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『ガチャッ』
「失礼いたします」
「アイルさん……」
長く伸びた白いまっすぐな髪と艶のなくなったシワの多い顔つきの女性が私たちの間に立つ。
使用人のアイルがまるで嫌な間を断ち切るかのように部屋に入ってきた。
彼女はこの屋敷に使える、正規の使用人。
私が幼少期の頃から支えている。
今は旦那様を使用人として教育しているのも彼女だ。
神妙な面持ちで彼女は、
「セシル様、お勤めご苦労です。ですが、そのような野暮なことをティファン様に訊くのは、あまり歓迎しませんね」
「野暮なこと……ですか。それはいったいどういう?」
困惑した表情で、旦那様がさらに問い詰める。
「セシル様、本当に忘れてしまったのですね……。わかっていてもなお、残念に思います」
「そんなこと、アイルさん! いくら貴方でも言っていいことと悪いことがあります!」
私のことを思って、彼女は失礼な発言をしたのだろうが、それは旦那様にとっては嫌味でしかない。
「いいんです。すみません。アイルさん、僕が忘れてることと何か関係があることなんですね?」
旦那様は私をなだめると、さらにアイルさんに質問を投げかける。
「それはもう大いにあります。だってアリス・ランプルという名は……」
淡々と言葉を続ける彼女。
「ーー名は?」
「まってアイルさん、それ以上は」
アイルさんに近づき、口を押さえようとするが、強い瞳で何かを訴えかけられて振り払われる。
これは、今の旦那様に聞かせるべき話ではない。
私は、彼を今でも愛している。だからこそ、痛みは取り除いてあげたい。
「ーー貴方様の元々の名前だからです。アリス・ランプルは貴方です。無礼を働いてしまい申し訳ありません。ティファン様。ですが、これは絶対に彼には伝えるべき事柄です」
「失礼いたします」
「アイルさん……」
長く伸びた白いまっすぐな髪と艶のなくなったシワの多い顔つきの女性が私たちの間に立つ。
使用人のアイルがまるで嫌な間を断ち切るかのように部屋に入ってきた。
彼女はこの屋敷に使える、正規の使用人。
私が幼少期の頃から支えている。
今は旦那様を使用人として教育しているのも彼女だ。
神妙な面持ちで彼女は、
「セシル様、お勤めご苦労です。ですが、そのような野暮なことをティファン様に訊くのは、あまり歓迎しませんね」
「野暮なこと……ですか。それはいったいどういう?」
困惑した表情で、旦那様がさらに問い詰める。
「セシル様、本当に忘れてしまったのですね……。わかっていてもなお、残念に思います」
「そんなこと、アイルさん! いくら貴方でも言っていいことと悪いことがあります!」
私のことを思って、彼女は失礼な発言をしたのだろうが、それは旦那様にとっては嫌味でしかない。
「いいんです。すみません。アイルさん、僕が忘れてることと何か関係があることなんですね?」
旦那様は私をなだめると、さらにアイルさんに質問を投げかける。
「それはもう大いにあります。だってアリス・ランプルという名は……」
淡々と言葉を続ける彼女。
「ーー名は?」
「まってアイルさん、それ以上は」
アイルさんに近づき、口を押さえようとするが、強い瞳で何かを訴えかけられて振り払われる。
これは、今の旦那様に聞かせるべき話ではない。
私は、彼を今でも愛している。だからこそ、痛みは取り除いてあげたい。
「ーー貴方様の元々の名前だからです。アリス・ランプルは貴方です。無礼を働いてしまい申し訳ありません。ティファン様。ですが、これは絶対に彼には伝えるべき事柄です」
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