備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず

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第2章 矢作、村を出る?!

夜勤にはオヤツが付き物です?!

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ほー、ほー、ほー。

フクロウではないが、何かが鳴いている。
夜遅くに立つ台所には、物音1つしない。

いや、させてはダメだ。

そーっと、昼間に仕込んだカゴの中身を取り出しながら最後の仕上げをする。

カゴの中身は、茹でたじゃがいもだ。
こっちの世界にも、結構似た野菜があるので助かる。
茹でじゃがとくれば、俺好みならばコレ。

じゃがいも餅だ。

前にこっそり作った片栗粉を潰したじゃがいもに混ぜて焼くだけ。
おっと、大事なものを忘れた。

塩を少々。

この世界では、塩は貴重品。
だが俺は幸運にも、村長さんと出会った森で岩塩を見つけたから収納庫には軽く1年分位はある。

夜勤は、疲労感がエグい。
そんな時は、塩気は美味いのだ。

そして、疲労感に効くのは塩分だけじゃない。
そう、甘いものも欠かせない。
だから、ちょっと秘蔵品から取っておきを出そうと決めた。

旅に出る前に保存食を色々作った。
その中でも、芋類は最強だ。
さつまいもや、じゃがいもはラッセルさんから買い付けた。
(畑に作付もしてきた。村長さんの奥さんに収穫を頼んだから、また買い付け出来る予定だ。)

そう、そしてさつまいもの保存食と言えば。

干し芋!!

ねっとりした甘みが最高の1品だ。
砂糖なしで、これほどの甘みとは。。


さて、出来上がりを持って玄関へ向かう。
とは言っても玄関はすぐソコだ。

この村の家は全部小さい。
しかも、全て平屋。

そのせいで寝ている場所が近いから、音には敏感になる。忍び足でも気付かれずに外に出るのは意外に骨が折れる。

ほー、ほー、ほー。

また鳴いてるな。いったいなんの鳥だろ?
異世界の鳥の種類には詳しくない。

夜の村の中は静まり返っている。
野盗がまた来るかもしれないと言ったら、村人に笑われた。
『矢作様は、心配性だね。これほどの守りがあるんだよ。完璧な守りだわ。
そして、それはあんたらのおかげだわ。
いや、それだけじゃない。本当に何もかも。。ほんとに。。』また、泣かれた。

涙脆いのが、この村の特徴。
おばあさんとは言え、女性の涙に恐れをなした俺はその場から逃亡した。

おばあさんの言う事は、分かる。
好青年も同じ事言ってたし。

でも、村を囲む外壁は、木製の杭。
隙間だってある。
コンクリートを知ってる人間としては心配して当然だと思う。

『でも…』と不安を隠せない俺に好青年が
微笑む。

何?
女性じゃないから、色気は必要ないのだけど、ど、どうしたら良い?!

『矢作さん、では交代制で見張りを立てましょう。これで安心して寝てください。』

しまった。
二重の意味で失敗した。

色気とか気にしてる場合じゃなかった。
俺の不安のせいで、見張りに立つ人が出来てしまった。

危険で辛い夜勤の発生だ。


こんなオヤツの差し入れ程度では許されないかもしれないが気は心。

危険なモノだらけの世界。
唯一の武器、収納庫も今は制限があって、あまり役に立たない。
いつの間にか頼りにしていたキョウとハクは、俺が草薙を召喚(してないが…)してから何処か行かねばならないと言って消えた。

『よいか、首都へ向かうのだぞ。我は必ず戻る。そしてその間は自重をする事!!』
こんなに小言など言われたのは、小学校の先生以来だ。少しこそばゆい気持ちに戸惑いながら『もちろん。』と答えた。

何故か2人とも微妙な顔をしていたが。

うむ、【もちろん】の意味がこっちでは違うのかな。

考え事をしながら歩いていたら、南門に着いた。今夜はルフの当番だった。

『ルフ、ご苦労さまです。これを食べて夜勤頑張ってください。』
籠を1つ差し出すと、いつもの言葉がかえってきた。

『矢作さん、こんな寒い時間に出歩いてはいけません。我々は見張りに慣れているのですから大丈夫ですよ。』
ルフの言葉はいつも同じだ。

『コレ、嫌いか?』
それに対して答えのない俺はこんなずるい聞き方をする。

『いいえ。いつも美味しくて役得になっちゃってます。わぁぁ、今日はもしかして干し芋ですか?大好物です。』

素直で優しいルフの答えに少し頷きながら『じゃ、ご苦労さま。』と籠を渡した俺は足早に北門へと向かう。

いつまでも手を振ってくれるルフが少し眩しい。

北門の今夜の当番は、村長だった。
こちらは諦め顔で『寝不足でクマが出来てますよ。昼間は寝てください。
マツリも大盛況で毎日忙しいのですから。』

ど正論。
村長の通常運転には、叶わない。

『マツリは、村の人たちが頑張ってくれるからそんなに大変じゃない。でも、人の出入りが増えたから警備担当の村長たちの負担が凄いよな。』

企画をするのは、簡単だ。だが、それを実行に移すには沢山の人達の尽力が欠かせない。
根回しは得意だった。

はずなのに。今やコレだ。

『今夜もこんなに沢山ありがとうございます。大切にいただきます。』
無駄な事は言わない。一刻も早く俺を寝床へ戻すため、だ。

『いつも、ありがとう。』
少しばかり声が小さくなったが、聞こえたようだ。
村長の目が嬉しそうに細くなっていたから。

。。。明日は何を作ろうか。
良い夜はそのまま、何事もなく更けていった。


***  ジル視点 ***

ほー、ほー、ほー。
合図が鳴る。

これは、護衛を任された諜報部隊が使ったのだろう。

矢作様が動いたのだな。
今夜も見張りに軽食を差し入れするのだろう。

ほー、ほー、ほー。
次の合図か。では、矢作様は家を出たな。

そのタイミングでスキルを使って、村外へと急ぐ。諜報部隊が取り囲むこの村に侵入者などあるはずがない。

危険はない、なのに何故見張りを立てるのか。それは別の意味がある。

諜報部隊の能力は全く、疑っていない。

王の思惑こそが、最大の問題だ。

諜報部隊は王の直属。命令に逆らうことは無い。

だから、どう動かすかは未知数なのだ。
王にとって矢作様は国のための駒。

矢作様の外出は、ある意味その危険度を図る絶好の機会なのだ。
私のスキルを破れる者はココには居ない。

森の中に潜む諜報部隊との連絡内容を把握するために、今夜も足早に動けば。


『また、じゃがいも餅だぞ。』
『バカヤロウ。もう1品が見えないのか?!あの干し芋が今夜は付いているんだぞ!!あれこそが最高の1品だ。滅多に出ない秘蔵品が今夜の差し入れか。羨ましいな。』

『そうか、あれが干し芋か。それにしてもルフ殿は美味そうに食うな。』

『しっ!!北側に気配があるぞ!!』


その後、静まり返った森で1人佇む。

しばらくすると、ドンッ!と、音がした。

そした、またもや静まり返った。


どうやら、首都の商会からの手の者らしいが、既にベンが捕まえたようだ。
諜報部隊の話を粗方、耳にした後、今夜はここまでだなと見切りをつけ寝床へ戻る事にする。

スースースー。

部屋の中の静かな寝息に安堵しながら、温かさの残る寝床に戻った。
寝床での毎夜寝れる幸運を味わいながら。




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