【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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5章

68話「春の贈り物」

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 春風が砦の花壇をゆるやかに揺らし、畑では小さなつぼみたちがいっせいに首をもたげていた。
 村も砦も、奇跡の花が咲いたその日から、どこか光に包まれているようだった。

 ノクティアは朝早く目を覚ますと、窓から春の景色を見下ろした。
 花壇の色、畑の緑、子どもたちの弾む声……。
 この場所でまた新しい一日を迎えられることが、まるで夢の続きのようだった。

    * * *

 「ノクティア様、ちょっと来てください!」

 食堂で朝食をとっていたノクティアのもとに、サーシャとフレッドが駆け込んでくる。
 息を切らし、頬を上気させ、二人はノクティアの手を引いた。

 「どうしたの?」
 「内緒! でも、すごく大事なこと!」

 不思議そうにしながらもノクティアは子どもたちに導かれて砦の外へ出る。
 すると、砦の花畑で村と砦の子どもたちが、花冠や花飾りを手にして大騒ぎしていた。

 「ノクティア様、これ、わたしたちからの贈り物です!」

 エイミーやアリシア、レオナート、砦の兵士や村の大人たちも、なにやらそわそわと見守っている。

    * * *

 花畑の中央には、子どもたちが一晩かけて作った大きな「花の冠」が置かれていた。
 たくさんの春の花、奇跡の花の花びら、色とりどりのリボンや葉っぱで編み込まれたそれは、
 まるで春そのものをかたどったような、美しい冠だった。

 「ノクティア様、カイラス様――
 ずっとわたしたちを守ってくれてありがとう!
 だから今日は、わたしたちがふたりを祝います!」

 サーシャが誇らしげに言い、フレッドがすかさず「これ、みんなで作ったんだよ!」と胸を張る。

 ノクティアは驚きと嬉しさで声が出ない。
 カイラスも、普段は無口な彼が目を丸くしていた。

 「これは……すごいな」

 「本当に、みんな……ありがとう」

 花冠はまずノクティアの頭にそっと乗せられる。
 カイラスには、もうひとつ、子どもたちが作ったシンプルな王冠のような花輪が渡される。

 「団長にも似合うかな?」

 子どもたちの笑い声に、カイラスは珍しく照れながら、
 「いや、俺にはもったいないな……」とつぶやく。

 だがノクティアがそっと手を取ると、二人は自然と見つめ合い、
 笑顔がふわりとこぼれる。

    * * *

 「さあ、今日はいよいよ“大宴会”だ!」

 レオナートの高らかな号令で、砦と村をあげた宴が始まった。
 花畑の中央に長いテーブルが並べられ、エイミーやアリシアが腕を振るった料理が次々に運ばれる。

 パン、シチュー、焼き菓子、畑の春野菜……
 子どもたちも大人たちも、お腹いっぱい食べ、笑い合い、
 この場所でしか味わえない“春の幸せ”を分かち合った。

    * * *

 宴の合間、子どもたちが劇や歌を披露する。
 エイミーは子どもたちと一緒に「奇跡の花の歌」を歌い、
 アリシアは剣さばきの妙技を見せ、レオナートは珍しくギターを弾いて場を盛り上げる。

 途中でフレッドが転んで泥だらけになり、サーシャが「だいじょうぶ?」と泣きそうになったかと思えば、
 次の瞬間には皆で転げ回って大笑い。
 誰かの帽子が羊に食べられそうになり、村の少年があわてて追いかける――
 砦には久しぶりに、屈託のない笑い声が響きわたった。

    * * *

 宴もたけなわ、エイミーがそっとノクティアに声をかける。

 「ノクティアさん、団長と一緒に花冠で踊りませんか?」

 カイラスも「せっかくだから、みんなの前で踊ろう」と手を差し出す。

 ノクティアは照れくさそうに頷き、
 カイラスの手を取り、花畑の真ん中でゆっくりと舞う。

 子どもたちや大人たちが手を叩き、
 「ノクティア様!」「団長!」「ふたりとも最高!」と声を揃える。

 ノクティアの頬には涙が伝い、
 カイラスも珍しく、幸せそうな微笑みを浮かべていた。

    * * *

 夜になっても、宴の輪は続く。
 花壇には灯火がともされ、子どもたちは疲れて眠り、大人たちは火を囲みながら語り合う。

 エイミーが「ノクティアさん、今日はもう泣いてもいいですよ」とささやき、
 ノクティアはみんなの手を握りしめた。

 「……みんな、本当にありがとう。
 私も、これからはみんなの幸せのために、生きていくね」

 カイラスが静かに寄り添い、
 「これからも、この場所を守り続けよう」と約束した。

    * * *

 春の夜風の中、砦の花畑では、花の冠がやさしく揺れていた。

 ――涙も、笑いも、希望も、全部この春の贈り物。
 ノクティアもカイラスも、そして村と砦の全員も、
 この日ばかりは、世界でいちばん幸せな笑顔になっていた。
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