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第七十七話『千尋さんは提案する』
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「……海?」
夏休みが始まってから二日。すっかりいつものたまり場と化したカスミさんのカフェに開店前の時間を使って居座っているなかで、衝撃的な言葉を千尋さんは発した。
確か直前まで勉強会の話をしていたはずで、『夏休みどこに出かけたいか』なんて話題にはスイッチしていなかったはずだ。言ってしまえば海なんて夏の観光スポットランキングの上位を常に独占するような場所なわけで。
「うん、海。あたしの友達で海の家と民宿やってるよーって子がいるから、そこのお手伝いも込みで勉強会の会場としてどうかなーって。そう思ったから話してみたら意外とあっさりオッケーが出ちゃったんだ」
「出ちゃったんだ……って、なんかそれ民宿で泊りがけの勉強会をするみたいな意味に聞こえるんだけど?」
「もちろん。一泊二日の海辺勉強会だよ!」
自慢げにそう宣言する千尋さんの言葉を聞いて、僕は思わず目を見開いてしまう。……多分だけど、泊りがけの勉強会とかそんな軽いノリで出せるものだとも思えなかった。
「千尋とお前の二人で旅行とか、本当だったら石にかじりついてでも止める気でいたんだけどな。これも千尋がめっちゃいろいろと手を回した結果だ、感謝するんだぞ?」
あんぐりと口を開ける僕をよそに、カスミさんが何とも言えない表情を浮かべて俺の肩を叩く。前に比べて少しは柔らかい態度で接してくれるようにはなったけども、それにしたって絶対的に千尋さんの味方をするという所には何の変りもなかった。
「……なんというか、勢いだけで通っていい話じゃないよね……」
「そこを通せるようにするのが今まで培ってきた千尋の人脈の凄いところだからな。私も何回かその片鱗を見ちゃいたが、まさか海での泊りをこんなにも手際よく取り付けられるとは私も予想外だった」
衝撃冷めやらぬままに呟く僕に、カスミさんもまたしみじみと続く。そんな僕たちの隣で、千尋さんは紅茶をすすりながら目一杯胸を張っていた。
「勉強会しかできなくなっちゃうなら、行った場所で勉強会をしちゃえばいいだけの話だからね。海でも山でも花火大会でも、そこで勉強会ができるならあたしたちがためらう理由なんて一つもないってわけだよ」
「……あの時の言葉、そういう事だったんだね……」
勉強会ができる場所に行くんじゃなくて、行った場所で勉強会をしてしまえるような状況にすればいいってことか。確かにそれは明暗ではあるけれど、それと同時にとんでもない暴論でもある。よほどのお金持ちか千尋さん並の人脈がなければ、こんなこと思いついてもできるはずがなかった。
まあ、そのどちらをもってしても花火大会ばかりは勉強会にならないと思うけど。花火見ながら課題も見るとかどっちつかずの結果で終わるような気しかしないし。
「そういうわけで、今年の夏は紡君と一緒に海に行きます。もちろん、一緒に来てくれるよね?」
僕の感服をよそに、千尋さんはどんどんと話を前に進めていく。僕からしたら海なんてとんでもないビッグイベントなのだが、その眼を見る限り海だけで終わらせる気は毛頭なさそうだ。……なんなら、海に行ってる途中に次の勉強会の予定が入ったって何らおかしくない。
裏を返せば、それぐらい本気で千尋さんは僕と過ごす夏休みの事を考えてくれているのだ。僕が小説を書いてて会話できない時でも、きっと千尋さんは色々と動いてくれたわけで。
「……うん。少しびっくりしたけど、千尋さんからの招待が嬉しくないわけないしね」
そのことを思うと、僕は自然と千尋さんの申し出を受けていた。海に行くなんて一代行事をこんなに軽く承諾するなんて我ながら安請け合いだとは思うけど、断る理由なんて何一つ存在しない。特別な人と一緒に行ける海なんて、これ以上ない青春だって言っていいわけだし。
「うん、紡君ならそう言ってくれると信じてたよ! ねねね、そうと決まれば今日中にこれとこれのドリル計画前倒しして終わらせちゃわない?」
「そうすれば海でやることも少しは減るかもしれないしね。……いいよ、そこ全部含めて今日で片づけちゃおうか」
嬉しそうな千尋さんの提案に乗っかって、僕は景気よく計画の前倒しを宣言する。……たった一度の夏休みは、どうやらきらびやかなものになりそうな雰囲気を醸し出していた。
