上 下
34 / 56
第七章 天穹守護編

第124話 転校生と希望の光

しおりを挟む
 Sクラス新入生、フラン。
 彼女はプルメリア神聖国の第一王女。
 花々と煌めく装飾があしらわれたドレスを身に纏い、側近のディルクレムを教室に連れてきた。
 ツインテールがよく似合う黄金の髪を持っている。

 そしてもう一人、シルバー。
 名前の通り、髪色もシルバー。
 白蘭剣王の異名を持つ、カトレア王国随一の魔導剣士である。
 剣の腕は俺と同格だが、学力はどうだろうか。
 ま、さしたる問題は無いだろうけど。

 「はい。というわけで新入生を迎えて春を終えます。みんな、わたしの言うことは絶対だからな。逆らうなよ」
 
 セスティーの機嫌がよろしくない。
 ほぼ毎日のように、理事長室に通い詰めたツケが回ってきたようだ。
 特に、何も無かったし、あるはずも無いのに。
 信用無いな、俺。

 「というか何で、セスティーがキレんだよ」

 と、口に出てきまうくらい謎だった。

---

 授業のペースは相変わらず早い。
 休み時間になると、シルバーが聞きに来る。
 そして、フランもまた尋ねてくる。

 「ライネルは、あの説明でわかんの?無理じゃない?」

 「前半十五分までの内容ならわたくしも理解出来ましたが、後半三十分は早口で意味不明でした。思わず寝てしまいましたよ」

 「そんでもって後ろの護衛さんに起こされてたよね。姫さまヤバすぎ」

 「あら。貴方もついで起こされてましたよ」

 「うん。だから超迷惑だった」

 二人は転校生同士、仲良しこよし。
 オマケは一人。
 ふざけた会話を聞き逃さないディルクレム。

 「俺は子守りではない。次の時間は寝るなよ。寝たら重力20倍で押し潰してやる」

 とまあ、圧力をかけたのだった。

---

 お昼休み。
 俺はディルクレムと共に、理事長室に呼ばれた。
 詳細は伏せられている。
 ルピナスが書類整理を済ませて、テーブル席に移動したのを確認して、俺達も座った。

 「待たなくても良かったんだぞ」

 「いえ。目上の人より先に座るのは、マナー違反ですから」

 「そんなに気を使うな。目上なら、そう。君と一緒に来た彼」

 ルピナスはディルクレムに視線を移した。

 「我が、プルメリア神聖国の象徴たる、偏屈お転婆恩人飼い殺し王女を、斯様な名門王立校サフラン・ブレイバードにて受け入れて下さり、感謝の言葉もありません」

 ディルクレムが見せた完璧な礼儀作法は、思わず見蕩れてしまうほど壮麗だった。
 しかし、やや憎しみ籠る挨拶だ。
 フランのこと、実はあまり好きではない?
 そんなわけないだろうけど。

 「この学校は問題児だらけだ。構わないよ」

 「はっ。寛大な心に感謝します」

 堅苦しいけど、これが普通なのか。
 見習おう。

 「今日二人に来てもらった理由は他でもない、君の記憶に関して。ディルクレム君たっての要望だ」

 …へ?
 ディルクレムが?

 「あの…どういうことでしょう?」

 「君の記憶。取り戻せるかもしれない」

 ルピナスの言葉に、希望の光が差し込んだ。

 「ホントですか…!?でも、一体どうやって!」

 知りたい。
 早く知りたい。
 失った彼女との記憶を取り戻して、ミラを笑顔にしたい。
 俺は興奮のあまり立ち上がってしまった。
 ディルクレムに一旦座るように言われ、腰を落とす。

 「お前の叔母の力を借りる。一定期間、時を戻すんだ」

 ディルクレムの提案は、地獄の釜に全裸で飛び込むようなものだった。

 「…え。それは無理」

 「無理ってなんだ。あの人なら可能だろう。というか、それ以外に方法は無い」

 「無理です。無理」

 正直、もう二度と関わりたくない。
 メリナは怖い。
 月に一回顔を見せろと言われてから、一度も行ってない。
 今行ったら、どの面下げて来たんだと言われて、死ぬまで監禁される。
 てか、その前に死ぬ。
 下手したら、お前の子を産みたいとか言われるかもしれない。
 もしそうなったら、テオネスより先に俺が退学になる。
 お先真っ暗だ。
 
 「心配するな、俺に任せろ。既に約束は取り付けてある」

 ディルクレムは、ニッと頼もしい笑顔で言った。
 勝手な事すんなよ。
 そんなに俺を殺したいのか。

 「何時ですか?」

 「来週末会うことになっている。良かったな」

 「いや、全然良くないです」

 あれ…?頭がクラクラしてきた。
 胃が痛い。
 テオネスも今、こんな体なのかな。
 ちょっと、えっちぃな。
 なんて言ったら、女性陣に袋叩きにあうだろう。
 
 「あ…あの。ルピナス理事長…?」

 頼みの綱はルピナス様。
 お願いします、助けてください。
 
 「震えて眠れ」

 女という奴は、いつだって残酷だ。
 ルピナスも悪魔だ。
 この瞬間だけは、そう思った。
しおりを挟む

処理中です...