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第七章 天穹守護編

第122話 大波乱の幕開け

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 気づけば二学年になっていた。
 二学年に入ってすぐに行われた実力考査なる物は俺が一位、リードが二位、ルリアが三位。
 実力考査はAクラスと同じ問題が出題されたわけだが、結果はまさかのSクラス総埋めに終わった。
 しかも俺達上位三名は一点違い。
 殆ど変わらない実力が証明された。

 だがどうも腑に落ちない嫌な点もある。
 テオネスの成績が大幅に落ちたのだ。
 入学試験時は9位だったのに、今回は21位。
 常日頃から真面目に授業へ臨み、配布されたテキストをパラパラ読みしていれば成績は落ちないはずなのに。
 俺以上に怠けている気がする。

 いや、テオネスのことだ。
 怠けというより悩みかもしれない。
 進級初日は午前で終わりなので、こっそり聞いてみるか。
 一対一で。

 「なあテオネス。この後時間あるか?」
 
 「…え?あー、あるよ」

 一瞬反応が遅く、僅かに視線を逸らした。
 怪しい。

 「じゃあ軽くランチでも食べない?行きつけの喫茶店があるんだけど」

 「いや……家に帰りたい」

 なんか元気無いな。
 休み時間の動きを見るに友好関係に亀裂があるようには見えないし、なんなら楽しそうに話をしてた。

 「そっか。じゃあ俺も帰る」

 「えぇ!?いやいいよ!食べてきなよ!」

 「…何隠してんだ?」

 「ひっ…な、何も隠して無いよ!」

 あたふたしてて中身の無い返答。
 隠してる反応だろ。

 「はあ。じゃあちょっと待ってろ」

 俺は地面にチョークで魔法陣を描いた。
 
 「お兄…これって」

 「転移魔法陣。コルチカム先生に教えて貰ったんだ」

 「ず…狡いよッ!」

---

 と、テオネスが叫ぶ頃には自宅に着いていた。
 鍵を使用していないのに、中にいる不思議。
 俺はテオネスをソファーに置いて、横に座る。

 「さて早速本題。最近お前たるんでない?」

 「………」

 「成績云々は言うまでもなく、ハルと絡むようになってから帰りが遅い。翌日、寝不足気味で学校に向かう様を度々目撃している」

 「そんなの…お兄も一緒じゃん」

 「だな。でも成績は維持してる。俺は授業中寝たりしない」

 「…私が寝てるって誰に聞いたの?」

 「さあ?誰だろうね」

 そう言った途端、テオネスに両肩を押さえ付けられた。
 信じられない力で、恐ろしい形相で睨まれている。

 「言って」

 意外にも冷静な口調だった。

 「言わない。まず先に、俺の質問に答えろよ」

 「いいから言────────うぷッ…!」

 テオネスが俺を突き飛ばすように離れていき、トイレに駆け出した。
 トイレからは、おぇーっと、何かを吐き出す声が聞こえた。
 吐瀉物が落ちた音はしない。
 声だけだ。

 「大丈夫か?」

 「う…うん。ごめん」

 出てきたテオネスは酷く青ざめていた。
 まるで、隠匿していた秘密が明るみに出たようで。
 もう、鈍い俺でもわかる。

 「最近飯食えてるか?」

 「食べれてない…」

 「匂いが無理なんだろ」

 「うん…」

 俺はテオネスのおでこに手を当てた。
 やはり熱い。

 「熱もあるだろ。眠気はそのせいか?」

 「そう。ここ最近ずっとなんだ…」

 「そうか。ま、一旦横になれ」

 俺はテオネスをゆっくりとソファーに寝かせた?
 参ったな。
 時期といいタイミングといい、本当に最悪だ。

 「最後は何時だ?」

 「……昨日」

 「お前らなぁ…」

 「ごめん…でも好きで好きで仕方なくて、シたくなっちゃうの。ハルは身体を心配してくれるけど、抑えきれない私が誘っちゃうから…」

 「はあ…」

 テオネスは嘔吐きながら涙を流していた。
 そんな姿を見せられたら怒るに怒れない。
 にしても今か。
 学校にどう説明しよう。
 特にコルチカムなんか厄介だぞ。

 「このこと。みんなは知ってるのか?」

 「スレナにしか話してない」

 「だろうな。親友以外に話せるわけないよな」

 「うぅ…」

 妹が妊娠しました。
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