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しおりを挟む愛すべき旦那様は突如、姿を消した。
今から2ヶ月前のこと、霧の深い夜のことでした。
ふと旦那様は、城から出て霞んだ夜の空を観るとこう呟きました。
「なぁ、ティファン……愛している。 この先もずっと、ずっとだ。お前のことを愛している。愛していたい……」
いきなりそんなことを言われて私は少々、反応に困りましたが、でも心から嬉しく思いました。
彼はずっと私の側にいて愛していてくれる。
何気ない日常だとしても、私はそれがただ正しい幸せで、そんな日々が終わらぬようにと、願っていました。
「さぁ、ティファン。屋敷に戻ろう。霧もだんだんと深みを増してきた。このままでは何が起こるかわからないだろう?」
彼はそういいながら私の手を引いて一緒に城に戻りました。
だったのだけれど、
それから彼は居なくなりました。そして、帰ってきません。
私が寝ている間に消えてしまったのです。
それからというもの私は食事もままならぬ程弱ってしまいましたが、それでもいつかまた帰ってきてくれると信じて、信じて、信じて、気づけば2ヶ月もの月日が経っていました。
そして本当に、旦那様は今朝、帰ってきました。
屋敷の外の森を彷徨いながら、ここにたどり着いたようです。
信じていたのが報われて、ほっとしました。嬉しさのあまり涙が溢れて止まりませんでした。
「おかえりなさいませ愛する旦那様。貴方をずっと、ずっと待っていました」
胸の高まりと、今までの寂しさや悲しさでかつてないほどの複雑な心情で彼を迎えました。
ですが、彼の第一声は、
「貴方は誰なのだ?」
彼は記憶を失って、私のことを全て忘れてしまっていました。
涙はさらに止まらなくなりました。
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