旦那様、今では私はあなたの何にあたるのでしょうか? 

青杉春香

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3話

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旦那様が帰ってきてから、はやくも二週間という月日が経った。

長いようで短く、文字通りあっという間に過ぎてしまった。

その間、旦那様は私の使用人として支えてくれた。

いつもは私が支える側だったのに、こんなことが起きるなんて想像もしてみなかった。

彼は本当に優しいため、一度も愚痴を吐くことなく働いてくれている。

もちろん働いた分の対価、給料も払っている。

実の夫に給料を渡すだなんて、何だか変な感じだけれども彼には記憶がない。

それに未だに、旦那様は自分が使用人だったと勘違いをしているのだ。

だったらなおさら、渡さないわけにもいかないし、使用人を辞めさせるわけにもいかないのだ。


だけれど、何も進展がなかったわけでもない。

少し、以前の彼を彷彿とさせるような態度や台詞があった。

私の勘違いであることも考えたが、おそらく違う。

幾度かにわたり垣間見る瞬間があった。

私のことをちゃんと名前で呼んだり。

急に私に対する口調が変わったり。

自分の使命的なものを語ったり。

偶然ではありえない、と断言できる。

「すみません。今朝は寝坊してしまい、屋敷の掃除が遅れてしまって……」

腰を低くして旦那様が私に謝る。

そんなことはどうでもいいのだ。

一緒にいれればそれでいい。

真面目な性格の彼はそうは行かないだろうけど。

「いえいえ。いつもお世話してもらってるのはこちらなので、むしろ気にせずに気軽にしててください」

すると彼は苦笑いで頭を下げて、部屋を去る。

彼が居なくなった寝室は一人ではかなり広すぎる。

大きなベッドに寝るのは私だけ。

彼は別の場所で寝泊りしている。

不思議な感覚は未だある。

夫婦円満だったはずが、他人と一つ屋根の下で暮らしているようなそんな雰囲気だ。

と、そこで

「あの、すみません。そう言えばちょっとお聞きしたいことが」

「うわぁ!」

ノックもなしに部屋に再び入ってくる旦那様。

「ノックくらいはしてくださると助かります……これでも一応ね……」

「あ、あぁ、ごめんなさい。気をつけますね。ーーところであの郵便物の中に時折混ざってる変な手紙についてなんですが」

「変な手紙?」

思い当たる節がなかったため、一度首を傾げる。

「何だか怪しげなのでいつも、主人様には渡さず僕の方で処分しているんです。誠に勝手ながら申し訳ありません。その内容についてなんですが」

「えぇ……」

意味もわからず、ただ何故か嫌な予感がした。

心をゾッとかき乱すような何かを感じた。

「『アリス・ランプルは国民を殺した罪を償うために死ぬべきだ』と書いてあるんです」

「ーーツッ」

「その他にも『許されない皇女』『平和への切符』など色んなことが書かれてまして、毎日毎日すごい数届くんです。このアリス・ランプルというのは一体どなたなんでしょう? 何故、この屋敷に届くのですか?」

「それは……」
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