備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず

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第2章 矢作、村を出る?!

俺らしいやり方で***ラッセル視点***

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『絶対許さないから。俺は俺のやり方で徹底的にやる。邪魔するなら村長でも』

『矢作様、私だって同じ気持ちです。しかし表立って敵対しては耐え抜いたラッセルさんの思いを踏みにじる気がして。』

ふふふふ。

矢作の低い笑い声が響いた。
部屋の温度は最適で、非常に過ごしやすい空間なのに何故な冷え冷えしている。
更に言えば矢作の笑顔つきだからか?!

『大丈夫。俺に任せて。』
自信満々に胸を叩く矢作。

その時、部屋の中の人間全ての心が1つになった(矢作を除いて)

その【大丈夫】ほど危険なモノはない。
心の呟きまで、全員一致していた。


ベットに横たわるラッセルさんの意識は未だ夢の中だ。
起きたら飲ませるつもりで
【い・ろ・は・す】が側机に置いてある。

異世界からの食べ物・飲み物が万能薬と同じと気づいて以来慎重な扱いだった。
それでも惜しみなく、矢作はラッセルさんの飲ませようと、それを出した。

医者の見立てでは、命に別条はないと言われたけれど、彼の身体についたいくつもの火傷の跡をみて決めた事だ。

更には、医者から火傷の跡はたぶん残るだろうと言われた。

腕にテンテンと残る火傷の跡。

これは紛れもない暴力。そして我々への宣戦布告だ。

『センパイほんき。オレもほんき。やるもきやる。それはいまだ。』

草薙の珍しい強気な発言に気持ちがひとつになり始めたその時。

『う、うん。。う。』

ラッセルさんの目が覚めた。



***ラッセル視点***


辺境

この世の中にある4つの辺境は、どの国にとっても最重要拠点。

ジワジワと迫る結界との境は、日に日に我々の世界を狭めている。

その辺境を護る者、その村。
彼らは、特別なスキルを持つ者を先祖に持つ者たちだ。
溢れる野獣と戦い、森を護る。
彼らあってのこそ。だからこそ、誰もが彼らに敬意を示す。

しかし、世の中は嫌な方向へ変化を始めた。手始めは辺境の村以外に野獣が出現したのだ。
近隣の住民にとっても、もちろん我々商団に属する者にとっても、一大事だった。
危険な街道が増え移動を制限される事は、商売人にとってあまりにも危機的状況だ。

その上、辺境の村ならばそのあまりの距離に辿り着ける者がどんどん減っていった。
それでも、誰かが必ず行かねばならない。

では、安全に移動するにはどうすればいいのか。
そのための方法は2つしかない。

武力を持つものを護衛にするか。
己自身がスキルや戦闘力を持つか。


私は後者だった。

私の家では、ごく当たり前に幼い頃から厳しい戦闘特訓をする。それは本当に容赦なく厳しいものだが、兄弟たちは皆、ひたすら努力の日々。
もちろん私も愚直に努力を重ねた。

しかし、結果は両親が期待する戦闘力を身につける事は出来なかった。
更には芽生えたスキルも約立たず。それを知った日、私は黙ってそのまま家を出た。

それが今、役に立っているから人生とは分からぬものだ。諦めた果てに、それを役立てる日が来るのだから。

東の辺境の村は、最も危険地域とされる場所だ。その危険度は日々上がる一方。

東の辺境の村を孤立させる訳にはいかない。それは我々商人の責務。
村長が途中まで迎えに行こうか、と何度も声をかけてくれた。

『大丈夫です。必ず私がここへお伺いしますから待っていて下さい。』
そう答え時の満面の笑みは、今も忘れられない。

求める人が居てこそ、商人。
どんなに間一髪の危機的状況が続いても、私だけは決して辺境の村への行商を諦めなかった。

しかし、それもある時に一変する事になる。

なんと辺境の村の救い主となる、矢作様の出現されたのだ。

彼が起こした事はあまりに多く、あまりに常識外れで一言では語れない。

その矢作様は、我々にとっても、大恩人。
街道の野獣を退治し、更には野獣が元に戻る。そんな奇跡まで起こったのだから。

だから。
絶対に裏切れない。裏切らない。
たとえ相手が五大家の息のかかるジーラン商会だとしてもそれは揺るがない。


飲まず食わずは、耐えられる。
しかし、水を掛けられて冷たい床の上では
暴力に耐えた身体にかなり堪える。

キツイが何とか粘って救を待たねば。

しかし、ジーラン商会の人々がここまで話が全く通じないとは思わなかった。現状を説明して理解を得るつもりが甘かったか。
しかし彼らは本当に理解しているのか?
我が商会の後ろ盾は王だという意味を。
しかも、東の辺境の村のお墨付きをもっている私に対してこの有様とは。

いや、矢作様が偉大なのだ。
何せこの国一番の大商団として君臨してきたあの【ジーラン商会】がこの体たらくだ。

冷たい床の上で取り留めなくそんな事を考えていたが、寒さのせいか意識は徐々に遠ざかる。
段々と寒さも既に感じなくなってきている。まずいな、と危機感を募らせていたら思わぬ方向から助けが現れた。


なんと、ルフさんだ。

西方の村出身のルフさんは、移動村として
辺境の地へとやってきた人だ。
高い戦闘力は、この国の騎士団にも滅多にお目にかかれないクラスだ。

頼もしい味方が来た途端、気が緩んでしまったらしく、そのまま意識が遠のいた。


✤✤✤


何か聞こえる。
誰かの話し声がする。


『♪→+〆×〒××***:×\9』

浮上しかけた意識の中で聞こえたのは意味不明の言葉。だが、直感が何かを告げる。

大切な話な気がする、と。

『許さない』

これは矢作様だ!!しかも怒っている?!

