旦那様、今では私はあなたの何にあたるのでしょうか? 

青杉春香

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1話

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私はこの屋敷に住む、ティファン・オルセリア。

オルセリア家の第一皇女である。

といっても私たちの統治するこの国は小さな田舎国であるため名高い家系でもないし、何かしら実績などがあるかと言われたらそうでもない。

ただ森の奥の辺鄙な場所に位置するこの屋敷でのんびりと暮らしている。

いわばスローライフとでも言ったところだろうか。

家族とは離れて暮らしていて、この屋敷は私専用。

せっかくだからと旦那様は結婚を機に、こちらに来てくださった。

本当に優しい方で、いつも私が喜ぶようにといちばんに私のことを考えてくださっていた。

そんな彼は今目の前で、お茶を嗜んでいる。

「なんとも美味な紅茶ですね。わざわざおもてなしまでありがとうございます」

ひとつだけ確信できることは、記憶を失ったとはいえ人柄は彼はそのもので優しさは変わらないということ。

その優しさが私に向けられると、今は正直苦しい。

でも、もし再び私のことを好きになってくれたなら、と考えてしまうのは私が悪いのだろうか?

「この紅茶をとても好んでいた人がいたんです。毎日毎日同じように呑んでいるのにいつもおいしいって……加えてお前の入れる紅茶が美味しいとおっしゃってくれる人がいたんです」

私は紅茶に大きめの角砂糖を入れると、一口、さらに一口と呑んだ。



「ーーそうだったんですね。でもわかる気がします。ティファンさんの入れる紅茶だからこそ美味しいのかもしれませんね。なんだか心がホッとするような、そんな暖かさがありますから」

なんていいながら、彼がニコッと微笑む。

ああ……。目の前にいるのにどうしてこうも寂しさを感じるのだろうか。

それと同時にどうしてこうも嬉しいんだろうか。

「ちなみにそのお方っていうのはどちら様で?」

本当に嫌になる。野暮なことを聞かないで欲しい。

でも昔からそういう人でもあったけなぁ。無自覚なんだろうけれど、ちょっぴり傷つくことも多かった。

「ーーセシル・ディオン様です」

声を振り絞るようにしてそう伝えた。

「セシル・ディオン……。なんだろうどこか親近感があるような? もしかして、私の友人だったり、なんて」

彼はもう、自分の名前すらも忘れてしまったらしい。

『素敵な名前だろ?』なんていつも自慢していたのにも関わらず、昔のあなたが悲しみますよ。友達だなんて言ったら。

私も、もう胸が痛いです。

「セシル・ディオンは、あなた…あなたの名前ですっ……!」

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