三成の狙撃手〜白い死神、戦国動乱の時代に転生す〜

第四十四話 前田利益

前田慶次が大きな槍を振るい。
「さぁさぁ！　この首獲りに来い！」

慶次の目は輝いている。

ーー戦場で死ねるかもしれない。

たった1000人前後の兵力で旧織田家臣たちを蹴散らしていく。

「慶次郎か？　久しぶりだな」

前線に送られた金森長近は久しぶりの姿に嬉しくなった。
今は敵と味方だが、あの晴れやかな勇姿を見て懐かしくなる。

「おっと、長近殿、俺に近づくと危険だぜ！」

長近を守ろうとした兵士たちが一振りで遠くに吹き飛ばされていく。
慶次の側近たちも屈強であり、金森生駒軍は敗走していく。

「慶次郎、ワシは嬉しいぞ！　また会えるとな！　やはり、おぬしは格が違うな。褒美じゃ。我が首を持って行け」

長近がそう叫ぶと慶次は

「爺さんの首なんざ、いらねぇ！　アンタはもう牙を抜かれちまった。三成に詫び入れて静かに暮らしなよ」

長近は微笑む。

「ふふ、武田を追い詰めた戦も、もはや、二十年以上も前だったな……わかった。退くぞ！」

長近を含む織田旧家臣たちは退却を開始する。

「さぁ屈強な浅野池田とがっぷり四つだぜ！　てめぇら、運が良いぜ！　全くよぉ！」

ガハハと豪快に笑う前田慶次軍。
そこへ浅井井頼がやって来る。

「慶次郎殿、私に戦をご教示くだされ！」

「よし、いいぜ！　ついてきな！」

3000人ほどの浅井と前田の軍が浅野と池田軍、そして徳川軍50000人と火花を散らし合う。


一方、石田軍に加勢するように言われた毛利勝永と薄田兼相隊800人が浅井前田軍の突撃を見つめていた。

「ひぃ！　あんなの確実にやられちまう！」

兼相は怯えるが、勝永は笑顔で言う。

「それもよし！　我ら武勇が千年万年轟きましょうぞ！」

「よ、横から攻めたら、一時的には混乱するだろうけどよ。無理だぜ！」

「ならば、後詰となりましょう」

ーー毛利勝永……こいつ、伏見城のときもだったが、狂ってやがる！

勝永は森から抜け、単独で前田慶次のもとに向かう。

「ど、どう致しますか？」

兵士の一人が兼相に判断委ねる。

「行くしかねぇ！　野郎ども！　内府に生き様を見せつけてやろうぜ！」

兼相は太刀を掲げて、勝永の元に向かう。

前田慶次は浅野幸長、池田輝政の軍勢と大激闘を繰り広げ、何度も押し返す。

赤尾伊豆守が涙ながらに井頼に言う。

「この日を待っていました！　まさに浅井家の復興！」

そして、後方から加藤清正、後藤又兵衛の軍勢3000名がやってくる。


石田三成は自分から離れていく清正と又兵衛を見て困惑する。

「どうなっておるのだ！　清正と又兵衛殿も客将であるぞ！　亡くなっては黒田家と宗家に何と言えばよいか！」

左近は微笑みながら言う。

「あれが真の武士でございます。もはや、止めることはできません」

「ぬぬ……」

「ご安心ください。この左近は三成殿からは離れません」

法正も三成を宥めるように話しかける。

「ふふ、いつの時代も……仕方ありませんね。私の防御の陣形、しかとご覧ください」

三成は伝えたいことを喉奥に閉じ込めた。

確かに徳川軍の前線が崩れ始めている。
しかし、これで前田慶次たちの軍が壊滅すれば、敗走して終わる。
計算外なのだ。
守備を固めて、二日目の後にする作戦が行えない。

「お主らが来たら本陣はもぬけのからぞ！　どうなっておるのだ！」

前田慶次が豪快に笑うと、後藤又兵衛が答える。

「斯様なおもしろい戦！　おぬしだけ楽しむなど、無粋であろう！　祭りじゃ！　楽しもうぞ！」

6000人近い兵士たちが決死の突撃を見せる。

宇喜多秀家と戦う本多忠勝は動こうとするが、今離れれば福島正則の軍は崩れてしまうだろう。
動くことができない。

榊原軍も立花軍の猛攻を受け動けない。

しかし、遠くより徳川軍の旗を持つ軍勢が現れる。

「助けに参りましたぞ！」

水野軍が援軍に来たのだ。

続く