夢見心地の中にあっても、矢作様の言葉の意味は理解した。

目覚めなければ!!

夢見心地の中で、焦りもがく。
許さない🟰仕返しをする、だ。
違う。私がしたいのはそうではないのだ。
早く、早く起きなくては…。

瞼がピクピクと痙攣する。
思ったより重い瞼に悪戦苦闘しながらも、微かに開いた目に光が飛び込んできた。
久しぶりの光が。

『ラッセルさん、気がついたか?』
矢作様だ。
あまりに優しい声色は、先程までの矢作様の怒りが本当に単なる夢の中だったのかと思いたくなる。

しっかり目を開けて周りをみれば、村長始め皆の心配そうな顔が見えた。
ん?知らない人もいるな。

『ここは…』かすれ声が出た。

『ラッセルさん大丈夫だよ。ここは【跳馬亭】。この首都で最も安全地帯だから。』
村長が心配そうな目で覗き込みながら、そう言った。

ん?【跳馬亭】??
集合場所は確か…。

『矢作様ご推薦の宿屋だ。だから安全地帯だぞ。
おっと、自己紹介が先だったか。俺はギルドマスターのライだ。
この女性はここ【跳馬亭】の女将だ。我々は、矢作様側の人間だから安心してくれ。』

『ラッセルさん、まずはコレを飲んでくれ。』
矢作様がコップを差し出してくれた。
痛みの為に起き上がるのに時間がかかっていたらルフさんが助け起こしてくれた。

あぁ、まだ礼も言ってないな。
だが矢作様が差し出すコップが先か。

ゴクゴクゴク。

え?い、痛みが無くなった??

『や、矢作様。コレは。味のついた水なんて初めて飲みました。
。。。
えっ?身体の痛みが消えてる??』

『ラッセルさん、それは矢作様の故郷の食べ物です。』村長さんの静かな声に思わず叫び声を上げる所だった。

『や、矢作様!!そんな貴重なものを。』
慌てる私に矢作様が即答された。

『ラッセルさんより貴重な食べ物なんて持ってないよ。身体は大丈夫みたいだね。
うん、火傷の跡も消えてるし。』
満面の笑みの圧力に慄いていたら。

『奴らの主張は何だったの?もしかして俺の事かな?』
俯いた矢作様の少し弱々しい声。

『矢作様。これは国家反逆罪です。王様への明らかな反逆。
矢作様がに気に病まれることなど何1つございません。
貴方様がこの国に齎してくれた数々の恩恵への保護の為、我が商団についた後ろ盾なのです。
それに対して、ここまで軽く見るとはあまりに予想外。その愚かさを理解出来ずに後手に回りました。
ご心配をお掛けして本当にすみません。』
身体が全回復したせいか、早口になってしまった。

しかし後手に回ったせいで、矢作様にこんな心配をさせた自分に腹が立つ。

『それでも。例えそうだとしても俺は許せない。徹底抗戦の狼煙をあげるつもりだ。』

やっぱり、あれは夢の中ではなかった。
起き上がって正解だった。

『ありがとうございます。私の為にそんな風には思ってくださって。
しかし、今一度私にお任せ下さいませんか?商人には商人の戦いがございます。
奴らに【商い】とは何かを教えてやりたいと思います。』

矢作様の目が点になる。
私の言葉が予想外だったらしい。

私だって、怒っている。
痛かったし、正直恐ろしかった。果てしない暴力と向き合うなんて初めての事だったのだ(普段は倍返しにしているのだ。やられっぱなしなど…。)


しかし暴力でやり返しては、行商人として歩いてきた道に泥を吐くようものだと思う。


『ラッセルさん、いったい何を』
村長が驚いている。長い付き合いの中で、こんな風に私が怒る所を見るのは初めてなのだろう。


『商売とは信頼です。信頼のない所に商団など有り得ない。
彼らに商売とは何かを教えてやりましょう。』

パチパチパチ。

意外な所から拍手が起きた。

『ラッセルさん、いい。俺さんせせ。先輩もおなしおもう。てつたいしたい。』

草薙様。心強いお言葉だ。

『草薙の言う通りだな。少し頭に血が上っていたのかもしれない。ラッセルさん、商人としての戦いに我々も是非参加したい。
私も元商人なので手伝いますよ。
それと草薙。今夜も勉強な。』

悲鳴が小さく聞こえた気がしたが、誰も触れなかった。

『矢作様、草薙様ありがとうございます。
では、反撃開始といきますか?』

『では、お話がついたところで下の階にご馳走様を用意しました。まずは腹ごしらえからどうぞ。、』
女将の言葉に感謝して食堂に降りたら、本当に大ご馳走様だった。


なのに…。
3日絶食後だからと、私の前にはお粥とスープのみだった。

『絶食の後は、お粥から。これ俺たちの国の常識だから。』


拷問でも出なかったのに、ちょっとだけ涙が滲んだ。








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