6 / 7
5話
しおりを挟む
旦那様は青く冷めた表情で、
「僕がアリス・ランプル……どういうことですか……? 僕にはセシルという名前があるはずでは」
「それは、生まれ変わった貴方の名です。元々は、アリス・ランプル。貴方はおそろしい凶悪犯罪者でした」
旦那様は、頭を抱えるようにして地面に膝から崩れ落ちる。
記憶がない上に、自分の恐ろしい過去を知ってしまったのならば、もはや精神が不安定になるのはあたりまえのことなのかもしれない。
「嘘ですよね……? ティファン様……僕は犯罪者なのですか? そんな…………」
きっと、神にも縋る気持ちで私に助けを求めているのだろう。
「いいえ、セシル様は本当に……」
「ーー嘘だァァァァァッ!!」
彼は血走った目でそう叫ぶ。
心が痛い。なんてものではなかった。
だから、言いたくなかった。知って欲しくなかった。
叶うことなら何も知らないまま生きて欲しかった。
そして仮に記憶が戻ることがあるのならば、夫婦の関係だけ思い出してくれたら他のことはどうでもいいと本気で思っていた。
けれど……
「アリス・ランプルは……凶悪犯罪者です。強盗に放火、殺人まで、あらゆる悪を働いてきました」
「あぁ……あぁ…………ァァァァァ」
床をドンドンと叩くようにして、唸る旦那様を見ながらも、辞めるわけにはいかなかった。
「ーーちゃんと聞いてくださいッ! そして、私の母は、アリス・ランプルによって殺されたのですから……」
だから、嫌だった。
言いたくなかった。
だから……
「そして私が、アリス・ランプルを殺しました……」
胸を突き刺すような激痛とともに、決死の覚悟で放った言葉。
絶望のファンファーレとでもいうべきであろうか。
この部屋にはもう光などそんな概念は存在しない。
私と彼との間には、修復の余地がないほどの溝があり、さらには見えない壁にでも阻まれているような、そんな気さえした。
「僕がアリス・ランプル……どういうことですか……? 僕にはセシルという名前があるはずでは」
「それは、生まれ変わった貴方の名です。元々は、アリス・ランプル。貴方はおそろしい凶悪犯罪者でした」
旦那様は、頭を抱えるようにして地面に膝から崩れ落ちる。
記憶がない上に、自分の恐ろしい過去を知ってしまったのならば、もはや精神が不安定になるのはあたりまえのことなのかもしれない。
「嘘ですよね……? ティファン様……僕は犯罪者なのですか? そんな…………」
きっと、神にも縋る気持ちで私に助けを求めているのだろう。
「いいえ、セシル様は本当に……」
「ーー嘘だァァァァァッ!!」
彼は血走った目でそう叫ぶ。
心が痛い。なんてものではなかった。
だから、言いたくなかった。知って欲しくなかった。
叶うことなら何も知らないまま生きて欲しかった。
そして仮に記憶が戻ることがあるのならば、夫婦の関係だけ思い出してくれたら他のことはどうでもいいと本気で思っていた。
けれど……
「アリス・ランプルは……凶悪犯罪者です。強盗に放火、殺人まで、あらゆる悪を働いてきました」
「あぁ……あぁ…………ァァァァァ」
床をドンドンと叩くようにして、唸る旦那様を見ながらも、辞めるわけにはいかなかった。
「ーーちゃんと聞いてくださいッ! そして、私の母は、アリス・ランプルによって殺されたのですから……」
だから、嫌だった。
言いたくなかった。
だから……
「そして私が、アリス・ランプルを殺しました……」
胸を突き刺すような激痛とともに、決死の覚悟で放った言葉。
絶望のファンファーレとでもいうべきであろうか。
この部屋にはもう光などそんな概念は存在しない。
私と彼との間には、修復の余地がないほどの溝があり、さらには見えない壁にでも阻まれているような、そんな気さえした。
0
あなたにおすすめの小説
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―
柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。
しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。
「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」
屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え――
「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。
「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」
愛なき結婚、冷遇される王妃。
それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。
――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。
【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新 完結済
コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください
みゅー
恋愛
異世界へ転生したと気づいた主人公。だが、自分は登場人物でもなく、王太子殿下が見初めたのは自分の侍女だった。
自分には好きな人がいるので気にしていなかったが、その相手が実は王太子殿下だと気づく。
主人公は開きなおって、勝手にやって下さいと思いなおすが………
切ない話を書きたくて書きました。
ハッピーエンドです。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる