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10話 長野には妖精がいるらしい
しおりを挟む八月中旬、待ち合わせ当日。
待ち合わせ場所にはソータの方が先に着いていた。
「エルシー久しぶり」
この間会った時より彼はさらに日焼けをしていてその期間ずっと外に出ていた事が見て取れた。
「投稿見てたぞ。いつもより多めだったな」
夏休み前の彼の作品は、数日空いて一枚投稿されていたのが、この休み中は多くて一日二回投稿がされていた。
「時間はあるからね」
エルシーは前半バイト入り、数日前から後半は夏休みをもらった。
「行こう」
「うん」
二人は人気のないのを確認し、長野の白駒池に移動した。
日本の長野にはエルフがいるんだ。
旅立つ前、ソータはエルシーに言っていた。
目の前には、森に囲まれた巨大な白駒池が広がっている。
カシャ。
池に反射する木々の美しさにソータは我を忘れてシャッターを切っていた。
「すごい・・・ 」
呟いたソータに、エルシーも頷いた。
「ああ、ごめん。つい夢中になって」
とソータは謝ってきたが
「私にもスマホで撮り方教えて」
と言うと彼は
「喜んで!」
とエルシーのスマホを覗きながら、彼女の撮りたい構図に対してレクチャーをした。
二人して森を転移魔法を使いながら進むと途中、足場がある場所で足を止めた。
周りには苔が生えており、首を上げると周りには木々がはるか空高く生い茂り、暗く見えた先の隙間から青い空が見えた。
今度はエルシーがシャッターを切る。
ソータも真似をしてスマホを構えた。
すると、ガサっと上から音をした方を見ると、驚くべき動物に遭遇した。
「あ、リス!」
「え、どこ?」
ソータが先にリスに気がついたが、エルシーはそれを見つける事はできなく、二人してため息をついて笑いあった。
転移して川まで戻り、ボートに乗る事にした。
「いやあ、来れてよかったよ」
ボートを漕ぎながらソータは話す。
白駒池は山中にあるが、東京から高校生一人ではなかなか行きにくいスポットだ。
リスは撮れなくて残念だったけどねとソータは笑う。
「私も。
郷とは少し違うけどここが日本で似ている場所かな。
カメラも教われたし。
よかったよ」
とエルシーも満足したようだ。
「こんな景色見ながらキャンプしたら気持ちいんだろうな」
漕ぎながらソータは美しい水面を見て呟いた。
ボートにも乗って楽しめた。
目的は少し変わったが旅行らしい。
「今日は民泊をとっただろ」
美しい自然を目の前に、普段インドアなソータに湧いたアウトドアへの好奇心はエルシーにより一蹴してかき消された。
確かにこの後は予約していた民宿にチェックインしにいく予定だ。
ちなみに高校生が宿泊するにあたって、ソータは両親に承諾書を書いて、事前に連絡もしてもらった。
エルシーは直前になり、親戚という事にして何とか別室が取れたのだった。
「いいじゃん。エルシーだって郷でキャンプとかしたでしょ」
ソータは言い返したがエルシーにとっては「はてな」だ。
「ああ、そのキャンプってやつはいわゆる野宿だろ。
外に寝泊まりなんて、エルフは好き好んでしないよ」
「嘘でしょ?」
どうやらソータの想像してたエルフと、現実は違うらしい。
「まあ、魔法が使える分寝床は作ろうと思えば作れるし、動物にだって結界魔法でより付けなくはできるから、人間よりは快適に生活できる自信はあるけど」
とエルシーはソータの憧れを壊していく。
「頼もしいね・・・ 」
そのセリフとは裏腹にソータの言葉どこかはため息混じりに聞こえた。
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