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第46話「仕組まれた焔、牙を試す罠」
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夜の工房は、ふだんよりも静かだった。
炉に火はなく、鉄の香りも薄い。
「……今夜は焚かないの?」
サーシャが控えめに聞くと、オリンは黙って首を横に振った。
「灰鋼の熱がまだ炉に残ってる。冷却しなきゃ次の素材を焼けない」
「うん……」
サーシャは、彼の隣に腰を下ろす。
炉の赤みを帯びた石床が、わずかに熱を帯びていた。
「ゼクスって人、最初から親方を試しに来たんだよね?」
「ああ。だが、それだけじゃない」
「“灰狐”だよね?」
オリンは静かに頷いた。
「騎士団と灰狐が組んでいるか、それとも……王都の中でも意見が割れているのか」
「でも、素材に“灰鋼”を持ち込むなんて、わかりやすすぎる」
「だからこそ“揺さぶり”だ。――鍛冶師としての信念を試す罠だ」
「……親方は、揺らがなかったよ」
サーシャの言葉に、オリンはかすかに目を細めた。
「……あの炉の中には、あいつらの目には見えない“火”がある。牙たちの火種、だ」
サーシャは言葉を返せなかった。ただ、その横顔の奥にある炎に、自分の鼓動を合わせるように黙っていた。
◆
その翌日。
赤溝谷に一通の報せが入った。
「灰狐商会が、新たに“北辺の鉱山”の鉱脈を買い占めたって……!」
グリトが目を丸くして報告する。
「そこって、うちが先月試掘してた場所じゃねえか!?」
フェンが舌打ちする。
「やられたな。騎士団の依頼にかまけてる間に、背後を突かれた」
「王都の地形資料も、いつのまにか“閲覧制限”がかかってたわ」
ライラが投げるように言った。
「おそらく“牙の拠点”を囲むようにして、じわじわと包囲網を作ってきている。資源も情報も、王都経由では取れなくなるかも」
「つまり……孤立させられる」
グリトの言葉に、場が静まる。
その時、オリンがぽつりと呟いた。
「……だったら、王都に行く」
「えっ!?」
全員が振り返った。
「親方、まさか――」
「こちらから“火”を届けに行く。正面から、堂々と」
「王都に、行くってことは――」
「《火の牙》の代表として、正式に“ギルド登録”を済ませる」
「今までは、仮登録だったよね。王都の“工房連盟”に正式認可を受けるには――」
「“工芸院”の査察を通る必要がある。……だが、それを超えれば、赤溝谷に対する正当な権利が認められる」
「リスクがでかすぎるよ! 親方がいない間に、ここを襲われたら!」
「だからこそ、牙の牙としての“爪”を見せる必要がある」
オリンの視線が弟子たちを見渡した。
「鍛冶師は“打つ”だけじゃない。“守る”こともまた、火だ」
静かに、しかし力強く――
「……ついてきてくれるか?」
しばしの沈黙。
やがて、ライラが盾を掲げた。
「誰かが“火の道”を切り拓かなきゃ、進めない。あたしは、ついてく」
「同じく」
フェンが短剣を回して笑った。
「どうせ親方がいなきゃ、鍛冶もつまんねえし」
「ぼくは……守りたい」
グリトが小さく言った。
「この工房も、仲間も、そして“火”の意味も。親方がいない間、仕掛けと補助は全部任せてよ!」
「わたしは……親方に“研ぎ澄まされた道”を敷くね」
サーシャが目を細めて、炉の方を向いた。
「みんなで、王都に火を届けよう」
こうして、《火の牙》王都進出の計画が、静かに動き出した。
◆
――だが。
その夜、谷の北門にて。
「……これは、ただ事ではないな」
ひとり、影に潜む灰狐の“目”。
「オリン・ハルドが王都へ向かうだと。しかも、牙の弟子を連れて……ふむ」
男は刻印式を使い、何かの“報告符”を天に飛ばす。
