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「セシル・ディオン…私が……? セシル・ディオン…素敵な名前でよかった」
それを聞いた途端、涙が溢れて止まらなくなってしまった。
昨日、旦那様が帰ってきた時よりもずっと涙が溢れでた。
溜め込んでいた思いと、そして何より記憶を失っているのにも関わらず、なお変わらない彼の雰囲気に良かったと心から思えたのだ。
「そうです。あなたはセシル・ディオン様です。昨夜は色々あって、いいそびれてましたが、あなたは私のーー」
「ーー使用人でしょうか?」
話を遮られたと思えば、旦那様は何だか悲しい勘違いをしている。
私は結局、彼に私との関係を伝えることが出来なかった。
彼はこの屋敷にどうして帰ってきたのかはわからない。
彷徨い果てた末に帰ってきたというのだから。
だけれど、私と結婚していることなんて気づかないどころか、私との接点は、使用人だなんて、いよいよ作り笑いもできなくなりそうだ。
「えぇ…。そうです。あなたは私の優秀な使用人様だったんですよ!」
なんて、嘘を吐くことしか私にはできない。
「変だと思ったんです。あなたのような綺麗で優しく素敵な方が私と知り合いだなんて。きっとそれがありえるとするならば使用人くらいだなって。これは我ながら名推理でしたね」
旦那様は、どこまでも無垢な笑みを浮かべる。
優しくも真面目で厳しかった彼が、ここまで素直な発言をすることはかなり新鮮。
それも、私にまた好意を寄せてくれていることが何よりも喜ばしいこと。
同じ人間同士、やはり惹かれ合う何かがあるのだろうか。今の私はそう信じたい。
もういっそ使用人として、この屋敷に……私と一緒に生活してくれるというのなら、もうそれでもいいのかもしれない。なんて、思ってしまった。
それを聞いた途端、涙が溢れて止まらなくなってしまった。
昨日、旦那様が帰ってきた時よりもずっと涙が溢れでた。
溜め込んでいた思いと、そして何より記憶を失っているのにも関わらず、なお変わらない彼の雰囲気に良かったと心から思えたのだ。
「そうです。あなたはセシル・ディオン様です。昨夜は色々あって、いいそびれてましたが、あなたは私のーー」
「ーー使用人でしょうか?」
話を遮られたと思えば、旦那様は何だか悲しい勘違いをしている。
私は結局、彼に私との関係を伝えることが出来なかった。
彼はこの屋敷にどうして帰ってきたのかはわからない。
彷徨い果てた末に帰ってきたというのだから。
だけれど、私と結婚していることなんて気づかないどころか、私との接点は、使用人だなんて、いよいよ作り笑いもできなくなりそうだ。
「えぇ…。そうです。あなたは私の優秀な使用人様だったんですよ!」
なんて、嘘を吐くことしか私にはできない。
「変だと思ったんです。あなたのような綺麗で優しく素敵な方が私と知り合いだなんて。きっとそれがありえるとするならば使用人くらいだなって。これは我ながら名推理でしたね」
旦那様は、どこまでも無垢な笑みを浮かべる。
優しくも真面目で厳しかった彼が、ここまで素直な発言をすることはかなり新鮮。
それも、私にまた好意を寄せてくれていることが何よりも喜ばしいこと。
同じ人間同士、やはり惹かれ合う何かがあるのだろうか。今の私はそう信じたい。
もういっそ使用人として、この屋敷に……私と一緒に生活してくれるというのなら、もうそれでもいいのかもしれない。なんて、思ってしまった。
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