36 / 59
第36話「ギルドという器」
しおりを挟む
辺境の山間に佇む《ハルド工房》は、再び平穏な日々を取り戻していた。
だがその平穏は、決して以前と同じものではない。
――鍛冶競演祭を終え、弟子たちはそれぞれに課題と覚悟を胸に刻んでいた。
そしてオリンもまた、これから先の道を見据えていた。
それは、「ギルド」という名の器を形にするという新たな挑戦だ。
◆
朝、炉に火をくべる音が静かに響く。
フェンが薪を割り、グリトが道具の整備をし、ライラが防具棚の整理をする。
サーシャは研磨用の石を整えていた。
「師匠、これ……設計図なんですけど」
グリトが差し出した紙には、工房の全体図が描かれていた。
「この際、建物も少し拡張しませんか? ギルドとしてやっていくなら、武具保管庫や依頼掲示板、それに宿泊用の部屋も必要かと」
「ふむ」
オリンは図面に目を通しながらうなずく。
「誰が描いた?」
「俺とサーシャで。フェンの意見も入ってます」
「ライラは?」
「……後で文句を言われそうだったから、最初から入れてます」
「正解だ」
オリンは静かに笑い、図面を炉のそばのテーブルに広げた。
「よし、着手しよう」
その一言で、弟子たちの目が輝いた。
「やったー! 増築だ!」
「新しい棚を作るの、楽しみだな」
「……バリケード強化の罠もつけていい?」
「それは却下だ」
ライラの案に全員が苦笑する。
それでも、笑いの絶えない朝だった。
◆
工房の奥、かつての倉庫だった部屋では、オリンが一人の来訪者を迎えていた。
「お久しぶりですね、オリン殿」
男は歳の割に若々しく、品のある身なりをしていた。
――《交易組合連盟》の書記官、レヴィン・バースト。
鍛冶競演祭の運営にも関わっていた人物であり、ギルド設立の際には避けて通れない相手だ。
「お前が来るということは……通達が?」
「ええ。王都の許可が正式に下りました。《ハルド工房》は本日付で《辺境鍛冶ギルド・ハルド》として認可されます」
その言葉に、オリンは短くうなずいた。
「……早かったな」
「貴殿の評判と、競演祭での活躍の結果です。弟子たちもずいぶん名が知れていますよ」
「名よりも、腕で語らせたいがな」
「それもまた貴殿らしい」
レヴィンは笑いながら、机に書類を並べた。
「さて、正式な認可に際しては、いくつか条件がございます。
まず一つ目――ギルド長としての登録。これはオリン殿、ご自身ですね?」
「問題ない」
「二つ目、所属構成員の名簿提出。現在の弟子たちに加えて、新たな登録希望者があるとか?」
「ああ。数日前に村の若い鍛冶見習いが一人、門を叩いた」
「年齢は?」
「十三。名はロルフ。まだ何も打てんが、目の光はよかった」
「期待の新人というわけですね」
「育てるさ。火に向き合う覚悟があるなら」
◆
日暮れどき。
増築されたばかりの部屋に、弟子たちが集められた。
壁には新たに作られた掲示板。
中央には大きな炉。そして、入り口には「辺境鍛冶ギルド・ハルド」の木彫りの看板。
「ギルドになったんだ……本当に」
ライラが、まだ信じられないというように言った。
「ギルドってさ、もっと大人数で、もっと賑やかで、もっと……あれこれ面倒くさいイメージだったけど」
「うちのギルドは、火と鉄があればいい」
オリンは静かに告げた。
「依頼はくる。試練もくる。だが、すべては火を通して鍛えればいい」
「……はい!」
弟子たちは、そろってうなずいた。
そのとき、工房の扉が軽く叩かれた。
現れたのは、見慣れぬ少年――ロルフだった。
「お、お邪魔します……! レヴィンさんに言われて来ました……ここで鍛冶を学べるって……!」
少年の手には、傷だらけの木剣。
オリンはそれを見て、軽く目を細めた。
「火は、見たか?」
「え?」
「火を見て、何を思った?」
ロルフは少し黙ってから、まっすぐ言った。
「――怖かった。でも、きれいだとも思いました!」
その答えに、オリンはうなずく。
「なら、まず炉の掃除からだ。……火の守り方を、覚えていけ」
少年の顔がぱっと明るくなった。
こうして、《ハルドギルド》は新たな“器”を迎え入れた。
そしてその火は、また一歩、未来へと伸びていく。
だがその平穏は、決して以前と同じものではない。
――鍛冶競演祭を終え、弟子たちはそれぞれに課題と覚悟を胸に刻んでいた。
そしてオリンもまた、これから先の道を見据えていた。
それは、「ギルド」という名の器を形にするという新たな挑戦だ。
◆
朝、炉に火をくべる音が静かに響く。
フェンが薪を割り、グリトが道具の整備をし、ライラが防具棚の整理をする。
サーシャは研磨用の石を整えていた。
「師匠、これ……設計図なんですけど」
グリトが差し出した紙には、工房の全体図が描かれていた。
「この際、建物も少し拡張しませんか? ギルドとしてやっていくなら、武具保管庫や依頼掲示板、それに宿泊用の部屋も必要かと」
「ふむ」
オリンは図面に目を通しながらうなずく。
「誰が描いた?」
「俺とサーシャで。フェンの意見も入ってます」
「ライラは?」
「……後で文句を言われそうだったから、最初から入れてます」
「正解だ」
オリンは静かに笑い、図面を炉のそばのテーブルに広げた。
「よし、着手しよう」
その一言で、弟子たちの目が輝いた。
「やったー! 増築だ!」
「新しい棚を作るの、楽しみだな」
