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14話 エルフと推しとミュージアム
しおりを挟むそれからその日は早めに宿に行き、それぞれの部屋で過ごす事にした。
旅は終盤に差し掛かろうとしていた。
翌日は首都ダブリンで、アートや写真を楽しもうとソータは意気込んでいた。
旅の最終日の今日は、ここでお土産も買おうと彼は言った。
スマホで写真展がないか調べると、運が良い事に美術館で絵画展とは別に、写真展が行われていた。
初めて入る海外の美術館に、ソータは緊張していたみたいだが、エルシーも一緒に言語魔法を使い入場した。
巨大な作品を前に二人は圧倒され、スペースの出口まで来た際は、いつも映す写真や写真集と違うといった感想を互いに抱いていた。
お土産コーナーに立ち寄りソータは
「美術館のお土産っておしゃれだよね」
とはしゃぐ。
悩んだ末、ソータが選んだのはポストカードだった。
「はい。エルシーあげる」
美術館に併設されているカフェで、ソータはさっき買ったラッピングされたポストカードをエルシーに渡した。
「私、なにもソータに買ってないよ」
「気にしないよ。僕があげたかったの」
と彼は平然と言う。
「ありがとう」
礼を言ってエルシーはプレゼントを受け取ると、目の前のテーブルにあるソータのポラロイドカメラが
気になった。
「ねえ、そのカメラとスマホのカメラって使い分けとかしてるの?」
確かそれは亡くなった彼の祖父のプレゼントだったはずだ。
旅行中、両方のカメラを使っていたのをエルシーは気になっていたのだ。
「単純だよ。作品用がスマホで記念撮影はこっちでするんだ」
とソータがポラロイドを指でつつく。
「まあ綺麗なものは何でも撮るよ。台紙代が掛かるからあんまり使わないようにしてるんだけどね」
と彼は苦笑いしながら喋る。
あまりソータが自分の話をしないから意外だった。
エルシーは今も寂しくない。
(意外だ)
ラナと別れたら寂しくなると思ったのに、ソータの「きっと家は誰かと住むんで家になっていくんだ」の言葉を思い出す。
今ここにいるのは、自分とソータなのに寂しくない。
そう思った途端、エルシーは自分でも分からない感情に驚きを覚えた。
「エルシー、大丈夫?」
目の前のソータは急に顔色が変わったからか心配そうだ。
「大丈夫だ」
目の前のケーキを食べる事だけに集中しているとソータはエルシーの体調が回復したと思い安堵した。
そして
「エルシー昨日の事なんだけどさ」
と話を切り出して来た。
「うん?」
「家は誰かと住むんで家になるって僕言ったじゃない。あれさエルシーとは違うけど爺ちゃんが亡くなって僕が感じた事なんだ。
一緒に住んで突然体調崩したまま逝っちゃったからさ・・・ 」
口調は明るかったが、どこか寂しそうな目で彼は話した。
「そうか」
ケーキを一口含みながらエルシーはソータに返事をした。
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