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第四十三話 逆襲

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二日目の開戦。

石田軍は今日も防御の布陣であるが、渡辺勘兵衛、蒲生郷舎の二人は陣形を崩しながらも織田有楽斎、山内一豊の軍勢に襲い掛かる。

武に長けたわけではない二人は勘兵衛、郷舎に圧倒され、崩れてしまう。
有楽斎の傘下に入った竹中重門は彼を救うため敗走する軍の中、一人となっても奮戦するが、敵に囲まれてしまう。

「見誤ったな。だが、仕方あるまい」

戦場で死ねる幸せを重門は感じていた。

「竹中重門、討ち取ったぞ!」

有楽斎は重門を見殺しにして少し競り合うと、戦場から早々に離脱していく。

「私たちはよく戦った。一度逃げましょう」

有楽斎は危機を察知する能力に長けている。

ーー士気が高い重門に釣られただけよ。最初から戦う気などないわ。

有楽斎の部隊が逃げていき、山内一豊、有馬豊氏、筒井定次も次々と崩壊していく。

彼らは見通しが甘かった。

ーー半日程で野戦に長ける徳川家康が勝ち、島津毛利などもこちらに靡く。

確かにその考えは間違ってはいない。
普通に戦えば史実通り家康が勝利するのは明らかである。

三成と家康を知っている者は誰しもが、そう思うだろう。
しかし、史実とは違い三成は先を読み、在野の世界的名将を味方につけた。

ーー輝政、幸長は逃げたのか?

戦闘に優れた二人は戦場にいない。
そして、味方であるはずの旧織田家臣の金森、生駒は全く手を出さない。

定次たちは命掛けで逃げ切った。


そして、家康の反撃が始まる。

左近はそれにいち早く気づき、前線にいる者たちに帰還命令を下すが、前のめりになり統制が取れない。

次の瞬間、幸長と輝政が勘兵衛と郷舎の部隊に横から攻め、旧織田家臣と屈強な徳川兵が突撃してきたのだ。

ーー三成様……どうかご無事で


勘兵衛は兵士たちを鼓舞する。

「主力である本隊が動きよった! 内府の首はいただくぞ!」

勘兵衛は十人近い兵士を討ちとり奮戦するが、戦死してしまう。
総崩れを免れようと続く郷舎、舞兵庫軍は合流する。

ーー我らを助けてくれた三成様……次は私たちが助けねば!

没落した蒲生、前野。
太閤秀吉に目をつけられ、士官が叶わなかったところで三成に助けられた。

ーー豊臣には恨みしかないが、三成様には御恩がある!

二人は5万人近い大軍勢を数度押し返し、何人もの侍大将を討ち取るが、多勢に無勢であった。

法正と島左近は浅井井頼を呼び、再び守備陣形へと変える。

「郷舎、兵庫、早く戻ってこい!」

三成は悲痛な叫びだった。

全員に恩賞を渡し、共に平和な世を歩む予定だった。

ーー死ぬのは私一人でよかったのだ。

三成は目に涙を浮かべながら彼らの無事を祈る。

兵庫と郷舎には数十人くらいの兵士しかいない。

ーー良い夢を見せてくれた。

兵庫と郷舎も奮戦し、数多くの敵兵を道連れにして果てていく。

ーー徳川家康という男を舐めていた。

法正は後悔していた。
今日を乗り越えれば、次の作戦に移ることができる。
しかし、今の三成軍では今日持ち堪えることはできないだろう。
戦国時代の武将を知り尽くした上での作戦だった。

三成だけを逃すか……守備陣形ではあるが、三成軍は6000人ほどの兵力だ。
島左近、後藤又兵衛、加藤清正、森久兵衛などの猛将はいるが、50000人の徳川軍相手には時間稼ぎにしかならないだろう。

しかし、敗戦の空気を切り裂く男が現れる。

「ガハハ! 前田慶次郎! 只今、参上!」

慶次の軍勢が旧織田家臣が率いる軍勢に突撃してきたのだ。

「久しゅうございますなぁ!! 長近殿に一正殿! では、この慶次、早速槍にてもてなし候!」

彼の明るい声が戦場に響き渡っていく。


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