若返りおじいちゃんは異世界で魔王様を救済します

しうとらの

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プロローグ 断り方は慎重に

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 樒宗一しきみそういちは家族に見守られ、最期の時を迎えた。
 息子が骨と皮だけの手をしっかりと握ってくれている。だが、もう握り返してやることはできない。

 宗一は静かに旅立った。享年97歳。長い人生だった。

「樒宗一、あなたに頼みがあります」

 眠ったはずなのだが、どこからか声が聞こえてくる。こりゃあ、またテレビをつけたまま居眠りしちゃったのかなあ、ユキさんに叱られるなあ、と思う。

「どうか、願いを聞き入れて」

 声の主は男とも女とも判別できない。穏やかで心地のいい音。ああ、そうか、僕は死んだのか。ようやく妻のユキさんや友人達に会える。みんなをだいぶ待たせてしまったから、怒っていたりせんだろうか、などと考えを巡らせていると、宗一に呼びかける声が徐々にはっきりと聞こえてくる。

「樒宗一、人生を終えたあなたに、救っていただきたい子供がいるのです」

 子供? 幼い子? 意味もわからず、聴きなじみのある単語を反芻する。

「あの子は、とある世界で勇者となり、魔の手から世界を救ってくれました。ですが、今、あの子は窮地に立たされています」

 勇者? 魔の手? キネマか何かかい?

「あの子を救えるのは、樒宗一、あなたのほかにおりません」

 とんでもない、とんでもない、僕はもうじじいですし死んでいますから、できやしませんよ。それに僕の妻や友人が待っているので、遠慮します、としつこいセールスを断る時の感覚を思い出す。

「遠慮しないで」

 いえいえ結構です、っと思ったところで、遠慮、結構と断るのはダメだとゴルフ仲間だった坂本君(83歳)の忠告が過る。が、遅かった。

「結構、ですよね? そうですよね! そうでしょうとも! これは結構な話なのです!」

 しめたとばかりに、謎の声は跳ね上がる。

「ああ! 心優しいあなたなら、きっと引き受けてくれると信じていました。ありがとう、樒宗一」

 ちょっと待っとくれ、判子を押す前に必ず息子へ連絡をするように言われとりますので、と思ったところで宗一は気が付いた。声に出していないのに会話が成立していると。声の主の姿も見えない。見ようにも、身体の感覚もない。

「私は、あなたの生きた世界とは違う、別の世界の神ティレニア。樒宗一、あなたの身体は老朽ちました。魂だけの存在となったのです。ですから、あなたがまだ若く逞しかった時代の身体を、特別に用意しましょう。ああ、判子はいりません。口約束も立派な契約です。あなたの存在があの子を救い、ひいては、私の愛する世界を救うことになるのです。そして、あなたも」

 宗一は一層混乱した。つらつらと話し続ける声の主についていけない。老いると理解も遅くなるもので、てれ、びあ……? と横文字の言葉に気を取られ、何ひとつ聞き取れない。

「あの子の名はギルバート・レイン。かの地であなたを待っています」

 またもや横文字だ、そう思った瞬間、眠気を感じる。意識が遠退いていくさなか、悪徳商法の神が「大丈夫、あの子があなたを幸せにしてくれますよ」と言った。
 長いこと生きてきたが、いかにも怪しい悪徳宗教に初めて引っ掛かってしまった、と悔やみながら宗一は意識を失った。
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