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第47話「牙、王都に立つ」
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王都《セレストラ》。
煌びやかな建造物と、迷路のように入り組んだ石畳の街路。
昼間でも空が霞んで見えるほどの人口密度と、流れるような人波の喧騒。
そんな都市の門前に、ついに《火の牙》の一行が辿り着いた。
「……でっけぇな、これが“中央”ってやつか」
グリトが目を丸くして言うと、フェンが肩をすくめた。
「人多すぎ。こっちの火種が吸われそうだぜ」
「でも、ここにしかないものもある。制度、情報、そして……火を広げる“舞台”」
ライラは背中の大盾を軽く叩いた。
オリンは無言で頷き、門番に手渡すギルド申請書を取り出す。
金の縁取りが施された厚紙には、《火の牙》の名と印がしっかりと記されていた。
「“赤溝谷の工房”か……お前ら、王都じゃまだ新参だな」
門番の青年が眉をひそめる。
「仮登録中だが、査察を受けに来た。工芸院とギルド庁には通達してある」
「……ふん。まあ、通してやる。余計なトラブル起こすなよ」
「……こっちの台詞だ」
低く呟いたオリンに、門番は聞こえなかったふりをして通行証を渡す。
こうして、《火の牙》はついに王都に足を踏み入れた。
王都の“工芸院”は、宮廷工房と隣接した中央区にあった。
石造りの厳かな門構え、外壁に彫られた「火・水・風・地」の四大元素の紋章、そしてその中央に掲げられた「創造の鍵」。
そこは、鍛冶師にとって“資格”と“格式”の象徴でもあった。
「“査察”は明日の正午。場所は第三検査炉、審査官は……」
受付でそう告げられたオリンは、何度も読み返した。
審査官の名は――
「……“ミランダ・エラード”」
その名に、サーシャが反応した。
「その人……あたしが研磨師として最後に仕事した、宮廷工房の担当者」
「因縁か」
オリンの表情は変わらないが、目の奥に火が灯る。
「彼女、すごく厳しい。でも、嘘はつかない人だった。技術にも、人にも」
「なら、こちらも正面からぶつかるだけだ。牙の“火”を見せる機会だな」
オリンの言葉に、弟子たちが頷く。
「“第三検査炉”って、確か試験炉の中でも一番古いヤツだよね」
グリトが資料を覗き込みながら言った。
「不安定な熱流、一定しない空気圧……あえて“実力”を試される構造ってわけか」
「試されるのは鍛冶師の“芯”だな」
フェンが笑う。だが、その笑みには確かな覚悟があった。
「これまでの《火の牙》のすべてを、炉にぶつけよう」
ライラがそう宣言した時、全員の心が一つになっていた。
その夜。
宿の屋上にて、オリンはサーシャと並んで空を見上げていた。
「親方、眠れない?」
「……いや、火が落ち着かないだけだ」
「……この街、嫌い?」
オリンはしばし沈黙した。
「嫌いだった。……けど、今は違う」
「今は?」
「牙がいる。弟子たちがいる。あの時と違って、俺には“火”がある」
「……ふふっ。親方って、本当に変わったよね」
「そうか?」
「前はもっと、鉄みたいに冷たかった。でも今は……炎みたいに、あったかい」
オリンは何も言わず、遠く灯る王都の光を見つめた。
「……あの炎の中に、牙の火を紛れさせる」
「うん。きっとできるよ、親方なら」
彼女の声は、風の音に溶けて夜空に消えていった。
そして、翌日。
《工芸院・第三検査炉》。
その場に立つオリンと弟子たちに、ひときわ鋭い視線を向ける一人の女性がいた。
銀の髪、整った顔立ち、硬質な瞳――
「オリン・ハルド。元・王都鍛冶連盟第四席。失脚の理由は……“職人倫理違反”」
「……」
「だが、今ここにいるあなたは、“牙”という名を背負っている」
彼女は冷静に、だが真っ直ぐに言った。
「その火、見せてもらうわ。“牙”の名に値するかどうか、審査させてもらう」
