旦那様、今では私はあなたの何にあたるのでしょうか? 

青杉春香

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5話

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旦那様は青く冷めた表情で、

「僕がアリス・ランプル……どういうことですか……? 僕にはセシルという名前があるはずでは」

「それは、生まれ変わった貴方の名です。元々は、アリス・ランプル。貴方はおそろしい凶悪犯罪者でした」

旦那様は、頭を抱えるようにして地面に膝から崩れ落ちる。

記憶がない上に、自分の恐ろしい過去を知ってしまったのならば、もはや精神が不安定になるのはあたりまえのことなのかもしれない。

「嘘ですよね……? ティファン様……僕は犯罪者なのですか? そんな…………」

きっと、神にも縋る気持ちで私に助けを求めているのだろう。

「いいえ、セシル様は本当に……」

「ーー嘘だァァァァァッ!!」

彼は血走った目でそう叫ぶ。

心が痛い。なんてものではなかった。

だから、言いたくなかった。知って欲しくなかった。

叶うことなら何も知らないまま生きて欲しかった。

そして仮に記憶が戻ることがあるのならば、夫婦の関係だけ思い出してくれたら他のことはどうでもいいと本気で思っていた。


けれど……

「アリス・ランプルは……凶悪犯罪者です。強盗に放火、殺人まで、あらゆる悪を働いてきました」

「あぁ……あぁ…………ァァァァァ」

床をドンドンと叩くようにして、唸る旦那様を見ながらも、辞めるわけにはいかなかった。

「ーーちゃんと聞いてくださいッ! そして、私の母は、アリス・ランプルによって殺されたのですから……」

だから、嫌だった。

言いたくなかった。

だから……

「そして私が、アリス・ランプルを殺しました……」

胸を突き刺すような激痛とともに、決死の覚悟で放った言葉。


絶望のファンファーレとでもいうべきであろうか。

この部屋にはもう光などそんな概念は存在しない。

私と彼との間には、修復の余地がないほどの溝があり、さらには見えない壁にでも阻まれているような、そんな気さえした。

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