少し変わった武家社会から

第四話 上江屋敷

 　俺の家臣・北村幸久とともに帰宅していた俺の前に、屋敷の門が現れた。

「若様のお帰りじゃ。開門!」

　幸久が門に向かって叫んだ。内側から返事が聞こえると、そのすぐあとから門がゆっくりと開き始めた。

　俺は自分の家なのになぜか緊張しながら門を潜った。しっかりとした櫓門が出迎えてくれるなんて全く聞いていなかった。

「おかえりなさいませ。若様。」

そう言って、俺の前に3人の男女が礼をした。

「こ奴らは、左から吉兵衛、ともえ、はるじゃ。全員が家人、従女じゃ。」

家人?従女？何それ美味しいの？　と、ハグネルに質問しようとしたが、今はそれより家に入ったほうがいいだろう。

俺の前を吉兵衛が歩いて玄関の扉を開いた。

　吉兵衛は40代前半と言った所だろうか。しかし、彼の腕は太く肌の色も黒ぐろと日焼けしていた。それらは彼の持つ力を物語っていた。

　横引きの扉が開き、俺は流れるように部屋の中に入れられた。

「おかえりなさいませ。幸太郎様。」

玄関では、先程の三人とは違ってしっかりとした着物を着た20歳前後の侍がいた。

「この者は、葉持則定。葉持家の跡取りじゃ。」

葉持家というのも、早野家の家臣なのだろうか。まあきっとそうなのだろう。

俺は、玄関から続く廊下をまっすぐあるき突き当りを右に曲がった所にある部屋に入れられた。

「間もなく夕餉の支度が整います。整いましたら大広間にお運びいたしますので、その時までこの御自室にてお待ちください。」

そう言って部屋を去っていったのはともえさんだった。

　ともえさんは20歳前後と言った所だろうか。細身な身体の割には大きな胸部だったので、意識しなくとも自然と視線が向かってしまう。

　俺は気を読んで、周りに人がいないことを確認してからハグネルに話しかけた。

「ハグネル。ちょっといいか？」

「なんじゃ？」

「さっき幸久くんと則定くんは家臣で、吉兵衛さん、ともえさん、はるさんは家人と従女だって言ってたけど、家臣と家人、従女って何が違うの？」

俺の質問に、ハグネルは少しの思案時間分の間を開けてから答えた。

「そうじゃなぁ。違いは主従関係か、支配関係かじゃないかのう。」

「どういうこと？」

「家臣の定義とは、俸給であったり土地なんかを与えて主従関係を築くことじゃ。」

これは、日本の戦国時代や江戸時代の定義とほとんど変わらない。

「ここまではお前の世界でもあるだろうが、少し難しいのが家人・従女制じゃな。」

少し違うというか、日本には全くないから俺には分からない。

「家人・従女とは、かんたんにいえば奴隷の様なものじゃな。」

「へッ!?」

　俺は奴隷という2文字を聞いた瞬間、驚きのあまりに声を出してしまった。

「まぁ落ち着きなさい。奴隷と言っても、南米やアフリカ大陸であったようなものとは限らぬ。主人によっては優しい者もおる。ただ、ひどい使い方をするものもおるがの。」

と、言うことは男子の夢である「ハーレム」を作ることも出来てしまうのか!?

そうなれば、早速従女を売っている店に買いに行かなければいけないではないか!!

「まぁ落ち着け。お前の家には借財があるゆえまずはそれを返済することじゃ。」

「え～。早くハーレム作りたいんだケド……」

俺がボーッとしていると、部屋の戸が開いた。夕ご飯いや、夕餉の支度が整ったようだ。

（そういえば、こっちの世界の食事ってどう言うやつなんだろう……）

　食事は美味しいものを食べたい。というか今の日本と変わりないものを食べたい。

俺は食事に少し不安を覚えながら自室を出た。