「“準備”は整っている。あとは、導火線に火をつけるだけだ」
その笑みは、夜風よりも冷たかった。
炉に火はなく、鉄の香りも薄い。
「……今夜は焚かないの?」
サーシャが控えめに聞くと、オリンは黙って首を横に振った。
「灰鋼の熱がまだ炉に残ってる。冷却しなきゃ次の素材を焼けない」
「うん……」
サーシャは、彼の隣に腰を下ろす。
炉の赤みを帯びた石床が、わずかに熱を帯びていた。
「ゼクスって人、最初から親方を試しに来たんだよね?」
「ああ。だが、それだけじゃない」
「“灰狐”だよね?」
オリンは静かに頷いた。
「騎士団と灰狐が組んでいるか、それとも……王都の中でも意見が割れているのか」
「でも、素材に“灰鋼”を持ち込むなんて、わかりやすすぎる」
「だからこそ“揺さぶり”だ。――鍛冶師としての信念を試す罠だ」
「……親方は、揺らがなかったよ」
サーシャの言葉に、オリンはかすかに目を細めた。
「……あの炉の中には、あいつらの目には見えない“火”がある。牙たちの火種、だ」
サーシャは言葉を返せなかった。ただ、その横顔の奥にある炎に、自分の鼓動を合わせるように黙っていた。
◆
その翌日。
赤溝谷に一通の報せが入った。
「灰狐商会が、新たに“北辺の鉱山”の鉱脈を買い占めたって……!」
グリトが目を丸くして報告する。
「そこって、うちが先月試掘してた場所じゃねえか!?」
フェンが舌打ちする。
「やられたな。騎士団の依頼にかまけてる間に、背後を突かれた」
「王都の地形資料も、いつのまにか“閲覧制限”がかかってたわ」
ライラが投げるように言った。
「おそらく“牙の拠点”を囲むようにして、じわじわと包囲網を作ってきている。資源も情報も、王都経由では取れなくなるかも」
「つまり……孤立させられる」
グリトの言葉に、場が静まる。
その時、オリンがぽつりと呟いた。
「……だったら、王都に行く」
「えっ!?」
全員が振り返った。
「親方、まさか――」
「こちらから“火”を届けに行く。正面から、堂々と」
「王都に、行くってことは――」
「《火の牙》の代表として、正式に“ギルド登録”を済ませる」
「今までは、仮登録だったよね。王都の“工房連盟”に正式認可を受けるには――」
「“工芸院”の査察を通る必要がある。……だが、それを超えれば、赤溝谷に対する正当な権利が認められる」
「リスクがでかすぎるよ! 親方がいない間に、ここを襲われたら!」
「だからこそ、牙の牙としての“爪”を見せる必要がある」
オリンの視線が弟子たちを見渡した。
「鍛冶師は“打つ”だけじゃない。“守る”こともまた、火だ」
静かに、しかし力強く――
「……ついてきてくれるか?」
しばしの沈黙。
やがて、ライラが盾を掲げた。
「誰かが“火の道”を切り拓かなきゃ、進めない。あたしは、ついてく」
「同じく」
フェンが短剣を回して笑った。
「どうせ親方がいなきゃ、鍛冶もつまんねえし」
「ぼくは……守りたい」
グリトが小さく言った。
「この工房も、仲間も、そして“火”の意味も。親方がいない間、仕掛けと補助は全部任せてよ!」
「わたしは……親方に“研ぎ澄まされた道”を敷くね」
サーシャが目を細めて、炉の方を向いた。
「みんなで、王都に火を届けよう」
こうして、《火の牙》王都進出の計画が、静かに動き出した。
◆
――だが。
その夜、谷の北門にて。
「……これは、ただ事ではないな」
ひとり、影に潜む灰狐の“目”。
「オリン・ハルドが王都へ向かうだと。しかも、牙の弟子を連れて……ふむ」
男は刻印式を使い、何かの“報告符”を天に飛ばす。
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その笑みは、夜風よりも冷たかった。
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