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6章
77話「仮面舞踏会の夜」
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王都の夜――。
幾千もの灯りが宮殿の窓を飾り、華やかな音楽が遠くからも聞こえてくる。
年に一度の「仮面舞踏会」。魔導士会と王族、貴族たちが一堂に会し、社交と情報戦の舞台が幕を開けていた。
ノクティア・エルヴァーンは淡い桜色のドレスに身を包み、手には銀色の仮面を携えて会場の扉の前に立っていた。
隣には監察官として同伴を命じられたリュゼル――第2皇子の威厳を纏った黒の仮面が、彼の整った顔立ちを半分だけ隠している。
「緊張しているのか?」
リュゼルが小さく尋ねる。
ノクティアは微笑み返した。
「いいえ。仮面があれば、少しだけ勇気が出るみたい」
リュゼルもわずかに唇を緩めた。
「それなら良かった。……けれど、油断は禁物だ。舞踏会は“祝祭”であると同時に、敵も味方も入り混じる“戦場”だ」
ノクティアは静かに頷き、二人は腕を組むようにして会場へと歩み出した。
* * *
大広間には、色とりどりのドレスとタキシード、華やかな仮面の海。
誰もが正体を隠しつつも、目線の奥では計算と野心がせめぎ合っている。
貴族たちのささやき、魔導士たちの慎重な視線――ノクティアの登場に一瞬ざわめきが走るが、彼女は気にせずリュゼルの腕を取った。
「リュゼル様、ひと踊りしませんか?」
リュゼルは少し驚いたようにノクティアを見つめたが、すぐに微笑み返した。
「喜んで。今日は“騎士”でいさせてほしい」
ノクティアの手を取って、二人は舞踏会の中央へと進み出た。
管弦楽がゆったりと流れる。
ノクティアのドレスが、リュゼルの黒衣と柔らかなコントラストを描いて踊る。
「不思議ね……。仮面をつけていると、本当の気持ちが言いやすい気がする」
ノクティアがそう囁くと、リュゼルは一瞬だけ迷うような目をして、
「ノクティア……俺は、今夜だけは“皇子”でも“監察官”でもなく、一人の男でいたい」
ノクティアは思わず胸が高鳴るのを感じた。
舞踏会の灯りが、夢の中のようにぼんやり揺れている。
* * *
音楽が高まり、二人は自然と心を通わせていった。
「昔は、こうして踊ることなんて想像もしなかった。あなたはいつも遠い存在で……」
「君もそうだったよ。……でも、今は違う。君が隣にいると、なぜだか安心できる」
ふたりの距離が、ほんの僅かに近づいた瞬間――
「ノクティア!」
突然、重厚な男の声が響いた。
人々の視線が一斉にそちらへ向く。
大広間の端から歩み出てきたのは、砦の団長――カイラス・ヴァルドレン。
彼もまた、漆黒の仮面と濃紺の正装で、ただひとり堂々とノクティアの前に現れた。
「カイラス……!?」
「失礼。……この踊りはここまでだ」
カイラスはリュゼルの手からノクティアを引き寄せる。
そして会場に向かって宣言するように言い放った。
「ノクティアは、俺が守る。――たとえこの王都でどんなことが起きても、必ず」
会場がざわついた。
仮面の奥から色めき立つ貴族令嬢たちの視線、興味深そうに見つめる魔導士たち――
一瞬にして、舞踏会の空気が変わる。
リュゼルは一歩引き、静かにノクティアを見つめた。
ノクティアの心臓は、まるで二人の間で揺れる想いを物語るように、速く脈打っていた。
* * *
カイラスはノクティアの手を取り、やや強引に舞踏の輪から離れた。
「大丈夫だったか?」
「え、ええ……でも、少しびっくりしたわ」
「ここは危険が多い。――舞踏会の影で何かが動いている。油断するな」
カイラスのまっすぐな瞳と、そっと寄せてくる温もり。
ノクティアは動揺を隠せず、思わず手を握り返してしまう。
* * *
一方、リュゼルは自らの胸のざわめきに戸惑っていた。
(なぜ、あんなに強く彼女を奪い返したかったのか……)
だが、その時――
「リュゼル殿下、お急ぎください」
舞踏会の裏手で、密かに待っていた魔導士会の使者が、リュゼルに小さな包みを差し出した。
「これは……?」
「先程、舞踏会の控室で“失踪事件”に関わる手紙を発見しました。封蝋には、例の“黒衣の魔導士”の印章が……!」
リュゼルは顔色を変えた。
(舞踏会の混乱に紛れて、奴らが新たな動きを?)
ノクティアとカイラスにもすぐに伝えなければ――
だが今は、あの二人の姿が人ごみに紛れて見つからない。
* * *
その頃、ノクティアはカイラスとバルコニーにいた。
王都の夜風が二人の髪を揺らす。
「……私、今夜は忘れられない夜になりそう」
「俺もだ。……ノクティア、どこにいても必ず君を守る。それだけは約束する」
仮面越しに交わる視線。
けれどノクティアの心には、リュゼルの“仮面の下の本音”も強く残っていた。
(私が本当に望んでいるのは――どちらの手?)
