地獄タクシー Ⅱ

コノミナ

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5章 獣鬼

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礼司の運転するタクシーは十時過ぎに南里病院に着いた
「魔美待っていてくれ」
「はい」
車を降りると礼司と浜田と川島は
裏口から病棟に入った

そして、川島はナースステーションで加藤の病室を聞くと
「315号室よ」
礼司達は眠っている加藤の部屋を開けると加藤の顔を見た

「ん?」
「どうしました?」
「まだ獣鬼になっていない」
「顔は人間ですね」
「ああ」

「三日前には自分の足で来たんですよね。先生」
「ええ、ちゃんと診察を受けていたようよ」
「加藤は人間として生きたかったんだろうな、その時は。
でも、昨日井田真知子が体を食われたから
人間の意識がなくなっているかもしれん」

「昨日食ったのはあの毛皮じゃ?」
「そうだ、獣鬼が井田真知子の毛皮を
コントロールして食ったんだろう」
「そして、今夜も誰かの毛皮をコントロールするんですか?」
「ああ」
「夜野さんここで捕まえれば?」

「あはは、やつは獣鬼じゃないから、浜田今何時だ?」
「22時30分です」
「移動するんですか?」
「そうです、さあ行こう」
三人がドアの所へ立つと
目を開けた加藤の目がきらりと光った

タクシーに戻ると礼司が首を横に振った。
「魔美、加藤は獣鬼じゃない」
「ええっ?じゃあどこに?」
「中村洋子の首を絞めたマフラーだ」
「それなら、新宿署の鑑識が持っていると思いますよ」
浜田が二人を見て言った

「ああ、あるといいけどな。さあ行くぞ」
「はい」
「ねえ浜田さん、鑑識さん渡してくれないわよね」
「そうですね、殺人の証拠物ですから。見るだけなら」
浜田が新宿署の鑑識に電話をすると
担当の人間が帰ったと言うことで
頑なに毛皮を見せる事を拒否していた

「どうしても無理ですか?」
「はい」鑑識の職員は返事をした
「わかりました」
外で電話をしていた浜田は
礼司たちが乗っているタクシーの助手席
に乗った。

「だめでした」
「おお、もう新宿署にいないな」
「はい?」
「ああ、獣鬼なら姿を変えているぞ」
「じゃあ無くなってあわてていたわけですか」
「そうだ」
「はい」

「魔美、今何時だ?」
「22時55分、はい」
魔美は鬼のノブを礼司に手渡した
「OK、さあ鬼退治の時間だ」
「なんか、ドキドキする」
川島が言った

礼司は車のニブを鬼のノブに変えると
時計が11時を指すのを確認するとエンジンキーを回した。
すると車は金色の光を放つと周りから人影と車影が消えた

礼司がカーナビを確認すると首を傾げた。
「魔美、赤い点が見えないぞ」
「この辺に居ないのね」
「南里病院は光っていませんか」
浜田が聞いたすると

「居た!」
礼司が叫んだ

後ろから見ていた川島は後ろを振り返った。
「渋谷から移動しているわこっちの方へ」
「はい、これが獣鬼です」
礼司は車を急発進させると
川島が周りを見ながら言った。

「夜野さん早すぎません、捕まるわよ」
「あはは、この世界には鬼しか居ませんよ」
「えっ?移動したの?」川島が周りを見ながら聞くと
「ええ、ここが3ヶ所の世界をつなぐ地獄と言う所です」
魔美が川島に説明した

「そして鬼が住む世界だ」
246号線を渋谷に向かって走っていると
神泉近くで茶色い何かがすれ違った
「隊長、赤い点が通りすぎました」

「今のだ!!」
「早いです。病院へ入ってしまいました」
「そうか、厄介だなあ、浜田手を借りるぞ」
「はい、任せてください」


「建物はあるのね」
川島がぼけた話を言った
「うふふ、そうですよ。裏の世界ですから」
魔美が答えた
「魔美、ナイルたちに探させてくれ」
「はい」ドアを開けると
三匹は車から飛び出しナイルは
病院の周りを走りまわった

「浜田俺達は351号室へ行ってみよう」
礼司と浜田はロープを手に持った
「はい」
裏口のドアを開けると
嵐丸とごえもんも一緒病院に入り
ごえもんと嵐丸は1階の奥には走って行った

「魔美、俺達は3階へ行くぞ、先生と獣鬼を探してくれ」
「はい」
礼司は三階へ走って上がっていった
「大丈夫なの?私達たちだけで」
「うん、ごえもんと乱丸とナイルがいるから」
「そうなの、だってこっちは獣鬼でしょ。怖いわ」
「大丈夫よ。由美さん。うふふ」
魔美は由美の肩を叩いた
その時、ごえもんと乱丸がうなり毛を逆立てた


礼司が315号室のドアに立つと
「さあはいるぞ」
「はい」
礼司の合図とともに病室のドアを開けると
加藤が礼司に飛び掛ってきた
「うっ」

礼司はそれを避けると
加藤の腕をつかまえ放り投げた
加藤はベッドの前に転がり
両手をあげ構えた

その姿は顔にまで毛がはえ
口は前に突き出て、耳が大きく
尖っていた

手は爪が伸びそれもまた銀色の毛で
覆われていた

「ああ、獣鬼になっちまった」
「はい、まるで狼男ですね」
「ああ」
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