結ばれたい想いを剣に乗せて

杉の木ノキ

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第六章 王立学院サフラン・ブレイバード編

第107話 とある少女の一日

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 --スレナ視点--

 私の一日はお湯を沸かすことから始まる。
 やかんを火にかけて、じーっと眺める。
 眺める眺める。
 湯気が出てきた。
 でも我慢我慢。
 ピーと音が鳴るまで待たなければ、温いお湯になってしまう。
 美味しい珈琲を入れるには、適切な温度を意識しなければならない。
 ぬる過ぎても熱すぎてもダメ。
 だから沸けたら水を少し入れて冷ます。
 これが私のやり方。私流の珈琲なのです。

 おっといけない、パンを焼かないと。
 網の上にパンを並べて、火をつける。
 焦げ目が付いてきたら裏返して、火が強くなってきたら弱める。
 焼けたら皿に乗せて、テーブルの上に置く。
 ハムエッグは先に作っておきました。
 後はサラダを用意して終了。
 ふっふっふっ…完璧ですなぁ…。
 これでライネルさんのハート(物理)も焦げるまで焼いてやりますよ。

 ライネルさんを起こしに2階へ上がり、扉を開けてベッドイン。
 寝顔がとっても愛らしい男性です。
 こちょこちょしても起きません。
 手を勝手にお借りしても起きません。

 「…ふぁ…おはよう」

 起きてしまいました。
 背伸びをして気持ち良さそうです。

 「おはようございます!眠そうですね!寝ましょう!」

 「起こしに来たんじゃないのか…?」

 冗談はこれくらいにしてリビングへご案内。
 テオネスとリーズさんはもう起きてます。
 リーズさんは、ぐでっと首を後ろに倒していて今にも死にそう。
 テオネスはシャキッとしてる。
 
 「おはようスレナ。相変わらず早起きだね」

 「メイドだもん。朝には強いのです」

 そう、メイドなのだ。
 居候では申し訳ないとライネルさんに頼み、メイドとして雇って貰うことになった。
 服もそのために新調した。
 お給料も出ていい事づくめ。
 現在私は、いいご主人様が見つかったと調子に乗っています。

 「おはようスレナ…朝ライネルに何をしていたのかしら?」

 何やら私にまとわりつく人がいるみたいです。
 金色の髪をしていますね。
 そう、ミラさんです。
 子供にしか見えない38歳のエルフです。
 最近肩こりが激しいらしく、私がよく揉んであげています。
 でも何故でしょう。今日は怒っています。
 何故なのでしょう。

 「起こしただけですよ?そっちの気は起きなかったようですけど」

 「そうね、朝だものね。はい現行犯ね」

 胸を鷲掴みにされました。
 乱暴に揉みしだかられます。

 「この!胸で!誘惑!したんでしょ!」

 「朝から元気ですね。無い物ねだりですか」

 「そう!よ!」

 正直過ぎて逆に可愛いです。
 
 三人を見送った後、食器を片付けます。
 あれ、ライネルさんが残ってる。
 のんびりと珈琲を飲んでいる。
 学校行かないのかな。

 「なあスレナ」

 「なんですか?」

 「ここ最近、家に変わった人来てないか?」

 ライネルさんは真面目な顔をしている。
 好き。

 「特徴は?」

 「テオネスそっくりな赤い髪をした女性だ。あ…一応言っておくけど、そんなんじゃないから。絶対」

 別にいいんですよ隠さんでも。
 でも態度からして明らかに違います。
 もっとこう、深刻そうな感じです。
 テオネスそっくりな人…そんな人いるんでしょうか。
 赤い髪を持つ人なら沢山いますけど、テオネスぐらい真っ赤な髪をした人はそういません。
 まるでリンゴの皮貼っつけてるような髪ですもん。
 
 「特には来てないです」

 「そうか…なら良かった」

 そう言って、ライネルさんは足早に学校へ向かいました。
 のんびりしすぎたのでしょう。
 少しだけ詳細が気になりましたが、二人だけの秘密ということで。
 
---
 
 さて、次は洗濯物です。
 みんなの溜まった汚れを落とします。
 大きな水槽の中に水を張り、洗剤を入れてゴシゴシと洗います。
 弱い繊維のものは優しく、逆に汚れが酷いものや頑丈な素材なら強めに力を加えます。
 最もライネルさんだけです、こんなの。
 実技の次の日なんかは酷いもんです。
 土、砂、謎、付着物が無数にあります。
 本人も気にしているようで、帰りは着替えてきます。
 帰宅してすぐ、私に、申し訳なさそうに渡してきます。
 だから、その日の夜はちょっとだけ付き合って貰います。
 あ、鍛錬ですから鍛錬。そっちじゃなくて。
 そっちしたくても、ミラさんの目が厳しいんです。
 なので自重してます。はい。

 鉄製の長い棒を刺して、ロープを先と先に縛って伸ばして、洗濯物を掛けていきます。
 はぁ…日に当たって惚れ惚れする綺麗さ。
 誰か見てください。
 ああダメだ。女性物ばかりじゃん。
 
 そんなこんなで家の中に戻り、少し休憩。
 部屋の掃除は各々がしてるから、私の出番はありません。
 よし、買い物に行きましょう。
 そう思っていたら。

 「ごめんくださーい」

 若い男性の声と、扉のノックする音が聞こえました。
 新聞屋さんですかね。
 にしては遅い気がします。
 開けてみましょう。

 「あ!スレナじゃないか、久しぶりだねー!」

 ピンク色の髪をした背の高い男性。
 爽やかで甘いフェイスを武器にする戦闘狂。
 出会い頭、いやらしい手つきで身体中を触ってきた。
 アルファだ。
 
 「触んないでください。というか、なんで貴方が此処に」

 「ちょっと野暮用があってね。ついでに寄らせてもらったよ」

 アルファが何故ここを知っているのか。
 ああテオネスか。なら納得。
 兄に負けず劣らず垂らしだよ、ほんとに。
 でも今は、ハルさんだかにぞっこんだった筈。
 ま、どうでもいいや、他人の恋路なんて。
 とりあえず家に入れ、お茶を出した。

 「テオネスなら居ませんよ。学校に行ってますから」

 「知ってるよ。本人からちゃんと聞いた」

 「ならどうして?」

 「少し相談があるんだ。なに、大した話じゃない」

 嫌な予感はしない。
 けど、表情から感情が読み取れない。
 それが不気味だ。

 「ハルという少年に何かあったら、真っ先に俺を呼んで欲しい」

 「はえ!?」

 なんで知ってるの!?
 怖い怖い怖い!テオネスが取られたからって消すつもりかもしれない!
 ……いや、冷静に考えれば違うか。
 でもなんで知ってるのか。

 「安心してくれ、悪いようにはしない」

 「いやいや、信用ならんですよ。貴方ヤバい奴ですもん。絶対殺すでしょ。テオネス返せって」

 「アッハハ!それもありか」

 「無しです!やめてください!」

 調子狂うなもう。
 アルファは気分が晴れたような顔をしてる。
 
 「まあなんだ、彼の力になってあげたいだけだよ。それが直接的にテオネスの幸せにも繋がるからね」
 
 優しい声色だった。
 諭すように温かい、まるでお父さんの言葉だ。

 「どこで知ったかは知りませんが…一先ず置いときましょう。了解です」
 
 「ありがとう。代わりに困ったことがあったら何時でも言ってね。叶えられる範囲で力になるよ」

 そんな事を言って、アルファはそそくさと帰ってしまった。
 もう少し居ても良かったのに。
 このまま一人ってのも寂しいんですよねー。

---

 そんなこんなで午後になりました。
 何しましょうか。買い物にでも行きましょうか。

 「えーっと…わお。野菜が全然無いや」

 買い足す必要がありそうです。
 とりあえず街に出ました。
 
 ライテール王国はとてつもなく広いです。
 あと明るいですね。
 陰気臭いヴォルデット王国とは違って、街ゆく人々の笑顔が眩しくて目を焼かれてしまいます。
 
 キョロキョロしてたら、あっという間に八百屋さんに到着。
 早速、入口に置いてあるカゴを持って、店内を見て回ります。
 キャベツ、ニンジン、ブロッコリー、トマト、タマネギ、セロリなどなど。
 カゴの中は一瞬でいっぱいに。
 会計しましょう。

 「お願いします」

 「はいよー!」

 元気のいいおじさんです。
 一つ一つの値段を暗記しているのか、眺めているだけで数字を出してくれました。
 暗算と言うやつでしょうか。
 凄すぎです。
 銅貨23枚でしたが、20枚にまけてくれました。

 「ありがとうございます!」

 「いいっていいって!常連さんなんだし」
 
 店を出ました。
 手を振ると、ニコニコで振り返してくれました。
 終始、心温まる感じで感動です。

---

 そろそろ夕方。
 洗濯物を取り込んで畳み、各部屋に置いてあるタンスに割り当て、収納。
 こんなの秒で終わります。
 
 夕飯は鶏肉の甘辛焼きを用意しました。
 甘いシロップにハイビスカスの蜜を一滴、その後、香辛料を軽く振りかけて焼いたライテール王国の名物料理です。
 盛り付けの野菜達は切り刻んで塩コショウと炒め、鶏肉の上に乗せます。
 食べやすくて美味しいですよ。

 ライネルさんまだかなー。

 チクタクチクタクと時計の針が聞こえる。
 おお…カチリといった。長いハリが一周しましたね。

 と、そこで。

 「ただいまー」

 ライネルさん御帰宅。

 「おかえりなさいッ!ご主人様ァ!」

 「語気が強い」

 ギュッと抱き締めると頭を撫でてくれます。
 この人は殴りません。
 何時でも何処でも優しいです。
 私を助けてくれた時だってそう。ライネルさんは困りながらも受け入れてくれた。
 放っておけないタチなんだ。そういうのは。
 変えたのはきっとミラさん。
 支えたのはテオネス。
 想い続けたのはリーズさん。
 皆ライネルさんの大切な家族。
 いつか、並んで歩ける日が来るといいな。
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