それは、過去を越えるための“火入れ”。
《火の牙》、運命の試練が始まろうとしていた――。
煌びやかな建造物と、迷路のように入り組んだ石畳の街路。
昼間でも空が霞んで見えるほどの人口密度と、流れるような人波の喧騒。
そんな都市の門前に、ついに《火の牙》の一行が辿り着いた。
「……でっけぇな、これが“中央”ってやつか」
グリトが目を丸くして言うと、フェンが肩をすくめた。
「人多すぎ。こっちの火種が吸われそうだぜ」
「でも、ここにしかないものもある。制度、情報、そして……火を広げる“舞台”」
ライラは背中の大盾を軽く叩いた。
オリンは無言で頷き、門番に手渡すギルド申請書を取り出す。
金の縁取りが施された厚紙には、《火の牙》の名と印がしっかりと記されていた。
「“赤溝谷の工房”か……お前ら、王都じゃまだ新参だな」
門番の青年が眉をひそめる。
「仮登録中だが、査察を受けに来た。工芸院とギルド庁には通達してある」
「……ふん。まあ、通してやる。余計なトラブル起こすなよ」
「……こっちの台詞だ」
低く呟いたオリンに、門番は聞こえなかったふりをして通行証を渡す。
こうして、《火の牙》はついに王都に足を踏み入れた。
王都の“工芸院”は、宮廷工房と隣接した中央区にあった。
石造りの厳かな門構え、外壁に彫られた「火・水・風・地」の四大元素の紋章、そしてその中央に掲げられた「創造の鍵」。
そこは、鍛冶師にとって“資格”と“格式”の象徴でもあった。
「“査察”は明日の正午。場所は第三検査炉、審査官は……」
受付でそう告げられたオリンは、何度も読み返した。
審査官の名は――
「……“ミランダ・エラード”」
その名に、サーシャが反応した。
「その人……あたしが研磨師として最後に仕事した、宮廷工房の担当者」
「因縁か」
オリンの表情は変わらないが、目の奥に火が灯る。
「彼女、すごく厳しい。でも、嘘はつかない人だった。技術にも、人にも」
「なら、こちらも正面からぶつかるだけだ。牙の“火”を見せる機会だな」
オリンの言葉に、弟子たちが頷く。
「“第三検査炉”って、確か試験炉の中でも一番古いヤツだよね」
グリトが資料を覗き込みながら言った。
「不安定な熱流、一定しない空気圧……あえて“実力”を試される構造ってわけか」
「試されるのは鍛冶師の“芯”だな」
フェンが笑う。だが、その笑みには確かな覚悟があった。
「これまでの《火の牙》のすべてを、炉にぶつけよう」
ライラがそう宣言した時、全員の心が一つになっていた。
その夜。
宿の屋上にて、オリンはサーシャと並んで空を見上げていた。
「親方、眠れない?」
「……いや、火が落ち着かないだけだ」
「……この街、嫌い?」
オリンはしばし沈黙した。
「嫌いだった。……けど、今は違う」
「今は?」
「牙がいる。弟子たちがいる。あの時と違って、俺には“火”がある」
「……ふふっ。親方って、本当に変わったよね」
「そうか?」
「前はもっと、鉄みたいに冷たかった。でも今は……炎みたいに、あったかい」
オリンは何も言わず、遠く灯る王都の光を見つめた。
「……あの炎の中に、牙の火を紛れさせる」
「うん。きっとできるよ、親方なら」
彼女の声は、風の音に溶けて夜空に消えていった。
そして、翌日。
《工芸院・第三検査炉》。
その場に立つオリンと弟子たちに、ひときわ鋭い視線を向ける一人の女性がいた。
銀の髪、整った顔立ち、硬質な瞳――
「オリン・ハルド。元・王都鍛冶連盟第四席。失脚の理由は……“職人倫理違反”」
「……」
「だが、今ここにいるあなたは、“牙”という名を背負っている」
彼女は冷静に、だが真っ直ぐに言った。
「その火、見せてもらうわ。“牙”の名に値するかどうか、審査させてもらう」
それは、過去を越えるための“火入れ”。
《火の牙》、運命の試練が始まろうとしていた――。
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