「幼い子にはよくあることです」
「しかし、顔を真っ赤にさせて苦しんでいるのだ。なんとかしてくれ」
お抱えの医師に見せ、子どもはよく熱を出す。ただの風邪だと処方された薬を飲んでも良くならない。他の病も疑ったが病名ははっきりわからず。そこで医師が提案したのが転地療養だ。環境を変えれば何かしら快方に向かうかもしれんと。
苦しそうな娘をなんとか救いたく妻と話し合い、療養先として評判が良い他領の村に妻と娘で行くことにした。自分は留守番で領地の仕事をし、ひと月後には休暇をとり会いに行く予定を無理矢理立てた。当主である父にその申し出をする「お前が行く必要はない」と嫌な顔をされたが。父は孫娘に興味を示さず無関心、赤子の時に見た以来会おうともしなかった。それよりも近々大事な客人が来ると珍しく嬉々として語っていた。
出立の日、馬車への見送りに行くと妻がためらいがちに言葉をつむいだ。
「旦那様と長く離れたことがなかったのでおさびしゅうございます…」
「それは…そう思ってくれるか。…そうだな、わたしも、さびしく思う。ひと月と言わずなるべく早く会いに行く。待っていてくれ、リニ」
「はい…お待ちしております」
「リシェ、向こうでお母様と仲良く過ごしていなさい」
「はい、おとうさまもはやくきてください。3人でもりでどんぐりをひろいたいです」
「リシェは向こうでもどんぐりか。あまりリスの食糧を奪ってはいけない」
「…わたしはどんぐりから虫が出ないか心配です」
娘のコレクションでの恐怖体験を笑い合ってしばしの別れを惜しんだ。1週間後に向こうに着いたと手紙が届き、そして次の1週間後、わたしは永遠に2人を失った。
"フェルカークの惨劇"
のちに地名にちなんで呼ばれたそれはフェルカーク村を襲った大規模な魔物の襲撃事件。普段シカやキツネなどの住む穏やかな森からなぜか凶暴な魔物が溢れ出し村に雪崩れ込み人々を襲い殺戮の限りを果たした。領主の私兵だけでは手が回らず国から派遣された騎士団と共に殲滅したのが2週間後。駆けつけたそこは破壊された家屋と血の跡のみが残された絶望的な状況だった。生き残りは命からがら馬で逃げられた数名のみ。その中に知った顔はいなかった。
呆然としたまま2人が宿泊していた建物跡に向かうとそこには見覚えのある小さな靴が片方転がっていた。4歳の誕生日に自分が娘に送ったものだった。それのそばにはどんぐりがふた粒転がっていて、こんな時にもどんぐりを持って逃げようとしたのかと思い、靴を握ってその場にうずくまって動けなくなった。
どうやって戻ったか記憶にないが屋敷にかき集めた遺品とともに帰った。玄関ホールの階段を上がって2階に上がると父が外出から帰ったようで歓喜の声を上げ階段を上がってきた。
「はははっ! ようやくかの御方をお迎えできる!」
「父上…、ただ今戻りました」
「む、おお、どこかに出ていると思ったら帰っていたか。喜べ! 我々のお仕えすべき主がこの国に入られた!」
「ああ、客人が来ると言っていましたね… それより父上、ご報告がーー」
「さっそくフェルカークで神殿跡を壊し瘴気を発生させお力に変えられた! これでさらに大望へと近づくぞ!」
「いまなんと?」
フェルカークで瘴気を発生させた? 父の客人が?
フェルカークのあのおぞましい事件は人為的なものだというのか。リニとリシェはその犠牲に?
目の前が真っ赤に染まって見えた。
妻との会話は婚姻当初から少なかったが、娘が産まれてからは少し増えた。そして表情が柔らかくなったように思う。
「旦那様も…以前より柔らかくおなりです」
「そうか? …そう見えるか」
リニとの会話は短くお互い口下手なのは変わらない。しかし信頼であったり、親愛の情のような穏やかな心の関係が出来上がっていた。そして共通の心配ごとが娘の体の弱さだった。よくせきが止まらなくなり熱を出し何日も寝こむ。
「幼い子にはよくあることです」
「しかし、顔を真っ赤にさせて苦しんでいるのだ。なんとかしてくれ」
お抱えの医師に見せ、子どもはよく熱を出す。ただの風邪だと処方された薬を飲んでも良くならない。他の病も疑ったが病名ははっきりわからず。そこで医師が提案したのが転地療養だ。環境を変えれば何かしら快方に向かうかもしれんと。
苦しそうな娘をなんとか救いたく妻と話し合い、療養先として評判が良い他領の村に妻と娘で行くことにした。自分は留守番で領地の仕事をし、ひと月後には休暇をとり会いに行く予定を無理矢理立てた。当主である父にその申し出をする「お前が行く必要はない」と嫌な顔をされたが。父は孫娘に興味を示さず無関心、赤子の時に見た以来会おうともしなかった。それよりも近々大事な客人が来ると珍しく嬉々として語っていた。
出立の日、馬車への見送りに行くと妻がためらいがちに言葉をつむいだ。
「旦那様と長く離れたことがなかったのでおさびしゅうございます…」
「それは…そう思ってくれるか。…そうだな、わたしも、さびしく思う。ひと月と言わずなるべく早く会いに行く。待っていてくれ、リニ」
「はい…お待ちしております」
「リシェ、向こうでお母様と仲良く過ごしていなさい」
「はい、おとうさまもはやくきてください。3人でもりでどんぐりをひろいたいです」
「リシェは向こうでもどんぐりか。あまりリスの食糧を奪ってはいけない」
「…わたしはどんぐりから虫が出ないか心配です」
娘のコレクションでの恐怖体験を笑い合ってしばしの別れを惜しんだ。1週間後に向こうに着いたと手紙が届き、そして次の1週間後、わたしは永遠に2人を失った。
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呆然としたまま2人が宿泊していた建物跡に向かうとそこには見覚えのある小さな靴が片方転がっていた。4歳の誕生日に自分が娘に送ったものだった。それのそばにはどんぐりがふた粒転がっていて、こんな時にもどんぐりを持って逃げようとしたのかと思い、靴を握ってその場にうずくまって動けなくなった。
どうやって戻ったか記憶にないが屋敷にかき集めた遺品とともに帰った。玄関ホールの階段を上がって2階に上がると父が外出から帰ったようで歓喜の声を上げ階段を上がってきた。
「はははっ! ようやくかの御方をお迎えできる!」
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「む、おお、どこかに出ていると思ったら帰っていたか。喜べ! 我々のお仕えすべき主がこの国に入られた!」
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「さっそくフェルカークで神殿跡を壊し瘴気を発生させお力に変えられた! これでさらに大望へと近づくぞ!」
「いまなんと?」
フェルカークで瘴気を発生させた? 父の客人が?
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