「……バリケード強化の罠もつけていい?」
「それは却下だ」
ライラの案に全員が苦笑する。
それでも、笑いの絶えない朝だった。
◆
工房の奥、かつての倉庫だった部屋では、オリンが一人の来訪者を迎えていた。
「お久しぶりですね、オリン殿」
男は歳の割に若々しく、品のある身なりをしていた。
――《交易組合連盟》の書記官、レヴィン・バースト。
鍛冶競演祭の運営にも関わっていた人物であり、ギルド設立の際には避けて通れない相手だ。
「お前が来るということは……通達が?」
「ええ。王都の許可が正式に下りました。《ハルド工房》は本日付で《辺境鍛冶ギルド・ハルド》として認可されます」
その言葉に、オリンは短くうなずいた。
「……早かったな」
「貴殿の評判と、競演祭での活躍の結果です。弟子たちもずいぶん名が知れていますよ」
「名よりも、腕で語らせたいがな」
「それもまた貴殿らしい」
レヴィンは笑いながら、机に書類を並べた。
「さて、正式な認可に際しては、いくつか条件がございます。
まず一つ目――ギルド長としての登録。これはオリン殿、ご自身ですね?」
「問題ない」
「二つ目、所属構成員の名簿提出。現在の弟子たちに加えて、新たな登録希望者があるとか?」
「ああ。数日前に村の若い鍛冶見習いが一人、門を叩いた」
「年齢は?」
「十三。名はロルフ。まだ何も打てんが、目の光はよかった」
「期待の新人というわけですね」
「育てるさ。火に向き合う覚悟があるなら」
◆
日暮れどき。
増築されたばかりの部屋に、弟子たちが集められた。
壁には新たに作られた掲示板。
中央には大きな炉。そして、入り口には「辺境鍛冶ギルド・ハルド」の木彫りの看板。
「ギルドになったんだ……本当に」
ライラが、まだ信じられないというように言った。
「ギルドってさ、もっと大人数で、もっと賑やかで、もっと……あれこれ面倒くさいイメージだったけど」
「うちのギルドは、火と鉄があればいい」
オリンは静かに告げた。
「依頼はくる。試練もくる。だが、すべては火を通して鍛えればいい」
「……はい!」
弟子たちは、そろってうなずいた。
そのとき、工房の扉が軽く叩かれた。
現れたのは、見慣れぬ少年――ロルフだった。
「お、お邪魔します……! レヴィンさんに言われて来ました……ここで鍛冶を学べるって……!」
少年の手には、傷だらけの木剣。
オリンはそれを見て、軽く目を細めた。
「火は、見たか?」
「え?」
「火を見て、何を思った?」
ロルフは少し黙ってから、まっすぐ言った。
「――怖かった。でも、きれいだとも思いました!」
その答えに、オリンはうなずく。
「なら、まず炉の掃除からだ。……火の守り方を、覚えていけ」
少年の顔がぱっと明るくなった。
こうして、《ハルドギルド》は新たな“器”を迎え入れた。
そしてその火は、また一歩、未来へと伸びていく。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】勇者の孫は、自分が最強だとまだ知らない
シマセイ
ファンタジー
伝説の勇者を祖父に持つ少年アッシュは、自分がとてつもない力の持ち主であることに全く気づいていない、超がつくほどの呑気な学院生。
貴族たちが威張る王立学院でも、本人は至ってマイペース。薪割りの要領で剣を振るい、火起こしの感覚で魔法を放っては、意図せず周囲の度肝を抜く毎日を送る。
これは、最強の血を引く少年が、その無自覚さで次々と騒動を巻き起こしていく、痛快で“お気楽”な学院ファンタジー物語。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます
内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」
――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。
カクヨムにて先行連載中です!
(https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)
異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。
残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。
一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。
そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。
そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。
異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。
やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。
さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。
そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる