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雑なプロローグ
異世界転生より普通に青春ラブコメが好き
しおりを挟む「いや~残念だったね。まさか初版3000部の半分も売れないだなんて……。山根くん、もしよかったら、というか半分強制的にだが、次の作品は異世界転生モノにしたらどうかな?」
ライトノベル作家としてデビューをして、第二作目になる作品は学園モノのなんの捻りもない、ただただまっすぐな青春ラブコメだった。
今、編集者の田中さんに言われたとおり、その作品の売り上げは初版の発行部数を大きく下回り、1200部ほどしか売れなかったらしい。
自分の全身全霊をかけて挑んだ、超傑作だった……はずだ。
あまりの売れ行きの悪さに、自分自身がそれを疑ってしまう。
この作品をシリーズ化して小説一本だけで飯を食べて行こうと考えていたためか、ショックはかなりのものだった。
何かで例えるならば、片想いしてる女子に、まだ告白すらされてない状況下でフラれるのと同じくらいショックだった。
いや、もっと別の例えをするならば、両思いだと思っていた女子に告白をしたら、実は別の彼氏がいて、罰ゲームで思わせぶりな態度を取っていたと言われるくらいショックだった。
なんとも分かり易すぎる例えで逆に申し訳ない。
とにかく、それくらい本気だったのだ。
いつのまにか、これでダメならもう作家を辞めてもいいと思えるほどにすら至っていた。
残念だったね。の一言で片付けられるような問題ではない。
「次回作は無しにしてください。もう俺はここで作家人生に幕を閉じます。デビュー直後も申し上げたとおり異世界転生モノはよくわかりませんし、興味もありません。それに、俺は青春ラブコメしか書けませんから」
最近のライトノベルで一番人気といえるジャンルがまさに異世界転生もの。
ライトノベル作家として食っていくためには、飽和状態である異世界転生ものを書く方がまだ生き残れる確率が高い。
だけど、俺が望んでいたのは自分の好きな作品を書いて、なおかつ売れること。
そんな都合のいい話ないだろうとは自分でもわかりきってはいたが、どうしても諦められなかった結果が今なのだ。
「えぇ……! まだ二作目だよ!山根くん! 君の描く物語はとても面白いし、このまま辞めるなんて才能のある人のすべきことじゃないよ。考えなおしてくれないかな?」
田中さんは手を四方八方に振りながら、困ったように諭す。
「すみませんが、もう決めたことです。俺は今回の作品に全てをかけていたので、それが売れないのであればもうどうしようもありません。それに作品の内容自体には満足しています。これ以上の作品は今後もう二度と書けないだろうと思うほどに……です」
悔しさを堪えきれず、うるうるとした瞳で返事をした。
こんな結末を迎えるなんて、プロデビューが決定したときの俺は、いや小説家を目指していた純粋な俺は知る由もなかった。
いくら夢をみたところで、それはやはりこうしていつかは覚めてしまうものなのか。
正直、今は何も考えたくもない。
「えぇ……ならば仕方ないねぇ。本当はこんなことしたくないんだけど……」
どこかバツが悪そうに田中さんが視線を向けてくる。
「……どういうことですか?」
と困惑気味に訊くと、
「いやぁ、まだ物語の始まりですらない、プロローグ的な場面でこういった展開は望まないってことよ」
「????」
田中さんの発言の意図が掴めず、俺は疑問符しか頭に浮かばない。
「わかんないの? じゃあもうさっさと済ませよう」
「だから一体なんの話を」
「ーーリバース‼︎」
田中さんがそう言葉を放った瞬間だった。
足元に謎の円が出現し、凄まじい光を放つ。
「ま、魔法陣ってやつか!?」
その瞬間、俺は全てを悟った。
この展開はおそらく、もうそれしかないと。
なんと都合よく序盤から話が展開するのだろうか。
「少々の別れだね。山根くん。次回作、楽しみにしているよ」
その言葉を最後に、気づいたら俺は知らない高原に立っていた。
文字通り、異世界転生ってやつだろう。
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