* * *
舞踏会の明かりが、事件と恋の新たな火種を映し出す。
王都の夜はまだ終わらない――。
幾千もの灯りが宮殿の窓を飾り、華やかな音楽が遠くからも聞こえてくる。
年に一度の「仮面舞踏会」。魔導士会と王族、貴族たちが一堂に会し、社交と情報戦の舞台が幕を開けていた。
ノクティア・エルヴァーンは淡い桜色のドレスに身を包み、手には銀色の仮面を携えて会場の扉の前に立っていた。
隣には監察官として同伴を命じられたリュゼル――第2皇子の威厳を纏った黒の仮面が、彼の整った顔立ちを半分だけ隠している。
「緊張しているのか?」
リュゼルが小さく尋ねる。
ノクティアは微笑み返した。
「いいえ。仮面があれば、少しだけ勇気が出るみたい」
リュゼルもわずかに唇を緩めた。
「それなら良かった。……けれど、油断は禁物だ。舞踏会は“祝祭”であると同時に、敵も味方も入り混じる“戦場”だ」
ノクティアは静かに頷き、二人は腕を組むようにして会場へと歩み出した。
* * *
大広間には、色とりどりのドレスとタキシード、華やかな仮面の海。
誰もが正体を隠しつつも、目線の奥では計算と野心がせめぎ合っている。
貴族たちのささやき、魔導士たちの慎重な視線――ノクティアの登場に一瞬ざわめきが走るが、彼女は気にせずリュゼルの腕を取った。
「リュゼル様、ひと踊りしませんか?」
リュゼルは少し驚いたようにノクティアを見つめたが、すぐに微笑み返した。
「喜んで。今日は“騎士”でいさせてほしい」
ノクティアの手を取って、二人は舞踏会の中央へと進み出た。
管弦楽がゆったりと流れる。
ノクティアのドレスが、リュゼルの黒衣と柔らかなコントラストを描いて踊る。
「不思議ね……。仮面をつけていると、本当の気持ちが言いやすい気がする」
ノクティアがそう囁くと、リュゼルは一瞬だけ迷うような目をして、
「ノクティア……俺は、今夜だけは“皇子”でも“監察官”でもなく、一人の男でいたい」
ノクティアは思わず胸が高鳴るのを感じた。
舞踏会の灯りが、夢の中のようにぼんやり揺れている。
* * *
音楽が高まり、二人は自然と心を通わせていった。
「昔は、こうして踊ることなんて想像もしなかった。あなたはいつも遠い存在で……」
「君もそうだったよ。……でも、今は違う。君が隣にいると、なぜだか安心できる」
ふたりの距離が、ほんの僅かに近づいた瞬間――
「ノクティア!」
突然、重厚な男の声が響いた。
人々の視線が一斉にそちらへ向く。
大広間の端から歩み出てきたのは、砦の団長――カイラス・ヴァルドレン。
彼もまた、漆黒の仮面と濃紺の正装で、ただひとり堂々とノクティアの前に現れた。
「カイラス……!?」
「失礼。……この踊りはここまでだ」
カイラスはリュゼルの手からノクティアを引き寄せる。
そして会場に向かって宣言するように言い放った。
「ノクティアは、俺が守る。――たとえこの王都でどんなことが起きても、必ず」
会場がざわついた。
仮面の奥から色めき立つ貴族令嬢たちの視線、興味深そうに見つめる魔導士たち――
一瞬にして、舞踏会の空気が変わる。
リュゼルは一歩引き、静かにノクティアを見つめた。
ノクティアの心臓は、まるで二人の間で揺れる想いを物語るように、速く脈打っていた。
* * *
カイラスはノクティアの手を取り、やや強引に舞踏の輪から離れた。
「大丈夫だったか?」
「え、ええ……でも、少しびっくりしたわ」
「ここは危険が多い。――舞踏会の影で何かが動いている。油断するな」
カイラスのまっすぐな瞳と、そっと寄せてくる温もり。
ノクティアは動揺を隠せず、思わず手を握り返してしまう。
* * *
一方、リュゼルは自らの胸のざわめきに戸惑っていた。
(なぜ、あんなに強く彼女を奪い返したかったのか……)
だが、その時――
「リュゼル殿下、お急ぎください」
舞踏会の裏手で、密かに待っていた魔導士会の使者が、リュゼルに小さな包みを差し出した。
「これは……?」
「先程、舞踏会の控室で“失踪事件”に関わる手紙を発見しました。封蝋には、例の“黒衣の魔導士”の印章が……!」
リュゼルは顔色を変えた。
(舞踏会の混乱に紛れて、奴らが新たな動きを?)
ノクティアとカイラスにもすぐに伝えなければ――
だが今は、あの二人の姿が人ごみに紛れて見つからない。
* * *
その頃、ノクティアはカイラスとバルコニーにいた。
王都の夜風が二人の髪を揺らす。
「……私、今夜は忘れられない夜になりそう」
「俺もだ。……ノクティア、どこにいても必ず君を守る。それだけは約束する」
仮面越しに交わる視線。
けれどノクティアの心には、リュゼルの“仮面の下の本音”も強く残っていた。
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* * *
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