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12話 エルフは女友達の家に泊まります
しおりを挟む「遅かったじゃない」
今から向かうとラナにメッセージを送ったもののエルシー達が来るのを今かと、夕飯の準備をしながら待っていたラナは、着いた途端二人を説教した。
「ごめん」
エルシーは謝る。
「まあ、いいわ」
数ヶ月ぶりだしとラナは、機嫌を戻しソータとも挨拶を交わした。
「今日の晩御飯はこの湖の魚よ」
そのチョイスにエルシーは、昼間思い出した川遊びをするラナを思い出しフッと笑った。
焚き火の準備をし、ラナは魚を上手く焼いて見せた。
塩で味付けをして食べると、ソータの口にも合いエルシーとラナは互いの近情について話す。
「二人は付き合ってないの?」
なんの脈絡もなくラナが聞いてきたのでソータと二人驚く。
「付き合ってない」
エルシーはキッパリ言うと、ソータはその回答に慣れてはいたものの下を向いていた。
つまんなーいとラナは不満気だ。
食事後は風呂だ。
「ソータくん、うちのお風呂は外にあるのよ」
食事中、バスの後ろに見えていたウッドデッキに樽が置かれていた場所までラナに案内されたソータは驚く。
「え、これお風呂だったんですか?」
「そうよ。はじめは無かったんだけど、流石にその為だけに個人の家にお風呂貸してくださいって転移魔法使ってまで言いに行くのは面倒じゃない。だから魔法で材料こしらえて作ってみたってわけ」
「すごい!」
ラナはバスの中に戻り、ソータは初めての樽風呂に入る。
この樽はラナがウイスキーの樽を農家からもらった
物だ。
目の前に設置してある竹からお湯が出ている光景も実に面白い。
外には夏のフィンランドの高原の上に夜空が広がっていて、素晴らしい旅にソータはエルシーとここまで来れた旅の幸運を噛み締めた。
つい長風呂になってしまったソータが戻ると、エルシー達はまだ二人は壁際にある横長のソファ席の向かい側同士に話していたらしい。
「おかえり~、気持ちよかったでしょう?」
「ソータ遅かったな」
と二人に言われ、ソータはバスの前の席に腰掛ける。
「すみません。星があまりにも綺麗だったからつい長くなってしまいました」
家主のラナに謝る。
「いいのよ。それをコンセプトに作ったんだから」
自慢気にラナが話す。
「次はエルシー入るでしょ?」
準備しなさいとラナは声を掛ける姿についソータは
まるで姉妹のように思えた。
「あ、ごめん。ソータくんは今日は寝床は床だから。
私、硬いとこ寝にくいのよね」
と家主はいきなり無情な言葉を言ってきた。
堪らずエルシーはほらなと言いたげに吹き出した。
「よくそんなんでヒッチハイクでやってこれたな」
「違う。それが苦痛になってここに家にしたの」
「じゃあ電気消すわね」
みな、風呂に浸かり皆寝床に入った。
ソータは真ん中の床で寝袋だ。
ラナが一応私の貸そうと思ってたんだけどと言っていたが、自然の中を旅行するために用心深い彼は荷造りをする時にリュックに入れた為遠慮した。
(念の為持って来てよかった)
複雑な気分でソータは眠りに入った。
翌日、ソータは写真と女子の二人組は目の前の湖で水遊びと別行動をとる事にした。
ラナに動物に万が一会っても襲われなくする保護魔法をソータは掛けてもらい近くの森をソータはスマホカメラを持ちながら探索する計画だ。
「これで大丈夫。でもあまり森の奥まで入ったら迷子になりそうだから遠くまで行かない事」
まるで小さな弟に注意するラナの口ぶりについにソータも弟になった気分になった。
白駒池とは背は高い木が生えてるのだが種類が違う。
昨日ここに来た時は陽が沈みそうな時だったから青空に照らされた湖の写真も一枚先に取って森に入るりカメラでソータは撮影を続けた。
一方、エルシーとラナは湖で遊ぶ。
しかしエルシーはというとかろうじて下着姿のワンピースに足だけを水につけ、昨日手に入れた魔導書で読書タイムに興じていた。
「エルシー、気持ちいわよ」
ラナはそれじゃあ水遊びの意味ないじゃないと叱り
「そういったところは昔と変わらないわね」
と苦言する。
「私が魔導書好きなのは昔からだからいいでしょ」と
エルシーは屁理屈を言う姿にラナは呆れる。
「昨日見た限り、アンタ少しは変わったと思ったのにねえ」
と言う友人にエルシーは
「そりゃ日本で暮らせばエルフも変わるよ」
と呑気だ。
「違うわよ。なんていうかソータくんが一緒ってゆうのもあるけど、郷にいた頃よりエルシーいきいきしてる感じがするのよ」
ラナは気づかなかった?と笑いまた深く潜ると沖にの方へ行ってしまった。
エルシーは魔導書を読む手を止め、ラナに言われた言葉を頭で反芻させた。
(いきいきしてる?私が?)
