結ばれたい想いを剣に乗せて

杉の木ノキ

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第六章 王立学院サフラン・ブレイバード編

第106話 風紀部調査報告①

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 風紀部に潜入してから早一ヶ月。
 初めは覚えることが多く戸惑ったが、慣れてくると意外に楽しい。
 公務内容は頭に叩き込んだ。

 1.校内に危険物を持ち込んでいないかを取り締まる[得物や暗器を除く火器全般]
 2.文字通り風紀の取り締まり[いかがわしいこと]
 3.暴力行為の阻止。
 4.教材備品の破損報告、並びに補充。
 5.登下校時、校門前にて生徒達に挨拶しながら目を光らせる。

 と、大まかにはこんな感じだ。
 かれこれ毎日続けているが、かなり板に付いてきたと思う。
 なんたって部長であるレマに仕事を褒められた。俄然やる気も出るってもんだ。
 とはいえ、潜入調査も滞りなく進んでいる。
 現状は白だ。
 部員達による不可解な行動は見受けられない。
 
 だが、一つだけ気がかりなことがある。
 ある放課後の事だ。
 その日、予定より早く仕事を済ませた俺は時間を持て余し、部室内を掃除していた。
 ついでに証拠探しも並行して行った。
 得られたものは無く、その場を後にしようとしたその時、男女二人が言い争う声が聞こえた。
 扉の影から覗き見ると、そこには、険しい顔して佇むレマと、悠然とソファに座るエルナトがいた。

 『何度言ったらわかるの!もう他の女を連れ込むのはやめて!』

 『らしくねーな、そう熱くなんなよ。可愛い顔が台無しだぜ』

 『話を逸らさないで!あなたのそういうとこ…ほんと嫌い…』

 『そうかよ。ま、俺もお前のこと嫌いなんだけどさ。歯車がスカスカの人間ほど、扱いにくいもんはねーわ』

 『……このクズ野郎ッ!』

 激情に駆られたレマはエルナトの胸ぐらを掴み、ソファに押し倒した。
 そこにいかがわしさは微塵も無く、唾を飲むことさえはばかられるような重苦しい空気だった。
 僅かばかりの硬直の後、エルナトはレマを突き飛ばした。
 加減はしていて、レマは軽くしりもちを着いた程度で外傷は無い。
 二人は犬猿の中であると再確認した。
 レマはエルナトに対して強い執着を持っている。
 いや、もはや殺意を抱いていると言っていい。
 対するエルナトは、そんな彼女のお節介を毛嫌いし、冷静沈着に罵り、煽った。
 しかし、彼の表情は少し寂しげに見えた。
 あれは何だったのだろうか。
 
 考えれば考えるほどわからない。
 ひとまずは静観という形を取ろう。
 見回りをしながらそう決めた。

---
 
 時間はあっという間に過ぎ、生徒達は教室に戻っていく。
 まずは変身を解いて…。

 (漏れそう…)

 壁に掛けてある時計の針が直角になった辺りで尿意がMAXに。
 授業開始の鐘が鳴る中、御手洗へ急ぐ。
 今は女の子だし、御手洗も女性用だ。
 ルピナスから許可を貰っているので、堂々と利用出来る。
 でもな。体の作りまで女の子だから勝手が悪い。
 用を足すだけでも一苦労だ。
 曲がり角を抜け、女子トイレの看板を見つけた。
 良かった間に合った。

 「ハァ…ハァ…はあ?」

 思わず擬音が喉から出た。
 見慣れた金髪のエルフが鏡の前にいた。
 ミラだ。
 今授業中ですが…?

 「あらごめんなさい。今退くわね」

 親切にも退いてくれたが、鏡を使いたいわけじゃないので、頭を下げて彼女の横を通る。
 チクチクするお腹を抑えながら扉に手をかけた、その時――

 「ちょっと待って。あなた誰…?」
 
 襟元を掴まれた。
 膀胱が灼熱地獄になった。
 まずい、ミラは人の心を読めるタイプのエルフだ。
 下手な会話ができない。

 「人の心を読める?なんであなたが知っているの?それに、初対面の人にミラと呼び捨てにされるのは癪だわ。誰に教えたのか知らないけど…」

 お願いしますお願いします。
 離してくださいミラ様。

 「そのふざけた口調、ライネルでしょ?」

 「ふぇ!?ち…違いますよ!ミアですミア!」

 考えるな。反射で会話をするんだ。

 「そうなの。でも変ね。あなたは違いますよと言った。普通、誰ですかそれ?と言うのが自然な気もするのだけれど」

 「あ…でも、ライネルって人有名ですよね!だって、ほら…Sクラスの人ですから」
 
 「そうね、嘘つきのライネルティッカードはSクラスね」

 腹痛てぇ。
 二つの意味で。

 「二つの意味…ふーん、あっそ」

 「お願いです!離してください!」

 もう我慢できない。
 ミラを振り切り、個室に入った。
 ようやく一息つける。
 と、思っていた…。
 用を足している最中、頭上に人影ができた。
 恐る恐る天井を見る。

 「……マジかよ」

 もう口調すらどうでもよくなった。
 天井に張り巡らされた黒い糸をハンモックにし、俺の痴態を覗き見ているミラ。
 悪そうな笑みを浮かべ、ただじっと見つめている。
 やり返したぞオラァとでも思っているのだろうか。

 「思っているわ」

 でしょうね。

 「なのなぁミラ。これにはわけがあるんだ。頼むから、ベラベラ言いふらしたりはしないでくれよ」

 「しないわよそんなこと。でも、貴方は致命的に隠密に向いてないから、遠からずバレるわ」

 「どういう……あー、まぁな。ミラの言う通りだ」

 女性の嗜み、仕草、表情の作り方まで真似た俺だが、肝心な部分が抜けている。
 ミラが指摘しているのは、たぶん歩き方だ。
 俺はまずまずの身長を持っていたため、歩幅は大きく歩きはゆっくり。
 それが、女体化しても反映された。
 風紀部員達はみんな俺(私)より背が高く、並んで歩く時は数歩多く必要となる。
 元々背が低い人であれば、歩幅を変えずに歩きが早い人に追いつけるが、俺にはできない。
 背丈の変化に身体がついていかず、バタバタと歩くようになった。
 不自然にも走るしかなかった。

 「わかってるじゃない」

 どうすればいいか。
 歩き方を矯正するには時間がかかる。
 癖をつけたなら元に戻った時に困る。
 悩ましい。

 「わたしが教えてあげようか?」

 「え?いいの?」

 「どうせ暇だし得意分野だもの。暗殺者を舐めないで欲しいわ」

 最高かよ。
 身近な人に先生がいました。
 これで心置き無く調査ができるぞ。
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