隻眼の英雄は表向きの居場所で望みを探す

鳥竹 ギン

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第1章 「お前の望みは何だ?」

第29話 「狙撃手との戦い」

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 暫く対峙していると不意に街の方から感じていたメイの高まりが鎮まってきた。
 「どうやらハックは破壊されたようだな。まぁメイを見れる邪眼の使い手と探しものが得意なペルラが組んだら見つかるのも時間の問題だったか」
 そう言ってロナンは肩を竦める。
 「一応聞いておくが大人しく捕縛される気はあるか」
「いや」
 ロナンが短く答えるとゲズルは両手に鎧気を纏わせ爪を伸ばした。
 「ならば実力行使する」
 そう言うとゲズルは姿を消した。目の前で起きたことにロナンは動じず銃を構えると銃口を後ろに向けて目で見ずに発砲した。
 鈍い音が響き地面に何かが落ちる音が聞こえる。ロナンが振り向くとゲズルが爪に食い込んだ銃弾を抜いていた。
 「見抜いていたか」
「何年お前と訓練していたと思っているんだ」
 ゲズルは地面を蹴ってロナンの死角に移動して攻撃するつもりだったが読んでいたようだ。
 「右目を狙うつもりだったがやはりお前相手だとちゃんと狙わないと殺せないか」
「俺を舐めるなよ」
 腰を屈め駆け出そうとした時発砲音が聞こえ、咄嗟に避けるが再び発砲音が聞こえ左脚に鈍い痛みが奔る。威力は低いがここまで近い距離から狙われたら筋肉を強化しても傷を負ってしまう。1発目は囮として撃ち、2発目で足を撃って動きを鈍らせようとしたのだろう。
「舐める?お前を相手にそんな真似なんかしない」
 そう言って狙うロナンに油断などないことは分かり切っている。
 こうすることも予期して右目を執拗に狙っていたかとゲズルは口元を引き締める。
 どれだけ体力自慢でも走り続ければ疲労が蓄積して走れなくなるように、メイを放出し続ければ一時的にメイは弱まり鎧気が薄くなってしまう。身体能力を上げ、鎧気で頭や手を覆っている上に鎧気を修復する為に相当のメイを使ったので急所である頭と胸、武器となる腕以外の箇所に鎧気を覆う余裕がない。
 だがそれはロナンも同じだろう。
「そうだろうな。後1発しか弾はないのだから余裕などないはずだ」
 ゲズルの言葉にロナンは一瞬目を細める。
「その銃に装填できるのは6発までだろう。先ほど岩肌で2発、背面での銃撃で1発、脚を狙う為に2発で計5発。そして俺が再装填を許すと思っているか」
「撃たれながら装填数を調べていたか。相変わらずとんでもない真似をするな。だがお前の右目の罅ももう限界だろう」
 そう言うとロナンは銃口をゲズルに向ける。
 死角を狙った所で3発撃って動きを予想したロナンならこの近い距離で右目を撃ち抜くのは容易いだろう。ならば一気に懐に潜り込んで無力化しなければならない。
 食らいつくか、撃たれるか。勝負は1瞬だ。それは互いに分かっているのか中々動くことが出来ない。
 街の喧騒が下から聞こえているが高台は静かで1分1秒が長く感じてしまう。
 先に沈黙を破ったのはゲズルだった。ゲズルは腰を低くしロナン目がけて駆け出す。ゲズルが駆け出すと同時にロナンは発砲する。ロナンの銃が火を噴くのと同時にゲズルは右手を突き出しメイを右手の人差し指に集中させ、人差し指の鎧気を細剣のように伸ばす。細剣は銃弾を掠め銃弾の軌道を逸らす。銃弾はゲズルの右目の鎧気を削ぎ、ゲズルの鎧気はロナンの右腕を貫いた。
 ゲズルはそのまま懐に入ると苦痛で顔を歪みながらも手に持つナイフで反撃しようとするロナンの腹に蹴りを放ち、ロナンは身体を曲げて倒れる。
「カークの真似か」
「使える手段は何でも使わねばお前を殺せないからな」
 鎧気を引き抜くゲズルにロナンは苦笑いを浮かべる。
 「何を言ってやがる。結局殺してないくせに」
「勘違いするな。お前には背後にいる者達や繋がりについて吐いてもらう為に生かしておくだけだ。その後は知った所ではない」
 冷たく言い放つゲズルにロナンはだろうなと溜息を放つ。
「だがな俺もあいつらを裏切る訳にはいかない」
 そう言って笑うロナンは突然咳き込むと血を吐き出した。
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