夏休みが始まってから二日。すっかりいつものたまり場と化したカスミさんのカフェに開店前の時間を使って居座っているなかで、衝撃的な言葉を千尋さんは発した。
確か直前まで勉強会の話をしていたはずで、『夏休みどこに出かけたいか』なんて話題にはスイッチしていなかったはずだ。言ってしまえば海なんて夏の観光スポットランキングの上位を常に独占するような場所なわけで。
「うん、海。あたしの友達で海の家と民宿やってるよーって子がいるから、そこのお手伝いも込みで勉強会の会場としてどうかなーって。そう思ったから話してみたら意外とあっさりオッケーが出ちゃったんだ」
「出ちゃったんだ……って、なんかそれ民宿で泊りがけの勉強会をするみたいな意味に聞こえるんだけど?」
「もちろん。一泊二日の海辺勉強会だよ!」
自慢げにそう宣言する千尋さんの言葉を聞いて、僕は思わず目を見開いてしまう。……多分だけど、泊りがけの勉強会とかそんな軽いノリで出せるものだとも思えなかった。
「千尋とお前の二人で旅行とか、本当だったら石にかじりついてでも止める気でいたんだけどな。これも千尋がめっちゃいろいろと手を回した結果だ、感謝するんだぞ?」
あんぐりと口を開ける僕をよそに、カスミさんが何とも言えない表情を浮かべて俺の肩を叩く。前に比べて少しは柔らかい態度で接してくれるようにはなったけども、それにしたって絶対的に千尋さんの味方をするという所には何の変りもなかった。
「……なんというか、勢いだけで通っていい話じゃないよね……」
「そこを通せるようにするのが今まで培ってきた千尋の人脈の凄いところだからな。私も何回かその片鱗を見ちゃいたが、まさか海での泊りをこんなにも手際よく取り付けられるとは私も予想外だった」
衝撃冷めやらぬままに呟く僕に、カスミさんもまたしみじみと続く。そんな僕たちの隣で、千尋さんは紅茶をすすりながら目一杯胸を張っていた。
「勉強会しかできなくなっちゃうなら、行った場所で勉強会をしちゃえばいいだけの話だからね。海でも山でも花火大会でも、そこで勉強会ができるならあたしたちがためらう理由なんて一つもないってわけだよ」
「……あの時の言葉、そういう事だったんだね……」
勉強会ができる場所に行くんじゃなくて、行った場所で勉強会をしてしまえるような状況にすればいいってことか。確かにそれは明暗ではあるけれど、それと同時にとんでもない暴論でもある。よほどのお金持ちか千尋さん並の人脈がなければ、こんなこと思いついてもできるはずがなかった。
まあ、そのどちらをもってしても花火大会ばかりは勉強会にならないと思うけど。花火見ながら課題も見るとかどっちつかずの結果で終わるような気しかしないし。
「そういうわけで、今年の夏は紡君と一緒に海に行きます。もちろん、一緒に来てくれるよね?」
僕の感服をよそに、千尋さんはどんどんと話を前に進めていく。僕からしたら海なんてとんでもないビッグイベントなのだが、その眼を見る限り海だけで終わらせる気は毛頭なさそうだ。……なんなら、海に行ってる途中に次の勉強会の予定が入ったって何らおかしくない。
裏を返せば、それぐらい本気で千尋さんは僕と過ごす夏休みの事を考えてくれているのだ。僕が小説を書いてて会話できない時でも、きっと千尋さんは色々と動いてくれたわけで。
「……うん。少しびっくりしたけど、千尋さんからの招待が嬉しくないわけないしね」
そのことを思うと、僕は自然と千尋さんの申し出を受けていた。海に行くなんて一代行事をこんなに軽く承諾するなんて我ながら安請け合いだとは思うけど、断る理由なんて何一つ存在しない。特別な人と一緒に行ける海なんて、これ以上ない青春だって言っていいわけだし。
「うん、紡君ならそう言ってくれると信じてたよ! ねねね、そうと決まれば今日中にこれとこれのドリル計画前倒しして終わらせちゃわない?」
「そうすれば海でやることも少しは減るかもしれないしね。……いいよ、そこ全部含めて今日で片づけちゃおうか」
嬉しそうな千尋さんの提案に乗っかって、僕は景気よく計画の前倒しを宣言する。……たった一度の夏休みは、どうやらきらびやかなものになりそうな雰囲気を醸し出していた。
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