貴方の思い描く、異世界とは違う物語が存在します。格好の良い勇者も魔王もいない世界の物語を綴った本棚にお越しください。

南悠

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眼に宿る何か

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「そろそろ、この職の辞め時かも知れないな。」

代々に渡り男は、この建物で警備担当をしていた。
この建物は城と違い、常時使用される物では無かく、今までは数年に一度の割合で、使用されて来たが、ここ最近の使用頻度のサイクルが頻繁になって来ていた。

今回は、特別使用の為で王様を始め、王族が詰め掛けて来た事から、大掛かりな事なんだろう。
屈強な騎士達も詰め掛けている。

何時もの様に、門前の詰所で待機していると、窓枠がビリビリと大きく振動してくる。
「あぁ!今回は魔力が巨大過ぎる様だ。」と何故か感じ取れた。
奥から大歓声が聞こえた後に、少し遅れて落胆と嘲笑の声が聞こえてきた。

男は、少し身構えてながら、奥に続く通路を覗き込んだ。

暫くすると、王様と談笑しながら、数名の男女青年達が現れて、馬車に相次いで乗り込んでは、城へと走らせて行った。

そして、部下がひとりの青年の腕を掴みながら、嘲笑の笑みを浮かべてやって来る。
「隊長。こいつは、無能との事で例のところ送りだそうです。・・・可哀想になぁ!」

青年の眼には恐怖が見えていたが、奥に得体の知れない何かが感じ取れた。
そして、ふと、先祖の残した文言が頭に浮かんだ。
「青年よ。可哀想だが、我々も仕事なんだ。命令には逆らえない。ただ、出来る限りの事は、俺の裁量で可能だ。」と伝えて、奥に入り簡易装備と剣そして、食料と薬草の入った袋と数枚の硬貨袋を与えた。
部下は驚き、青年は感謝を口にして放逐された。

部下には、口止めの為に幾ばくかの硬貨を与えて、俺は静かに帰路へと着いた。

書斎に籠り、先祖の残した文献を漁り、ひとつの文言から確信を得る。

これを読む者に継ぐ。
・召喚者多数の際には、必ず【無能】と呼ばれる者が出る。ワシは彼に聞いた。
【無能】は、彼の世界では、【チート】と言う化物スキルが隠されている。との事らしい。
彼らの世界では、その【無能】が、魔王を倒して、今まで馬鹿にした者、特に王族を滅ぼすと言う、らしい。
ワシの代では、後に彼は勇者として栄華を誇り、数名の王族が、生を失った。
くれぐれも、【無能】の人を馬鹿にするな。

男は、今日の青年を思い起こした時に、彼の眼に宿った何かに内震えた。
そして、静かに呟いた。
「そろそろ、この地を離れる準備が必要かな。あの仕事も、俺の代では終わるかも知れない。」
と寂しげな表情がローソクの火に照らされていた。


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