ラナが言ったが、自分の変化にはなかなか気づかない。
そんな訳がないとエルシーは心の中で否定した。
確かに日本は平和でカルチャーがたくさんあり楽しくはある。
でも生活スタイルは郷にいた頃と多いに違う。
最初、日本に住み始めた時に初めて触る家電に苦戦し、今でこそみんなと話せるがバイトだってエルフと説明しても周りが信じてくれるまで、どちらかというと苦い思いをした。
魔導書だって今日みたいにない。
住み始めたアパートの一室で、エルシーは無くなった郷を思い布団の中でひっそり泣いた。
思い出したくないがあの時が一番、ナーバスな時期だったのだ。
(いきいきとか、そんな訳ないだろ)
エルシーは考えるのを諦め、魔導書を日除けがわりに開いて顔に置き、そのまま仰向けになり昼寝した。
どれくらい寝ただろう。
ラナとソータの話し声が、寝ていたエルシーの遠くから聞こえた。
何を言ってるか分からないが、二人が楽しそうなのは分かった。
起きて服を来て戻るとラナは丸太を、ソータはバスのステップに腰掛けテーブルを囲んでいた。
「あ、やっと起きたわね」
ラナは怠け者が起きて来たわと嫌味を言う。
「まったく。せっかくお昼作ったのに、ソータ君が手伝ってくれたわよ」
呑気な誰かさんとは大違いねと彼女はエルシーに苦言する。
「もう、夕飯は魚一緒に捕まえてもらうわよ」
逃がさないんだからとラナが言うとエルシーは、げーと明らかに嫌そうにした。
まあまあと間に入ろうとソータは
「そういえば、昨日頂いた魚もラナさんがとった魚ですよね。潜って取ったって事ですか?」
と聞いてみた。
「ううん。最近は網でとってるわ」
とはいえ毎回探しながら見つけた際に魔法で仕留め網で確保するらしい。
「罠も貼るけど魚も頭がいいせいか、なかなか取れないのよ。
エサを食べてフンでもされたら水が汚れちゃうしね。
動物が来たらエサあげないようにしてるわ」と
食料調達もなかなか工夫してるみたいだ。
「さあ、エルシーの頑張りに今日の夕飯が掛かってるのよ。サボらない」
「うへえ」
エルシーがラナに指導される姿は、お手伝いを見張られるママと子どもだった。
結局取れたのは普通サイズと、一回り小さな魚だった。
昨日みたいに焚き火をし、そこで魚を焼く。
出来上がった魚は、ラナによって配られた。
「私のだけ小さいんだけど」
エルシーはラナに文句を言う。
「しょうがないでしょう。なんだかんだでアンタ昼はしっかり食べたじゃない」
確かにあの後エルシーは用意されたパンやハムエッグやサラダをちゃっかり食べた。
「私達は客人だよ。もてなされるべきだ」
「なんでアンタはこうも図太いのかしら」
相変わらずこのエルフ達は賑やかだ。
「なんかキャンプみたいで楽しいな」
二人のやり取りに慣れたソータは、この場を満喫しようと素直に感想を口にする。
「キャンプ」と聞くと二人は黙り、エルシーは
「だからキャンプじゃないって」とソータに忠告する。
「そうよ。あくまでここは私の家」
とラナも一緒になって別物よと聞かせる。
「え、でも外で焚き火して、そこでご飯を作るのはキャンプでしょ」
そう言ってもラナもピンと来てないようだった。
「え、嘘でしょ?じゃあエルフ達ってどう料理していたの」
その質問にはエルシーが答えた。
「普段は家の中にある暖炉でスープを作ったり、ガスのかわりに薪を入れたオーブンで肉を焼く」
「確かに外の焚き火って、郷にいた頃は秋の収穫祭の時だけだったわよね。
私もこのバスと広場のが家みたいなものだから。
キッチンと言えば自然と外になるのよね」
「確かにラナさんのバス、キッチンどこなんだろって思っていたけどそういう事だったの?」
「ええ」
「そうなんだ~」
どうやら、ソータが思い描いていたエルフの生活と事実は違うらしい。
「エルシー、なんでソータくんは元気ないの?」
「さあ・・・ 」
項垂れる彼を、エルシーも理解する事はできなかった。
「エルシー、昨日のキャンプの意味分かってなかったんだね」
ソータがそう嘆いても、その姿は彼女にはいまひとつ刺さらなかった。
「明日には郷の近くまで行かないの?」
布団に入り眠る前、ラナは二人に旅の予定を聞いて来た。
明日はラナと別れ、ついに郷があったアイルランドに向かう。
「郷はもうないからさ、行かない。アイルランドに行けば少しは帰れた気がするから別の場所に行くよ」
「そう」
ラナは思う事があったのだろう。
少し目を伏せ返事をした。
「じゃあ、電気消すわね」
と魔法を使いラナは部屋を暗くする。
エルシーは普段はしない湖で釣りをしたからか、ソータは朝から晩まで珍しく外にいたからか三人ともすぐ寝息を立てて眠りに入ってしまった。
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